第11話:二人の台所戦争
その朝、小屋には珍しく騒がしい声が響いていた。
「違う! そこはローズマリーじゃなくて、タイを使うべきなんです!」
「味の流れを崩すのはどっちだ、タイでは香りが強すぎる」
ライアとカイルが向かい合い、まな板を挟んでにらみ合っている。きっかけは、朝食のメニューを決める過程での些細な意見の違いだった。
「・・・これが“戦争”か」
カイルがぼそりと呟き、ライアが肩をすくめる。
「戦場よりは平和だ。だが真剣勝負だ」
ふたりは譲らず、ついには“それぞれ自分の一皿を作って食べ比べる”ことに決まった。
キッチンはふたりの手際の良さで同時進行の状態に。香草の香り、ベーコンの焼ける音、野菜を刻むリズム・・・しかしその中には、どこか楽しげな気配があった。
「ちょっと焦がした?」
「・・・気のせいだ」
完成した二皿をテーブルに並べる。カイルの提案による“試食会”の結果は──
「どっちも、悪くない」
ライアがそう言って笑い、カイルも満足げに頷いた。
「こうやって、一緒に作って、ぶつかって、でも最後は笑える。きっとそれが、僕の求めてた“家”なんです」
ライアは少し驚いた顔をしたが、すぐに目を伏せて静かに答える。
「それなら、私もこの家にいる意味がある」
台所に漂う香りと笑い声。“戦争”と名付けられた朝は、ふたりにとって、また一つ絆を深める時間となった。