第5話:はじめての笑顔
ライアが戻ってきたのは、夜明け直前だった。
霧は晴れ、木々のあいだから薄明かりが差し込む。カイルは火の落ちかけたストーブの前で、まどろみながら彼女を待っていた。
「ただいま」
その一言に、カイルははっと目を覚まし、すぐさま立ち上がった。
「無事でよかった!」
心から安堵したその声に、ライアはほんのわずか眉を下げた。
「気配だけだった。足跡も、瘴気も薄い。すぐに遠ざかったようだ」
「でも、確認しに行ってくれたことが、僕は・・・嬉しいです」
カイルが差し出したのは、湯気を立てる木の椀だった。薬草と根菜を煮込んだ、彼の“夜明けのスープ”。
「徹夜で作ってました。いや、眠れなかっただけなんですけど」
ライアは椀を受け取り、ひとくち啜った。体に染み入るような温かさ。味に派手さはないが、心が解ける。
「悪くない」
それは、彼女にとって最大級の賛辞だった。カイルが笑う。
その笑顔に釣られて、ふいにライアの口元にも変化が生まれた。気づけば、唇の端がほんの少しだけ、柔らかく上がっていた。カイルは目を瞬かせた。
「いま、笑いました?」
「笑ってなど──」
「うそです。絶対、今、笑いましたよ。初めて見た!」
ライアは思わず視線を逸らしたが、否定はしなかった。頬に、ほんの少しだけ熱が宿る。
「くだらないことで、騒ぐな」
「はいはい。じゃあ、次はちゃんと“もっと”笑わせますから」
彼のその軽口が、なぜか嬉しかった。
朝の光が差し込む小屋の中、ライアの心にも、夜明けが訪れようとしていた。