49
翌朝、通勤電車に揺られながら寝不足気味の恵理子は昨日の買い物を思い出していた。
最近お気に入りでよく買い物をするMarrisa。昨日の店員さんかわいかったな。新しい子かな。そういえばまたカードが使えなかった。今月はそんなに買っていないつもりだったんだけどな。
恵理子は毎月のカード利用額を把握していない。買い物をする時、カードが使えないと店員に言われて初めて、カードの限度額を超えていることを知る。
じゃあ、違うカードで、って変えたらいいだけだし。私には魔法のカードがある。恵理子は自分にそう言い聞かせ、昨日Marrisaに飾られていたピンクのフレアスカートを頭に浮かべた。あのピンクのスカート。かわいかったな。
「川田さん、今日送ってくれた資料、ちゃんと確認したの?」
恵理子直属の上司柳田貴子が、昨日恵理子が作成した資料について質問をしてきた。はい、と恵理子が答える前に、柳田は首を傾げながらプリントアウトした用紙をめくる。
柳田はお局という感じの五十代の女性だ。
常にこの世に不満を持っているような雰囲気。何かしら恵理子に対して揚げ足を取り、嫌味を言う。恵理子は入社当時から、心底この柳田というおばさんが嫌いだった。恵理子が作成した資料や数字等、柳田が恵理子に対して指摘してきたことが実は間違いで、恵理子が正しかったということがよくある。ただの嫌がらせである。恵理子はそんな柳田が会社を辞めてほしいと願っていた。
昼休憩となり、恵理子は会社の外にでて、スターバックスに向かった。ベンティサイズのコーヒーとサンドイッチを注文する。柳田から新たに依頼された資料作成に時間がかかりそうなため、今日はおそらく残業になるだろう。残業を見越して普段はトールサイズのコーヒーをベンティサイズに変更した。作成した資料はいつものごとく、しょうもない柳田の指摘がはいるだろう。半ば柳田の態度は子供じみていて、恵理子は呆れていた。気の弱い課長の吉村はそれを知ってか知らずか黙認している。課長の上長の野田浩は肩書きこそ次長だが、部下を怒鳴りつけたり、暴言を吐いたりとパワハラ三昧で他の社員から嫌われ、冷ややかに見られているような人間だ。
声と態度とガタイだけはでかい。大体の仕事は課長に押し付けていて、今日も野田の怒鳴り声が聞こえてきた。恵理子はなるべく意識を外に向けないよう、パソコンの画面に集中する。かちかちとキーボードを叩く音と共に自分の中に何かが溜まっているような気がしていた。




