墓前の再会と白百合の遺言
その夜、終は半ば強制的に、領主を第一夫人の墓前へと連れ出した。
「領主殿、あなたが街を完璧に整えるのは、亡き妻への『償い』のつもりでしょう。ですが、それはただの逃避です」
終が銀の杖を掲げると、墓標の周りに供物の顕現による、数千、数万の白百合の花々が瞬時に咲き乱れた。夜の闇を白く染め上げる、神聖なまでの光景。
そこへ、ヴィンスと、彼に寄り添う第二夫人が現れる。
「……私は、彼女がいなくなった家庭を見るのが怖かった。だから、街という大きな庭を育てることで、家の中の枯れた現実から目を逸らしていたのだな」
領主が震える声で告白し、ヴィンスの肩を抱いた。
第一夫人の霊が、ようやく穏やかな微笑みを浮かべた。彼女は第二夫人に向かって、静かに頭を下げる。それは「息子を、夫を、お願いします」という、託す者の仕草だった。
家族が互いの手を取り合った瞬間、第一夫人の姿は白百合の香りに溶けるようにして、光の中へと消えていった。
「……お代は、あちらの奥様から既に頂いております」
翌朝、終は礼を言う家族を背に、屋敷を去った。
鞄の中には、かつて現世で大切にしていた小さな数珠が一つ。
一〇二年の知恵と、二十歳の肉体。
「次は王都ですか。エリートの次男殿にも、この白百合の香りが届いていると良いのですが」
終は独りごち、銀の杖を軽やかに回しながら、朝日の中を悠然と歩き出した。




