完璧という名の檻
王都学院。そこは国中の才媛が集い、未来の賢者や将軍を輩出する最高聖域である。その広大な敷地の中でも、一際高い尖塔が聳える図書館の奥深くに、ローゼンベルク家の次男カイルはいた。
彼は学院で「鉄仮面」という異名で恐れられ、同時に崇拝されていた。常に全科目で筆頭、立ち振る舞いは一分の隙もなく、その端正な顔立ちには笑みも怒りも浮かぶことはない。だが、終の瞳に映るカイルの姿は、見るに堪えないものだった。
彼の魂は、数千、数万の細い鋼の糸で縛り付けられていた。糸の一本一本には「筆頭であれ」「高貴であれ」「母の期待に応えよ」という呪詛にも似た強迫観念が刻まれている。糸が皮膚に食い込み、魂からは血の代わりの魔力が滴り落ちている。
終は、誰もいない黄昏時の回廊で、資料を抱えて歩くカイルの前に音もなく立った。
「失礼、カイル殿。……少々、その鎧は重すぎるようにお見受けしますが。一〇二年生きた私から見ても、それは少し、悪趣味な仕立てですよ」
カイルは足を止めず、氷のような視線を終に投げた。
「……どこの馬の骨だ。私に気安く話しかけるな。私は忙しい。兄のような無能な穀潰しと話す時間は一秒もないのだ」
その声は極めて冷静だったが、抱えられた資料を握る指先が、白くなるほどに強張っているのを終は見逃さなかった。
終は懐から、ヴィンスに譲り受けた銀の天秤を取り出し、空中に静止させた。
「この天秤は嘘をつきません。右の皿には、あなたが積み上げた『輝かしい実績』を載せましょう。……さあ、左の皿にはあなたの『幸福』を載せてみてください。……おや、不思議だ。左の皿が、羽毛よりも軽く浮き上がっている。これではバランスが取れませんね」
カイルの足が止まった。彼の額に青筋が浮かび、周囲の魔力が急激に冷え込んでいく。
「……消えろ。その薄汚い玩具を私の前から退けろ。私は完璧だ。母上が望んだ通り、私はこの国の頂点に立つ人間だ。不幸せなはずがない!」
カイルの手から放たれた氷の礫が終を襲うが、終は銀の杖を軽く一閃させるだけで、それを春の夜風のように霧散させた。
「完璧、ですか。葬儀屋として数多の『完成した人生』を見てきましたが、自分を殺して作った完成品ほど、脆く悲しいものはありませんよ」




