45恵理子と服
【恵理子と服】
会社の女性用トイレの個室で川田恵理子は大きなため息をついた。先輩の嫌がらせにも、クライアントからの無理難題にもクレームにも耐えた。恵理子はこの二年、仕事に没頭していた。新卒で中小企業のグルメサイトの運営会社に入社し、営業をしている。残業し、休日出勤しまくっているせいか、最近は休日を楽しむ時間も無い。鏡に映る自分は青白く、目にはくまがくっきりとでている。恵理子はそんな自分に嫌気がさし、はぁーとため息をつきトイレをでた。
デスクに戻り、パソコンを開き、受信メールを確認する。クライアントからのクレームのメールが何十件も転送さていた。全て上司の担当していたクライアントである。面倒なクレーム対応をいつも恵理子に任せるのだ。いい加減しろよと言いたくなる。一件ずつメールを開き、返信していく。
恵理子は退勤後、百貨店に向かった。仕事のストレスに耐え抜き、頑張った自分にご褒美である。
「こんにちはー」
いつものように、店員は笑顔で恵理子を出迎えた。店のディスプレイをちらりと見る。
マネキンが着ているデニムがかわいい。ハートのポケットで、確か、モデルのMAYUMIちゃんデザインの限定のものだ。
まるでテーマパークに来ているようで、仕事での嫌だった出来事を忘れさせてくれる。
ここではとても丁寧に、恵理子をお姫様のように扱ってくれる。そんな店員達の態度に恵理子は快感に近い喜びを感じていた。今日入荷したばかりという新作のピンクのニットを手に取り、自分の身体に当てる。曇り一つ無く磨き上げられた鏡。ほら、私はここで素敵になれる。恵理子は満足そうな表情を浮かべ、ニットを戻し、マネキンに着せられたデニムと同じものを手に取った。
「すいません、このデニムを試着したいのですが」
恵理子はポニーテールをした店員に声をかけた。店員はどうぞこちらに、とフィッティングルームに恵理子を案内した。




