上中下の下:見て、結果
……私、に酷似している。
体型や体の動かし方は私にそっくりだ。
誰だよ、俳優かよ。
なんでここまで私の動きを真似できるんだよ。
部屋の中を、部屋の中でどう動いているかを、どうやって調べたんだ?
私が使っている板張りのベッドはもう三十年近く使用していて、膝立ちしたり手を突いたりすると、下手をすると板に穴が空いてしまいそうになるので注意をしないといけないのだ、その注意のし方、上半身を起こして両足を床につけて、そこから立ち上がるとか、髪の毛や埃を集めるために敷き詰めた使用済みカレンダーを踏むとか、まさに私のいつもやっていることをしている。
よくみると部屋の造作も家具の配置も自分の部屋のものと同じで、一つ一つの家具や積んでいる物自体は違うのだが積み方まで同じである。
画面がようやく顔に集中したのだが……自分?と思ったが、よく見ると違う。
大まかには同じなのだが目鼻の位置が微妙に違って、だいぶ気持ち悪い。
体の動かし方だけを見ていると確実に私である。盗撮されていると言われても納得する。
しかしこの顔は納得できない。
確かに雰囲気は似ているが、写真に撮った自分の顔が納得いかないどころではない、それ以上に(こんな顔のはずがない!)と言いたくなる違和感だ。
立ち上がってトイレに行き、キッチンに行って水を飲み朝食を作り始める。
歩き方も私と同じ動作をなのでそこはしっくりする、ただ首が前に傾きすぎてないか?顔が下を向いているのではなく、前を見ながら顎が落ちているというか首の角度がおかしくて、動きに違和感がないぶんそれも気持ちが悪い。
パソコンをチェックしながら朝食を食べる朝のルーティーンをこなし、仕事に行くのかと思ったらラフな服装で外に出る。
画面も追いかけていってどこに行くのかと思ったら、女性と待ち合わせである。
……あー、見たこともない、女優さんかモデルさんかと思える、私の理想とする美しい女性だ。
私を見てとてもニコニコしている、好意を持ってくれているのだろう、
しかし、しかしである、私に相当するこの男の歩き方は、私自身いつも〝歩き方〟イメージしていて歩いていてその歩き方も同じで違和感はないのだが、首の位置、角度がおかしいので、見ていて恥ずかしくてしかたがない、それも別にどうでもいい人と会っているのではない、こっちも好意を持たれたいと思っている人に、これはないだろうという、〝みっともなさ〟である。
女性は全然気にしていないようだ、いつもこうなのだろう、しかし美人と並んで歩くと腹回りがみっともないな……
こまごまとしたデート内容は書くこともないだろう、私の知らない街の中だが、行く店や手に取る品は私の選ぶものとだいたい同じで、女性が選んだ店での振る舞いもいつもの私と同じだ、私が実際にこの女性とデートをしたら嬉しくて嬉しくて仕方がないだろうが、客観的にみたら女性に申し訳ないし罪悪感に満ちた光景だ、そして……
夕食を食べてホテルに行き、行為に及んでいる光景は、首を括りたい思いだけである。
スタイルのすばらしい女性にダルダルな体の自分……これはどうみても私の体だ、嬉しくも興奮もない、この女性にただただ土下座をするだけだ。
終わって別れ、部屋に戻り、睡眠へのルーティーンをこなして電気が消えて終了だが、私もそのままベッドに潜り、打ちのめされての眠りにつく。
テープを見た結果どうなったか?
願いは叶った。
あの映像の女性とは別人だが、似た、私が理想とするタイプの女性と知り合い、交際が始まった。
嬉しいか?嬉しくないはずはない。
しかしそれ以上に、女性に申し訳なさと羞恥心と、自分の分不相応にがんじがらめとなり、ただひたすら「我を出さない」ことを心がけるだけである。