止まった時計
「失礼いたします。旅の葬儀屋、結城 終と申します。……この屋敷に、彷徨える香りが残っていたもので、立ち寄らせていただきました」
終が応接室に招かれると、そこには青白い顔をした第二夫人が、震える手で茶杯を握っていた。彼女はこの五年間、亡き先妻の影と、荒れる継子、そして自分を見ようとしない夫の間で、精神を磨り減らしていた。
そこへ、苛立ちを隠そうともしないヴィンスが乱入してくる。
「葬儀屋だと? 貴様、誰の許可を得てここへ入った! 死者など、この家にはおらん。不吉な詐欺師め、今すぐ叩き出してやる!」
ヴィンスが終の胸ぐらを掴もうと手を伸ばすが、終は二十歳の瑞々しい身体能力を微塵も感じさせない、老練な足運びでそれをかわした。
「いいえ、ヴィンス殿。……死者は、今もそこに座っていますよ」
終が銀の杖を床にコツン、と突くと、固有能力の一端である『霊的視覚の共有』が強制的に発動した。
ヴィンスと第二夫人の悲鳴が重なる。部屋の隅、一輪の萎れた白百合が活けられた花瓶の傍らに、透き通った女性が立っていた。五年前、病でこの世を去った第一夫人だ。
「……母、上……? なぜ、なぜそんな悲しい顔で私を……」
ヴィンスの足が震え、その場にへたり込む。彼は、自分が《《高貴な長男》》として振る舞うことこそが、亡き母への忠誠だと信じ込んでいた。だが、目の前に現れた母の霊は、彼を誇るどころか、その魂の汚れを嘆くように、静かに涙を流していた。




