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27 【傭兵王の誕生】
さて、転機をモノにすることができた彼は、更に階段をのぼり続ける。
彼にはそれが血のカスケード(流水階段)であることがわかっていた。血は今まで倒してきた幾多の敵だけではなく、自分を慕ってついてきた者達のそれすらあった。彼は時に立ち止まりたくなる衝動に駆られる。だが、のぼり続けるほか無いのだ。今まで流れていった血の一滴をも無駄にしないために。
そうして、ようやく頂点へとたどり着いた。
いや、正確には最上段に片足を踏み出しただけなのかもしれない。
その帰趨はこれからの彼の行動や心がけ次第となるだろう。
傭兵の身から数多の冒険の果てに、馬鹿にさえしていた吟遊詩人が奏でるサーガの主人公とすら成り仰せた希代の成り上がり者。
自らの力のみではなく、運命の神が紡ぎ出す模様を形作る一本の糸の魅せた鮮やかな色合い。
様々いわれようと彼は彼でしかなく、野望の叶った先は見えていなくもある。
彼がこの先、王を続けるのか、きままな傭兵家業にもどるのか、いまはまだ彼自身すら混沌とした心の内を扱いかねているのであった。