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093 訓練の終わりに

 心地よい疲労感に包まれながら坂を上っていると、おじさんが上機嫌に言う。


「さすがにもうこの坂くらいじゃへこたれねえか」


 その言葉に対し、わたしは高い位置にある顔を見上げながら胸を張って答える。


「ふふんだ! もう2回も冒険に出てるんだから、このくらいなんともないよ!」

「そうかそうか! なら明日からは錘を持たせっかな」

「え、おもり?」


 一瞬、耳を疑ったが、おじさんは平然と続けた。


「そうだ。往復するついでに足腰を鍛えられるんだから儲けもんだろ?」

「……ちなみに何キロ?」

「最低でも5キロだ」

「そんな! 無茶だよ!」

「無茶で結構!」


 そう言い切るとおじさんは実感を込もった言い方で続ける。


「何事もちょっと過酷なくらいがちょうど良いんだよ。慣れは怠惰の始まりだからな」

「確かにそうかもしれないけど……」

「フェアだってリュックに20キロの錘を入れてんだぜ?」

「え、そうなんですか?」


 振り向くと、彼は穏やかな顔で頷いた。


「魔法使いといえど、やはり体が資本ですからね。むしろ我々こそが体を鍛えるべきなのかもしれませんよ」

「? どういうことですか?」


 私の問いに対し、彼は問い返してきた。


「リーベさん。魔法使いの役割とは」

「あ、ええと、剣士を支えることです」

「そうです。なれば、私たち魔法使いが剣士よりも先に力尽きることがあってはならないのです」

「なるほど……体力がなくなっちゃったら、護れるものも護れませんからね」

「そういうことです。まあ、リーベさんは初めてですし、錘については3キロくらいから初めるとよろしいでしょう」

「わかりました」


 了解し、話が終わると視界が広がった。それによって、わたしの前で先輩が深くうなだれ、幽鬼のような怪しい足取りで歩いていることに気が付いた。


「フロイデさん。さっきから静かですけど、具合でも悪いんですか?」


 すると彼は3日砂漠を彷徨った人が水を求めるような声で言う。


「おなか、すいた」

「なるほど……」


 なんともフロイデさんらしいや、そう思っているとおじさんが言う。


「コイツも少しずつ運動量を増やしてるからな。あんなみみっちいもんじゃ足りねえんだろうよ」

「確かに……干し肉とかじゃあまりお腹は膨れないよね」


 と、その時、わたしは大事なことを思い出した。


「あ、そうだ。おじさんたちは今晩用事あったりする?」

(やぶ)から棒だな。まあ、ねえけど」

「ならよかった。あのね、今日はお店が定休日だからみんなを晩御飯に招待してきてって、お母さんが――」

「ほんと……!」


 フロイデさんは息を吹き返したように溌剌とした瞳を向けてくる。その圧に押されつつも、わたしは頷いた。


「は、はい。フロイデさんたちが良ければ、ですけど」


 すると彼はおじさんの方に振り向いた。


「行くよね?」


 無邪気に問いかけられると、おじさんは意地悪く口角を吊り上げ、「行かねえよ」と言った。


「なんで?」


 そう問いかける声にはおねだりが通じなかった少年のような悲愴を浮かべていた。これにはさすがのおじさんも耐えかねたようで「冗談だよ」と早々に撤回した。


「じゃあ行くの?」

「ああ――フェアもそれでいいだろ」 

「ええ、もちろん」

「つーことだ、シェーンにもそう伝えといてくれ」

「うん」


 そうこうする間にテルドルに帰り着いた。


 例によってわたしたちは東門前の十字路で別れ、それぞれの拠点に帰っていった。

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