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従業員専用の更衣室にはロッカーがたくさん並べられていて、一人一個、ロッカーが割り当てられている。
朝の出勤時にこの更衣室に向かい、制服に着替える。
店が狭いところは鞄が邪魔になるのでここのロッカーにいれて、必要なものだけを鞄から抜き取り、
小さめのトートバッグかそのブランドのショップ袋に入れ替えて持ち運ぶのだそうだ。
私は早速、昨日店長からもらった、ピンク地に白の文字で『Marissa』と印字されているショップ袋にメイク道具
や携帯電話等をいれた。
昨日試着したブラウスとスカートに着替える。全身鏡が置かれていたので、全身を確認する。
今日早起きして巻いたポニーテールの髪が、良い感じに馴染んでいる。
さっ、行こう。
ショップ袋を持ち、従業員エレベータに向かった。
副店長の吉野さんに店のそうじの仕方、パソコンのシステムの説明を聞く。
「ここに商品の番号を入れると在庫がでてくるんだ」
「はい」
「私は今から百貨店の全体朝礼にいってくるから。入力して在庫を検索してみて。あっ、やばい。遅れる」
そう言って吉野さんは朝礼に行ってしまった。
店内のそうじは百貨店の清掃員の人がやっていると思っていた。お店の店員さんがしていたんだ。
向かいの店舗を見ると、黒の透け感のあるドレッシーなシフォンワンピースを着て、
鏡を一生懸命に拭いている女性店員の姿があった。
鏡を拭くたびにさらさらのその女性店員の黒いストレートの髪の毛は揺れている。
美しい洋服を着ながら掃除をしているという姿に違和感を感じた。
いつも綺麗なお店のイメージは店員さんがきれいに見せてくれていたんだ。
「朝礼しよっかー」吉野さんが戻ってきた。
百貨店での朝礼とは別に、店での朝礼も毎日しているらしい。
昨日の店の流れや、本社からの指示、連絡事項をシェアするようだ。
「北岡さんは今日、朝から研修で、昼から店頭に立ってもらうから頑張ってね」
朝は百貨店の研修と筆記試験。
それに合格すると百貨店のピンバッチがもらえる。このピンバッチとネームプレートを胸につけるのだそうだ。
突然館内に爽やかなピアノの音色が流れた。
パソコンを触っていた吉野さんが突然その作業をやめ、店の入り口に立った。
えっ? どうしたの?