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092 魔法の継承

 今日も今日とてわたしたちは練習場にやって来ていた。目的はもちろん鍛錬のためだ。


 さあ、今日も頑張って魔法を身につけるぞ!


 そう張り切ったわたしだが、今日は何やら、別の事柄から入るらしい。


「リーベさん。セロン村の村長さんのお話の中で、冒険者が魔物の異変を発見し、友呼びの笛を用いてギルドに伝えた、と言っていたのを覚えていますか?」


 指導役であるフェアさんは少年学校の先生のように整然とした口調で問うてきた。わたしはこれに頷いて答える。


「友呼びの笛にそんな使い方があったなんて知りませんでしたから、よく覚えてますよ」

「そうでしょう。友呼びの笛の主な役割はソキウスを呼び出すことですが、それだけではありません。お話にもあったように、異変を伝えたり、救助を求める際にも使われます。ですので今から、リーベさんにもこれを覚えていただこうと思います」


 言い終わると彼はローブのポケットからホイッスルを2つ取り出し、内ひとつを差し出してくる。


 木でできたそれは滑らか質感をしていて、振ると内部でボールがカラカラと音を立てた。


「それでは早速始めましょうか」

「はい、よろしくお願いします」




 それからしばらくわたしは笛を吹き続けた。時に長く吹き込み、時に短く叩くように吹くこともあった。それを繰り返すうち、わたしの耳の奥に危急を告げる音が焼き付くのを感じた。


「テストも無事終わった事ですし、一度休憩して、それから魔法の鍛錬に入りましょう」


 先生の指示に従い休息を取ると、魔法の練習が始まった。


 魔力操作から始まり、ファイア、メガ・ファイア、そしてアイスフィストと、基本となる魔法がちゃんと扱えているかチェックされる。もちろん完璧にこなせる自信があったし、実際に完璧と評された。


「ふん、このくらい楽勝ですよ!」


 胸を張ってみせるとフェアさんはくすりと笑い、提案する。


「おやおや。ではリーベさんに満足していただけるよう、新しい魔法をお教えしましょうか」

「新しい魔法ですか!」


 わたしはワクワクのあまり、声を大にして聞き返してしまった。これを彼は微笑みで受け止めると魔法の名を告げた。


「今回の冒険で見せたダイマという魔法を覚えていますか?」

「はい、あの爆発する奴ですよね?」

「そうです。以前も説明したとおり、この魔法は大きな音を立てたり、障害物を排除したり、はたまた空飛ぶの魔物を叩き落したりするのに使われます」

「叩き落す……」

「それだけ強力な魔法であるということはメガ・ファイア同様、たいへん危険であるということです。私が監督している以上、ケガはさせませんが、リーベさんも十分に気を使ってください。いいですね?」


 そこまで厳重に注意されると、なんだか恐ろしくなってきた。


「ごくり……わ、わかりました……」

「そう硬くならずに。ただほんの少しばかり気を配れば良いのです。さあ、早速始めましょう」


そう言って的を示そうと手を持ち上げるが、ふとこちらに向き直った。


「――と、その前に。リーベさんは初めて魔法を教わった際、どのようにして習得しましたか?」

「ええと、ヴァイザー法……でしたっけ、あれで感覚を掴んでから繰り返し、練習しました」


 するとなぜか、彼は気恥ずかしそうな表情を見せたが、それも一瞬のことだった。


「こほん。そうでしょう。あれは実に簡便な方法ですから。今回もそれを使いますが、その際、少なからず肌に触れるのでどうか悪しからず」

「ふふ、そんな畏まらないでください。わたしとフェアさんの仲じゃないですか」


 そう返すと彼はくすりと笑った。


「それもそうですね。では早速始めましょうか」


 言いながら彼は両手のグローブを外した。


一方でわたしは左手だけを素手になった。右手でスタッフを保持すると、左手は開いて手の平を上に向ける。するとフェアさんがが背後に来て、右手でわたしの首筋をそっと掴み、左手でわたしの手を握りこんだ。


 魔法を知らない人からしたらさぞかし奇妙な光景に映るだろうが、この構えがヴァイザー法の肝なのだ。


「スタッフを空へ向けてもらって――そうです。それでは魔力を流しますね」

「はい」


 返事をすると。首の後ろと左手がぞわぞわしてきた。これは彼の魔力がわたしに流れ込んでいる証であり、これから魔法が発現する予兆でもあるのだ。


「ではいきます――ダイマ!」


 スタッフに取り付けられた珠が輝いたかと思えば、光の雫とでも表現すべきものが宙に舞う。それはわたしたちから30メートルほど離れた場所まで飛翔し、弾ける。


 バゴオオオオオオオオオオオオオオンッ!


 その爆音に森がざわめき、小鳥たちが木々の梢から飛び立った。

 なんだか申し訳なくなってくるが、生憎と、わたしはこれから何発もこの魔法を撃ち込まなければならないのだ。


「もう1発いきます――」

 



 それからわたしたちは何度も放った。そのたびに森の住民に騒音をもたらしたわけだが、おかげでその感覚を焼き付けることができた。


 そして今、わたしはフェアさんが見守る中、その成果を披露しようとしている。


 両手でスタッフを保持し、体に焼き付いた感覚を呼び起こす。その際、心に浮かべたのは、わたしの魔法が強かに空を叩く情景だった。


「――ダイマ!」


 光の雫は空に落ち、雲に至ることなく弾けに弾けた。その大音量が耳朶を叩くと同時に、わたしは魔法の成功を実感した。


「やった! 一発でできた!」


 喜んでいるとフェアさんが手を鳴らしながらやって来る。


「おめでとうございます」

「ありがとうございます! あの、わたし、昔お母さんに魔法を教わったときは一発で成功しなかったんです。なのになんで今回に限って一発でできたんですか?」


 すると彼は細い顎に指を添えて、考察を述べる。


「おそらくはダイマとファイアの性質が似ていたからでしょう」

「性質……そういえば、どっちも爆発しますもんね」

「そういうことです。ですが、あなたの才能も少なからず影響しているでしょうね」

「もう、フェアさんってば!」


 わたしたちは笑いあった。


 その中でわたしはヴァイザー法の偉大さを再認識させられた。

 かつては魔導書に書かれた呪文を唱えながらイメージするという、個人の想像力に依存する方法で魔法を『修得』していったというが、今は魔法を『継承』する時代なのだ。


 この方法が如何に優れているかは、この短期間でわたしのような凡人が魔法を習得できた事実が証明しているだろう。


「でもこの分なら、今日のうちに2、3個は魔法を覚えられそうです」


 期待を胸に先生を見やるも彼はくすりと笑んでこれを却下した。


「気持ちはわかりますが、これからこの魔法をあなたの中に定着させなければなりません。次の魔法はまたの機会にですね」

「そっか……じゃあ少しでも早く次に行けるように、わたし、頑張ります!」

「その意気です――さ、少し休憩をしたら再開しましょう」


 そういいながら彼は……劇薬の入った小瓶を取り出した。


「うげっ!」

「ダイマは魔力の消費が激しいので。さあ」

「……はい」


 もしも今日、さらに魔法を教わっていたとなれば、これを何本も飲む羽目になっていたことだろう……魔法は少しずつでいっか。


 そう思ったわたしは、グイっとやって、オエッとなった。

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