プロローグ
初投稿です。よろしくお願いします!
ダークファンタジー、学園ラブコメ、アクション(?)要素を織り交ぜながら、物語を広げていくつもりです。
——これは、誰の記憶だったか。
他人の見たつまらない夢だったような気もするし、随分前に忘れてしまった、大切な自分の記憶だった気もする。
気づけば、世界は紫色の靄に包まれていた。
何ひとつ変わらないはずだった、退屈な日常の一コマが、突如として現実の相を失った。
あらゆる実体から彩が剥がれ落ち、無価値なオブジェクトへと成り下がった。
あたかも街を歩く人々がすべて蜃気楼により生み出された幻影であったかのように。
はなからこの世界すべてが虚飾であったかのように。
——そうだ、きっとこれが、すべての”始まり”だったんだ。
朧げな自意識の中で、ふと悟る。
忘れかけていた記憶の欠片が、ようやく元の位置に戻ったような、そんな快感。
その瞬間、胸の奥で確かに”何か”が脈打った。
——ああ、そうか。あの時……
黒い”何か”が、空の隙間からにじむように現れた。
空間が揺らぎ、音さえ置き去りにするように、”それ”はこちらへ迫り来る。
足も、腕も、僕の命令を拒むかのように、凍り付いて動かない。
死を覚悟した、その時。
僕は何かに突き飛ばされた。
「……!!」
声にならない叫びが喉を裂く。
それは誰かの名前だった気もするし、ただの悲鳴だった気もする。
視界の端で、半身を”闇”に喰われた彼が微笑む。
笑っているような、泣いているような、そんな顔で。
それが——僕が彼を見た最後の瞬間だった。
瞬きをしたその刹那、紫色の景色が、ガラスのように砕け始めた。
音も、感覚も、全てが崩れていくその中で、
意識が無理やり引き裂かれて——
「おーーーきーーーろおおーーーーッ!!」
「うああああああああああああああ!!!」
僕は飛び起きた。途端に何かにぶつかる。ゴツンッ、という鈍い音。ガンガン痛む額。横を見ると、そこには、額を抑えながら涙目で顔をしかめる幼馴染がいた。
艶やかな黒髪のセミロング。
朝の日差しに揺れるその髪の先に、ぴょこんと跳ねたアホ毛が一筋。
……よく見るとそのアホ毛、痛みに反応したのかプルプル震えている。
「いったーい!!いきなり起き上がらないでよ!!っていうか、大きな声出さないで!びっくりするじゃない!」
「それはこっちのセリフだ!!なんだよ、こんな朝っぱらから」
「なんだよ、じゃないわよ!!まだ寝ぼけてるの? 今日から学校でしょ!?もう春休みは終わったのよ!まさか忘れてたんじゃないでしょうね??」
ん……?
霞む目を擦って、ぼやける視界でスマホを見る。
4月6日(金)午前8時20分。天気:晴れのち雨
なんだよ、晴れのち雨って。せめて曇りのち雨だろ………って、
「うああああああああああああああ!!!」
「っ!なんなのよ!!いちいち大きな声出さないで!!」
「遅刻じゃねえか!!はやくそこどけ!!」
急いで支度をする。っと、その前にこいつを追い出す。何やら文句を言う声が聞こえるが、気にしない。
幼馴染のこいつ――見崎雫は、隣の家に住む同級生だ。去年、母さんが仕事で海外に赴任してから、いつもこうして勝手に家に上がり込んでくる(どうやら母さんが合鍵を渡したらしい)
見ての通りのお節介だが、なんだかんだ僕の生活が雫に助けられていることは事実だ。
「……なにか悪い夢でも見たの?あんた、すごい顔してた」
床に落ちてた、しわだらけのシャツを手にしたとき、ドア越しに話かけられた。
「何でもないよ。朝っぱらから爆音を出すガサツ女に頭突きされた夢を見ただけ……って、冗談だよ冗談。そんな殺気放つなよ……」
茶化したが、実際は僕も気になっていた。ぐっしょりとした汗、焼けるように渇いた喉。なぜ僕の心はこんなにざわめいている?朝目覚めた瞬間に、胸の奥でなにか大切なことを想いだした気がした。開いてはいけない扉の鍵を見つけた気がした。あれは一体……
思い出そうとすればするほど、その何かが深い霧の中へと消えていくようだった。
そうして考えていると、ドアの隙間から顔がひょっこり出てきて、
「どうしたの?怖い顔して。もしかして、春休みの宿題まだ終わってないの?!」
そんなバカなことを言われる。春休みに宿題なんて無い。
まあ、今はいいか。こいつに心配なんてされたくないからな。それに……
それに、僕自身、何の夢を見ていたか、全く記憶になかった。
「うそ〜、クラス別じゃん。最悪なんだけど〜」
「え、○○先生が担任!?クッソ大当たりじゃん!」
「マジで?アイツとまた一緒なんだけど、地獄〜」
「やった!今年も○○さんと同じクラスだー!」
新学期の風物詩。掲示板の前は、歓声と落胆の声で溢れていた。
「おはようございます」
僕は守衛さんに笑顔で挨拶をする。校門のすぐ側に咲く桜の木は、春のうららかな風に靡き、桃色の雨を降らせていた。やっぱり、春っていいな。夏祭りだって、クリスマスだって、いつの間にか”ありきたりなイベント”になってしまうが、春は違う。毎年、期待と希望、それから少しの不安を乗せて、優しく僕らを迎えてくれる。
「あんた、学校だとずいぶんキャラ違うわよね。家でもそんな感じなら、少しは可愛げあるのに」
突然そんな言葉をかけられる。せっかく情緒に浸っていたのに、台無しだ。
「るっせえ!第一、挨拶は人間として当たり前の行為だろ?」
「それはそうだけど……なんか、キモい。」
「なッ!キモイだと?!そういうお前はどうなんだよ?家じゃあんななのに、学校じゃ猫被りやがって!」
「わたしはいいの。これでも学年トップレベルの学力を誇る優等生よ?優等生には、優等生らしい振る舞いがあるのよ。」
そう言って、雫はドヤ顔で無い胸を精一杯に張った
そこには、誇れるほどの“高低差”はない。綺麗な地平線。
なのにアホ毛だけは得意げに跳ねてるのが、妙に腹立たしい。
「ぐぬぬ…….」
悔しいが、言い返せない。
到底信じられないが、いくら勉強しても、こいつには敵わないのだ。たぶん死神か何かと契約して、ガサツな性格と引き換えに学力を授かったに違いない。
「ふっ、悔しいなら、次の学力テストでわたしを超えてみなさい?」
こ、こいつ……性格終わってやがる……!
そんな他愛もない会話をしていると、目の前から長身のイケメンが近づいてきた。
「おーっす!!何だよ辛気臭い顔して。今日から新学期だぞ??新学期と言えば、出会いの季節!!あ~遂に俺の前にも運命のカワイ子ちゃんが現れるかも……!!」
そう言って、眩しいくらいの笑顔で俺の肩をガシッと抱えてきた。暑苦しい。
「辛気臭いとかカワイ子ちゃんとか、そんなオッサン臭い言葉使うなよ。お前に彼女ができない理由、絶対それだぜ?」
「な~にを言ってるんだ!!ダサいだの時代遅れだのと言われながらも積み重ねてきた歴史、俺はその背景に心を打たれて敢えて古い言葉を使ってるんだ!お前なんかに分かってたまるものか!!」
……いや、威張って言うことじゃないだろ、それ。
「んもう!!お兄ちゃん、いい加減にしてよ……恥ずかしいから声を落として。オッサン臭すぎて、学内に不審者が侵入したって通報されちゃうよ!!」
「辛辣だな!!わが妹ながら酷すぎやしないか?!」
そう言って大げさに肩を落とす。冗談めかしているが、かなりショックを受けたようだった。この春休みでシスコンに磨きがかかっている……
こいつは見崎新。雫の双子の兄だ。二卵性双生児とはいえ、見た目は全く似ていない……まあ、あつかましく突っかかってくるところは滅茶苦茶似てるんだけどな。
「そういえば、俺ら全員同じクラスだったぜ?」
新が言う。こちらを向いて、雫に見えないように親指を立ててくる。どういう意味だ、それ?
「うぇ~。最悪。お兄ちゃんと同じクラスだなんて、信じられない…….!」
「!?」
「関係者って思われたくないから、学校にいる間は絶対に、”絶対に”、近づいてこないでね!!」
「ッ!!?」
嬉々とした様子から一転、突如絶命した新を放置して、雫がこちらを振り向く。
「今年もよろしくね、朔夜!」
太陽を背に、少しだけ顔を逸らしてはにかむ姿に、ちょっとドキッとした。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
今週末には第一話を公開したいと思ってます。
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