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5. 妹

 現実世界よ、こんばんは。


「ふわぁ~」


 なんか夢を見ていたみたいだ。

 実際、VRにログイン中は半分は夢を見ているみたいな状態になるとどこかの記事で読んだ気がする。

 なんでも睡眠障害の治療に一役かっているとかなんとか。


 ベッドから起き上がって、部屋から出る。

 おトイレ、おトイレ。


 戻ってくると隣の妹の部屋がガチャリと開いた。


「あぁお姉ちゃん、いたんだ」

「あ、うん。おかえり」

「ただいま」


 妹は中学2年生。全日制なので、今日も夕方に帰ってきたらしい。


「お姉ちゃん、すぐご飯だよ」

「わかった。ありがと」

「うん」


 一度部屋に戻って鏡を見たりして確認をする。

 別に寝ていたわけではないので、それほどひどくはなっていない。


 部屋を出てダイニングへ。

 テーブル席へつくと、お母さんと妹がすでに待っていた。


「いただきます」

「「いただきます」」


 今日はハンバーグだ。

 お肉は美味しい。

 牛多めの合いびき肉は旨味もあってジューシーで美味しい。

 本日のソースは大根おろしと醤油の和風ハンバーグだった。


 近年、低価格帯は大豆系の合成肉が主流になってきたので、牛肉も豚肉も中級から高級品になっている。

 ファミリーレストランでも安いところはみんな合成肉だから、ちゃんとしたお肉のハンバーグを食べたければ肉を買って家で作るのが一番安い。

 ママが料理上手でよかった。

 手伝いとかしない子でごめんよ。


「それで、春空っていうゲームがあるみたいで」

「あっ」

「あ? お姉ちゃん?」

「それ、私、はじめたの。今日から無料体験版が開始されて」

「そう、そうなんだよぉ」

「どうしたの? エルナ?」

「うちのクラスでも夜中にプレイした人がいるみたいで、なんだか離島生活をしているとかって言ってた」

「ふぅん? それで?」

「アニメ調なのにリアルで、なんでもできそうなところがすごいんだって」

「まあ、そうかもね」

「スライム狩り続けて、レアドロップのスライムペンダントをゲットしたんだってさ」

「へぇ」


 そういえばモンスターはまだ狩ってない。


「私もやりたい」

「うん、やればいいじゃん?」

「そうなんだけど、VRゲームだからぁ」

「あぁエルナ、ヘッドギアが苦手なんだっけ?」

「そうなんだよぉ。あの頭にかぶるのが窮屈で」

「じゃあログインするとき、お姉ちゃんが手を握っててあげる」

「うん、頼んだよ」


 こうしてハンバーグを食べて、エルナの部屋にくる。

 エルナ……正確には岡山川得奈だ。


 誰に似たのか私と同じようにかなり小さい。

 いや私と同じくらい? くそぉ。厳密には私より2センチ大きい。


 エルナがベッドに寝転ぶ。

 手をつないだ。


「じゃあ被るね」

「うん」


 エルナにヘッドギアをかぶらせる。


「んっ、リンクイン」


 ヘッドギアの電源ランプが赤く光る。

 緑のアクセスランプもチカチカしているから正常だろう。

 異常が発生するとこのアクセスランプも赤くなるので分かる。


 エルナの手の力が抜ける。


「よし……」


 #245は伝えてある。


 自分も部屋に戻ってベッドに横になる。




 『春空VRオンライン体験版』にログインする。

 普通にゲームを進めているけど、まだ体験版なんだよね。


 島の広場に立った状態で出現した。

 いきなり目の前に異世界が広がっているのはなんだか不思議な気分だ。


 目の前には焚火がまだ燃えている。


 お月様はもう少しで南中かなっていうぐらいになっていた。

 こちらの世界は現実世界より太陽の進みが早い。

 倍速ではないけど、1日が現実時間で24時間ではないっていうことだ。

 そうでないと、ずっと夜だったりずっと昼プレイになったり、都合がよくないからだ。


 さてスポさんはまだいないようだ。

 しばらく焚火を眺める。


 周りにはプレイヤーが数人、焚火を囲んで談笑している。


 私も加わりたいけど、ちょっとコミュ障気味なので、いきなり話しかけにくい。


 なんだかログインしたらこちらの世界ではお腹がすいてきた。

 なんだかんだで昼間作ったハムサンドがまだ残っている。

 生アジサンドは食べたけど、ハムのほうは作ったままだったのだ。


「いただきます」


 もぐもぐ。


「んぐ。美味しい……。アジもまぁまぁだったけどハム美味しい」


「くっ……」

「いいな」

「ああ」


 なぜか周りの視線が私のほうに集中する。


「あの……もしかしてみんなご飯食べていないとか?」

「そうなんですよぉ」

「ああ、結局スライム狩りだけしていて夜になって」


「手作りハムサンドですけど、食べます?」

「あぁ、いいのか?」

「え、そっか、じゃあ一つ300ルアで」

「買います!」

「こっちも1つ」

「俺にもくれ」


 ハムサンドが売られていく。

 それをありがたそうに、食べるプレイヤーたち。


 10個くらい作っておいてよかった。


「うめぇ」

「ハムサンド……されどハムサンド」

「飯の心配も今度からしような」


 みんなハムサンドを食べてしまう。


「もっと、何か食べたい……」


「そういえばアジ干しなら一枚ありますね」

「一枚か」

「あとは、フグ……は食べられないか」

「そうですね」

「アジくらいなら、すぐ釣れますよ?」

「本当か!」

「ぜひ、頼みます」

「おねがいします」


 ということで私は釣りに桟橋へ。


 夜でもすることは同じだ。

 アジ、クサフグ、クサフグ、サバ、アジ……。


「すみません。緑お姉ちゃんですかぁ」


 妹だ。見た目は普通のエルフのようだ。

 金髪、青目、長耳。

 普通のエルフだが背が低めに設定されている。


 ミニエルフほどではないが小さい。


「ああエルナちゃん?」

「はいぃ。ここでは『パルナ』って呼んでください」

「パルナちゃんね」

「はい、お姉ちゃん」

「お姉ちゃんはお姉ちゃんなんだね」

「そうだね、うん」

「ふふ」

「そういえば、広場で『アジはまだか、アジはまだか』って(うな)ってる集団がいたんですけど」

「あはは、あれね、私のアジを待ってるの」

「そうなんだ」

「うん。ログアウト休憩とかすればいいのにね」

「そういえばそうだね」


 なかなかゲームに()まってる集団は、ログアウトすることを忘れてる節がある。


 人数分のアジとサバが釣れたところで、桟橋を退散する。


「お魚釣ってきました」


「おぉおぉ、待ってたよ、ママ」

「お腹と背中がくっつかと思いました」

「アジきた、アジ」


 ママではないが、まあいいや。

 魚をアイテムボックスから出して、ナイフを使って(さば)いていく。

 アジの切り身に塩を振ってみんなの前に出す。


 お皿はその辺の人が採取で採ってきた木の板を使っている。


「「「いただきます」」」


 もぐもぐ。


「アジの刺身とか、そういや普段食べないな」

「リアルでも鮮度がちと問題ありますからね」

「釣り人とかでないとね」


「うまうま」


 アジを食べ終わった人たちは、一応満足したらしい。


「あぁもうひと狩りと思ったが、先にログアウトするか」

「そうですね」

「それでは、我々は失礼して、また」

「ばいばい」

「では、さらばです」


 次々テントを片付けてログアウトしていく。


 後には私と妹のパルナが残された。


「さてどうしようかな。スポさんを待つか」


 私はまたテントを設置する。


 テントのプロパティを見ると「テント(90/100)」と表示された。

 一回使うと5減るのかな。今回2回目だとして。


 つまり使い切りではないけど、消耗品なのかもしれない。

 もしかしたら鍛冶屋とかで治せるのかもしれないけど。


 妹とテントで火を眺めながらのんびりする。


「のんびりだね、お姉ちゃん」

「そうだね」

「私、ログインしてまだ何もしてない」

「別に何もしなくてもいいんだよ。このゲーム」

「ふーん……そうなんだ」

「そうなんだよ。別にのんびりするゲームだから」

「それは知らなかった。敵を倒すゲームだと思ってた」

「私もそう思ってたけど、釣りをして過ごしたからちょっと考え変えたの」

「そっか」

「うん」

「ハンバーグ美味しかったね」

「うん。私もハンバーグ好き」


 二人でのんびり過ごした。



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