帰還の引導と約束の配達
終が奏でる鎮魂歌の調べに乗せて、水兵たちが一人、また一人と透明なグラスを掲げた。
「……おい、この酒、味がするぞ」
「本当だ。……生きているみたいだ」
航海士は、手にしていた黄ばんだ手紙を終に差し出した。
「葬儀屋、……いや、結城殿。……これを、届けてはくれないか。宛先は、港町の時計塔の裏にある、小さなパン屋だ」
「承りました。葬儀屋の名誉にかけて、必ず」
終が銀の杖で甲板を三度叩く。
「これにて、任務完了。……さあ、皆さんの家へ還りましょう」
船全体が、まばゆい光に溶けていく。
「「「敬礼!」」」
水兵たちの力強い声が、霧を晴らすように響き渡り、やがて光の粒となって空へと昇っていった。
朝の光が差し込む頃、海の上にはもう、一隻の幽霊船も、漂う未練も存在しなかった。
終は港町に戻り、航海士から預かった手紙を携えて、時計塔の裏へと向かった。
そこには、腰の曲がった老婦人が、一人でパンを焼いていた。
「……これは?」
老婦人が手紙を受け取ると、その震える指が、四十年前の婚約者の筆跡をなぞった。
「あの子……やっと帰ってきたのね。……ありがとう、死神様」
「いいえ。私はただの、葬儀屋ですから」
終は一礼し、店を後にした。
鞄の中には、お礼にともらった温かい林檎のパン。
若々しい足取りで、百二歳の心を持つ男は、また次の弔いを探して、朝靄の街道を歩み始めた。




