4
「もう一個のパターンがこれなんだけど」
スカートの隣に置かれた黒のフレアパンツ。
「両方、着てみよっか」
店長は広げた服をハンガーにかけてフィッティングルームの中のシルバーのハンガーかけにかけた。
私はフィッテイングルームに入り、鏡ばりのドアを閉めた。
まるで一人で宇宙に向かう乗り物に乗り込んだみたいな気持ちになった。
黒のスーツとシャツを脱ぎ、フリルのブラウスに袖を通す。コットン生地のようだ。肌に馴染むような、硬すぎず柔らかすぎない心地良さがする。フリルがボタンの両端についていてかわいい。
続いてスカートを履く。ピンクのフレアスカート。裾が広がっていて華やかさが漂う。
スカートのチャックを上げ、鏡を見た。
ブラウスととてもよく合っている。
さすが、プロだ。
私だったら無地のニットを合わせていた平凡極まりないコーデになっていただろう。
それがどうだ、この完璧なまでのマッチ度は。このスカートのために作られたかのようにフリルのブラウスが馴染んでいる。
鼓動が早くなった。
あぁ、素敵だ。
「着れたー? 見せてー」外から店長の声がした。
試着室のドアを開けると、店長が立っていた。
「わぁー。似合うね。いい感じじゃん。かわいいー。なるほど。じゃ、次はパンツ履いてみよっか」
「はい!」
店内の照明がちょうどスカートにあたり、スカートが光っているような錯覚を覚えた。
ドアを閉め、スカートを脱いで、フレアパンツに足を入れた。
黒のシンプルなフレアパンツ。
履いたことがないし、もし自分が買い物に行ってショップに置いてあっても素通りしていただろう。
鏡を見る。パンツのシルエットが綺麗で、無意識にすっと背筋が伸びた。
スカートとパンツを変えるだけで全く違う印象だ。まるで魔法。
フリルのブラウスとこのパンツも抜群に合う。なんだか自分ではないみたいだ。
大人の、女性って感じ。自分で言うのもなんだけど、かっこいいかも。
「パンツサイズどうー? 着れた?」
店長の声がし、試着室のドアを開けた。
また鼓動が早くなっていた。
「おっ。こっち系も似合うのね」
「じゃあ、明日からこれを着てね」
再び試着室にはいりドアを閉める。
完璧に磨かれた鏡の前に映る素敵な服を着た自分の姿。不思議な感じがした。買い物ではなく、この部屋にいることに。