第4話:闇の気配と、左手の痛み
それは、ある夜のことだった。
ストーブの火が静かに揺れる小屋の中、ライアは左手──義手ではない方の掌に、じんわりとした痺れを感じていた。
近ごろ、戦士だった頃の古傷が疼くことが増えていた。義肢に負担をかけすぎているのだろうか。それとも、森の空気に何か異変が?
ふと、窓の外を見た。夜霧の向こうに、見慣れぬ影が揺れていた。
静かに立ち上がったライアは、木刀ではなく、昔の短剣を手に取る。義手を冷やしながら、呼吸を整える。
「カイル。起きているか?」
「はい・・・なんだか、眠れなくて」
彼はストーブの前で湯を沸かしていた。薬草茶の香りがほのかに漂う。
「この辺りに、魔物が近づいているかもしれん」
その一言で、カイルの表情が変わる。
「ライアさんは?戦うつもりですか?」
「戦うというより、確認だ。万が一、私が戻らなかった場合」
「言わないでください」
カイルの声は、静かだったが強かった。
「僕、まだライアさんの料理、習ってませんから」
その言葉に、ライアはわずかに目を見開いたあと、口元を緩めた。
「なら、すぐ戻ると約束しよう」
ライアは夜の霧の中へと消えていった。義足が土を踏む音だけが、しばらくのあいだ、小屋のまわりに残っていた。
カイルはストーブの火を見つめながら、小さな鍋を取り出した。
不安を煮込むように、静かにスープを作り始める。
その夜、ふたりの鼓動は、離れたまま、同じリズムを刻んでいた。