黎明の地に立つ
「……っ」
冷たく、しかし清涼な空気が肺を満たした。
土の匂い、草木の香り、そして遠くから聞こえる鳥のさえずり。
重いまぶたを押し上げると、そこには突き抜けるような群青色の空が広がっていた。
終は上半身を起こし、自分の手を見た。
血管が浮き出ていた枯れ枝のような手は、今は弾力のある、若々しい肌に覆われている。
立ち上がってみると、全身から力が溢れてくるのが分かった。視力も、聴覚も、かつてないほどに研ぎ澄まされている。
服装は、現世で愛用していた黒の三つ揃いのスーツ。
だが、その生地には見たこともないほど細かな魔力の文様が織り込まれ、物理的な損傷を一切受け付けない神聖さを帯びていた。
足元には、一振りの銀の杖。
「……若返った、というのは本当だったのだな」
終は苦笑した。
二十歳の若さ。だが、その瞳に宿っているのは、百二年の歳月を経て磨かれた、魂の深淵を見据える落ち着きだ。
ふと、自分の内側に眠る「力」を感じる。
死者の声を聞き、未練を視覚化し、安らぎの場を創り出す、亜神としての権能。
そして、どんな死も、どんな悲しみも、等しく敬意を持って包み込むことができる、葬儀屋としての心。
「さて……」
終は銀の杖を手に取り、地平線を見据えた。
ここは、彼の知らない魔法と剣の世界。だが、人が生き、そして死ぬ場所であるならば、どこであろうと葬儀屋のやるべきことは変わらない。
「私の人生の第二章。最初のお客様は、どなたでしょうか」
一歩、踏み出す。
百二歳の大往生から、二十歳の亜神へ。
異世界の風に黒いコートをなびかせ、結城 終の、終わりのない葬送の旅が始まった。




