愛執の解読
「彼女が成仏できないのは、あなたが『怪物』に成り果てようとしているからです」
終は固有能力:未練の解読を使い、第一夫人が遺した想いの断片を、ヴィンスの脳裏に直接流し込んだ。
溢れ出したのは、ヴィンスが記憶の底に封じ込めていた「温かな母の感触」だった。
不器用で、弟のような華々しい才能がなく、いつも父に認められようと空回りしていた幼い頃のヴィンス。母はそんな彼を、一度として否定したことはなかった。
『ヴィンス、あなたはあなたのままで良いのですよ。人を愛し、愛される人になりなさい』
その言葉を裏切り、平民を虐げ、選民思想という鎧を着込むことで、彼は「母が愛した自分」を殺し続けてきたのだ。弟への劣等感を隠すために、第二夫人を母の代わりとして認めず、徹底的に無視することで復讐していたのだ。
「彼女は、あなたが自分自身を憎み、孤独な死へ向かうのを止めるために、この酷寒の地のような屋敷に留まり続けていた。……葬儀屋として申し上げます。死者にこれ以上の供物を強いるのは、非道というものです」
ヴィンスは声を上げて泣き伏した。自分の傲慢さが、誰よりも愛したかった母をこの世に縛り付けていたという事実に、彼は子供のように慟哭した。
終はその背中を冷たく、しかし確かに見守りながら、次なる「仕事」のために視線を領主の執務室へと向けた。




