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国境の不協和音
結城 終は、疫病の危機を脱した国境の町を後にし、さらに西へと歩みを進めていた。
街道の空気は重く、肌を刺すような魔力の残滓が漂っている。百二歳の人生経験と亜神の直感は、この先に待つのが穏やかな死ではないことを告げていた。
「……死者を尊ばぬ術理の臭いですね」
終は銀の杖を軽く突き、立ち止まった。
街道の脇、ひっそりと佇む古い墓苑が荒らされていた。墓石はなぎ倒され、土は掘り返されている。そこにあるべき遺体は、一つとして残っていなかった。
「命の幕引きを汚し、無理やり舞台に引き戻す……。それは、葬儀屋として看過できることではありません」
その時、背後の藪が大きく揺れ、数人の男たちが飛び出してきた。
それは前回の街道で遭遇した、隣国の工作員たち――だが、その様子は異様だった。瞳からは理性が消え、肌は土気色に変色している。
「……やはり、生きてはいないのですね」
彼らは、前回の戦いで終が「眠らせた」はずの男たちだった。隣国の魔導師は、任務に失敗した配下を自らの手で殺害し、さらに死霊術によって「生ける屍」として再利用したのだ。




