最終話:銀の手と温かな明日
春が深まり、森には色とりどりの花が咲き始めていた。小屋の前では、ライアとカイルが小さな立て看板を立てていた。
『本日開店 森のスープ屋』
「本当に、はじまるんですね・・・」
「口だけで終わらせてはならないと思った」
ライアの義手には、新たに装飾が施されていた。鍛冶屋の村人が手伝ってくれた細工で、指先は料理用に改良され、関節も滑らかに。
その手で鍋をかき混ぜ、皿を並べる。
小さな木製のテーブルが二つ、丸太を並べた椅子。客はまだ二人だけ──森を抜けて来た旅人と、近くの村の老夫婦。
だが、静かであたたかな空気が流れていた。
「おいしい・・・涙が出そうだ」
老婦人の言葉に、ライアは照れくさそうに視線を伏せる。
カイルが肩を寄せるように囁く。
「きっと、ライアさんの想いが味になってるんです」
その言葉に、ライアはそっと彼の手を握った。
銀の義手が、今は確かに彼の指を包み込んでいる。
「私がここにいる理由。やっと見つけた気がする」
「一緒に見つけたんです。ふたりで」
鍋の中から立ち上る湯気は、森の風に乗ってふわりと広がっていった。
ふたりの物語は、今日も静かに続いていく。
おわり
最後までお読みいただき、ありがとうございました。いつもとは違って、大きな事件が起こらない、静かなストーリーを書いてみました。