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8. 宝箱

「分かりにくいけど、ほら、宝箱」

「おおぉ」

「お姉ちゃんさっすがぁ」


 気配察知は妹のほうが強いが、実際にこういうのを見つけるのは私がだいたい先だったりする。

 単純にゲーム経験値が高いともいう。


「開けてみましょう」

「そうだね」

「開けちゃうけど、いい?」

「「どうぞ」」


 妹とスポさんの了解を得たので、宝箱を開ける。


 パカッ。


 鍵が掛かってるかと思ったけど、普通に開いた。


「おおぉおお」

「金貨!! じゃないっ!」


「……銅貨ですね」


 冷静なスポさんに普通に突っ込まれた。


 ▼ドラスティア旧銅貨


「……ドラスティア旧銅貨ね、ふむ」


 解説はよ。

 残念ながら説明文はない。


「枚数は12枚かな」

「えっと、みんなで分けようってことなんでしょうね」

「そうだと思う。12といえば約分しやすいから」

「だよね」


 2、3、4、6すべてで割れる数は12と相場が決まっている。

 10だと3の倍数ではないので3人の時に困る。

 10と異なり5で割れないのが残念なところだけど。


「それじゃあちょうど4枚ね、はい」

「あ、ありがとう」

「ありがとう、妹ちゃん」

「いえいえ」


 しっかし銅貨か。

 金貨だったらすげーぞ、銀貨だったら、おぉぉそこそこ?

 という感じだけど銅貨はちょっと安いかなと思ってしまう。


「でもこれ、普通の銅貨じゃないんじゃない? 名前付いてるし」

「そうかもしれないね。宝箱だし」


 そう言ってる間、目を離した隙に、いつの間にか宝箱は消えていた。


「箱消えてるぅ」

「あっああ、うん」


 なぜか消える宝箱。

 さて、再び宝箱は出現するのか。

 それともこれ場所は「ランダム」とか言わないのだろうか。


「謎が残ったけど、どうする?」

「最長、1時間30分……待ってみよう、いいかな?」


 ちょっと私も検証とかしてみたい。


「いいよ~」

「ほーい」


「10分毎に登って確かめよう。それまで下でスライム狩りしましょ」

「了解、そうします」


 本当はじっとしてここで復活する瞬間を見たいが、ただ待っているのでは芸がない。


 下に降りてスライム狩りをする。

 そういえばブルースライムの検証もしてみないと。


「スライム君、ていやぁ」


 スライムを倒して歩く。

 時計をチェックして9分経過ごとに山を登る。

 私は結構きついんだけど、他の人は平気そうだ。


「スライム君、投擲(とうてき)!」


 例の石ころを投擲する。

 ダメージは61+50。

 普通にナイフと同じくらいのダメージだ。

 というか私のナイフよりちょっとだけ高い。


「お姉ちゃん、いつのまに」

「実は最初のころ岩場で試してて」

「ふーん」


 倒したのに使った石をまた拾って再利用する。


「何回でも使えると、これは未確認事項だった」

「なるほど」

「ほーん。うにゅぅ」


 スポさんは感心しているが、妹はわりとどうでもいいというか、すでに興味がないらしい。

 ちょっと適当でも、かわいいので、ゆるしてやろう。


 ナイフで接近するのもけっこう勇気とか使うので、私は投擲に全面的に切り替える。

 また槍とかソードとかになったら考えてもいいけど、ナイフは飛び込む必要があってちょっと怖いのだ。

 別に楽がしたいわけではない。


 そしてまた山を登る。


 検証してみた結果、きっかり1時間で次の宝箱が姿を現した。


「おおぉ、復活してる」

「してますね」

「やったね、お姉ちゃん。待ったかいがあったよぉ」


「オープン!……銅貨だね」

「銅貨ですね」


 中身はまたしてもドラスティア旧銅貨だった。

 2回同じなら何回でも同じかもしれないが、検証はしてみたい。


「1時間たったからそろそろ夜中だけどどうする?」

「うっ」

「うぅ、ばあああ」


 妹が残念がるが、致し方ない。

 まだフィールドが狭くて助かる。


「集落に戻って、ログアウトする?」

「いえ、せっかくなのでここで」

「そっか、別にここでもいいんだ」


 スポさんが意外だとでもいう。

 え、そっか安全地帯神話みたいなものがあるといえばある。

 でもよく考えたらここも敵は出てこない。


 安全地帯ではないけど、疑似安全地帯だ。


「じゃあ、また明日、私は午後1時から。妹は午後5時からかな?」

「わっわっ。私、3時に学校終わったらすぐくる」

「学生さん? 私はフリーなので午後1時から来れると思うんだけど、もし1時にログインしていなかったら無視していいわ。予定が分からなくて、ごめんね」

「いえ、お付き合いくださりありがとうございました」

「いえいえ、同い年くらいだよ?」

「そうなんですか? 私15、高1」

「私は13、中2です」

「私はフリースクールで。15なんだ」

「そうなんだ。そっか、同い年だったんだ、じゃあ明日、時間が良かったら、お願いします」

「はい、じゃあねぇ~」

「「ばいばい」」


 私たちはログアウトをして、長い一日が終わった。




 ブーン。

 妙なわずかな駆動音がして、現実に戻る。

 この音は実際にはしていないらしくて、脳の疑似的な刺激のせいらしいんだけど、機械のそれも昔のブラウン管の音に似ていると言われている。


 それでなんでも運営宇宙人説とか運営未来人説とか運営旧人類説とかあるけど、本気で信じている人はいない。


 さて妹も普通に復帰できただろうか。

 一応見てみるか。


 ドアを開け閉めして隣の部屋に向かう。


「アッお姉ちゃん」

「おう、妹よ。ヘッドギア大丈夫だった?」

「あ、うん。急いで脱いだ。へーき」

「それならよかった。お水飲んで寝よっか」

「うん」


 二人でお水を一杯飲む。

 ヘッドギアで寝ているときも意外と汗をかいたりする。


「じゃあ、おやすみなさい」

「おやすみ。また明日」


 自分の部屋に入って寝る準備をする。


 さて宝箱は本当に1時間周期なのか。それとも、あの回だけなのか。

 中身はいつも銅貨なのか。

 ブルースライムは。


 検証はしたいけど、今日はもう寝よう。


「おやすみなさい」


 ベッドに横になり、布団をかぶり、虚空につぶやく。


 だいぶ疲れていたのか、すぐに眠ってしまった。




 翌朝、早朝。

 私は朝日を浴びて、目を覚ます。


「うーん。今日もいい天気。本当いい『春空』だよ。おはよう……春香」


 春香の写真立てに挨拶する。

 春香は中学時代のライバル、親友とは少し違うけど、とても大切だった人だ。

 今はもう、この世界にはいない。


 すぐさまヘッドギアをかぶってログインした。



 もちろん出現した場所はチュートリ島、山頂だった。


「どれどれ? お、あるある」


 そこには宝箱がやっぱりあった。


「中身は何かなぁー」


 パッカン。


 ▼ドラスティア旧銅貨


「やっぱり銅貨だったか、残念」


 いや、実はすごい銅貨かもしれないという可能性もあるけど、確率としては高くない。

 いやいやしかし、何か珍しい銅貨かもしれないし。

 希望は捨てずにクラスメートに報告しに行こう。


 宝箱を確認したので、朝ご飯と朝の支度をしにログアウトした。



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