第2話:最初のスープ
朝の光が森を照らし、湿った木々の間に差し込んでいた。
小屋の中、ストーブの火はまだ赤々と灯っている。カイルはすでに起きており、鍋の中を覗き込んでいた。
「あー、惜しい。これ、塩を入れる前にローリエを先に入れてるでしょ?」
彼の指摘に、ライアは眉をひそめた。「味を見ずに分かるのか」
「鼻が利くのが取り柄なんです。あと、勘と経験」
ライアは腕を組み、カイルの隣に立った。鍋の中には、昨夜の残りの野菜スープが煮詰まっている。彼はそれに刻んだ香草とパンの欠片を加えていた。
「これで、クルトンスープの完成。食べてみて」
カイルが差し出したスプーンを、ライアは無言で受け取る。ひとくち。
やさしい味だった。薬草の苦味がほんのり残りながらも、喉を通ったあとに、芯に残るような甘さ。
「・・・悪くない」
「合格、ってことでいいですか?」
ライアはふいに笑いそうになり、唇を引き結んだ。
「合格ではない。ただ、毒味にしては飲みやすかった」
カイルがむくれた顔をしたあと、ふっと笑う。
「まあ、いいか。今日から何日か、お世話になります」
「帰る場所はあるのか」
「うーん、旅の途中なので。行き先はあるけど、今は足を痛めてて・・・」
確かに、彼の足には包帯が巻かれていた。転倒か、捻挫か。それならすぐには動けまい。
「数日なら構わん。だが、騒がしくするな」
「もちろん!」
元剣士と料理人の共同生活が、静かに幕を開けた。