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095 悪魔の競技

 (おもり)の収まったバックは当然ながら重かった。


 背中を大地に向けて引っ張り倒そうと、常に一定の力を掛けてくるから、わたしはそれに抗うことを求められた。そうして姿勢を正しているのは結構たいへんで、その反作用で体力がつくのも当然に思える。

 それに留まらず体力づくり以外にも足腰の筋肉が鍛えられるのだから一石二鳥だろう。


 そう思ったわたしはふとおじさんを見た。


 重厚な剣を携えながらも歩いている。長年そんなことをしているから、こんなにムキムキになったのだろうか? であればわたしもいつかはおじさんみたいに……


「いやないない!」


 おぞましい想像にかぶりを振っていると、前を歩く2人が振り返った。


「なにがないんだ?」


 おじさんの問いかけによって、声に出してしまっていたのだと知る。わたしは慌てて「なんでもないよ」というものの、それが儚い努力であることをわたしはよく知っている。

 

……案の定、おじさんは口角を意地悪そうに吊り上げていて――


「馬車が来ましたよ」


 フェアさんが警告を耳にしてわたしたちは足を止める。


「悪いねー」


 御者さんが軽く手を挙げながら馬車を横切らせていく。何となくそれを見送っていると、(ほろ)に囲われた荷台に見慣れた3人組の姿があった。


「あ、ロイドさん!」


 呼び掛けると向こうも気づいたようで、律儀にも車を止めて降りてきた。


「おはよう、リーベちゃん。それにみなさんも」

「おはようございます。これから冒険ですか?」


 問い掛けると、うつらうつらと歩いてきたボリスさんがこう答える。


「ふぁ……他になにがあるんだ?」

「あ……ふふ。それもそうですね」

「何と戦うんだ?」


 おじさんが問うと、朝日を頭頂に(ひら)かせたバートさんが答える。


「ミラージュフライですよ」


 するとフェアさんがロイドさんの方を見て言う。


「ミラージュフライとの戦闘は魔法使いが要になりますから。頑張ってくださいね?」


 先輩の激励を受け、彼は威勢よく「はい!」と答えた。


「それじゃ、俺たちはこれで」

「お気をつけて」


 手を振って見送ると、彼らは馬車に乗り込み、陽気に手を振り返してくれた。

 そうして彼らが北門に向かっていくのを見送っていると、わたしは同業者として彼ら見送っているのだと気づき、なんだか不思議な心地になった。




「ダイマ!」


 バゴンッ! と空を蹴散らすこの魔法は私にある種の快感をもたらしてくれた。しかし忘れてはならない。これは魔物と戦うための訓練であって、遊びではないのだ。


……そう自分に言い聞かせても、やはり楽しんでしまうわたしがいる。だめだな……


「ふう……」


 額に浮いた汗を拭っていると、「お疲れ様です」と労いの言葉と共にフェアさんが歩み寄ってくる。


「どうですか、わたしのダイマは?」

「完璧ですね。この分ならもうこの訓練は必要ないでしょう」


……と彼は言うが、実際、訓練は必要だ。しかし、ことダイマに限っては事情が違う。

 炸裂時に大音量の爆発音と衝撃波を辺りに散らすため、一帯の生態系を思えば、おいそれと使用するわけにはいかないのだ。


……そんな事情は理解していたが、楽しみを奪われるようで、残念でならない。


「おや、残念そうですね?」


 フェアさんにしては珍しく、悪戯っぽい言い方だった。


 それはそうと、近所迷惑な爆裂娘だと思われては堪らない!


 慌てて訂正する。


「そ、そんなことはありませんよおっ?」

「ふふ、そうですか」


 穏やかに笑うと「さて」と手を打ち鳴らす。


「魔法の基礎が出来上がったことですし、今回からは魔法の訓練に加え、体力づくりもしましょうか」

「体力づくりって、錘はちゃんとリュックに入れてきましたよ?」

「錘をリュックに詰めるのは、どちらかと言えば体幹を鍛える為のものですから、それとは別に、体力作りに特化した訓練を行わなければなりません」

「なるほど……それで、これからはどんな訓練をするんですか」

「往復持久走です」

「おーふくじきゅーそー?」

「ええ」


 フェアさんは手頃な枝を拾うと地面に線を引き、20メートルほど離れた場所にもう1本、先ほどの線に対して平行になるように線を引く。


 それを見て、わたしはこれから何をやらされるのか、おおよそ理解し、(おのの)いた。

 

 そして振り返った彼の穏やかな笑みが、どこか恐ろしいものに思えた。

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