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されど服  作者: 高見香里奈
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「じゃあ、自分を説明してください」

 私は今、フロア管理室で百貨店の面接を受けている。シルバーフレームの眼鏡をかけた中年男性は岸本という名のフロアの統括マネージャーだそうだ。

 眼鏡越しにこちらを見る切長の目は微笑んでいるようにも見えるし、睨んでいるようにも見える。

 えっ? 何言ったらいいの? いや、落ち着け私。

「えぇ、と」

 Marissaの入社面接では、自分はいかにファッションが好きかを熱弁した。

 でも今回、百貨店の面接。服が好きだけじゃだめなような気がする。もっとこう……。

 途端に先月百貨店で買い物をした時の情景が思い出された。

 服の購入後、「ありがとうございましたと、笑顔で商品がはいった紙袋を手渡す、店員のその笑顔につられて、自分も笑顔になってありがとうと言ってしまっていた。

 笑顔でありがとうか。私もそんな風に……。


「はーぁ」

 ため息がでた。フロアの上階にある従業員休憩室はたくさんの従業員達が脱力していてなんだか学校の食堂を思い出させた。

 自販機で買った缶コーヒーを飲み、一息ついた。緊張と気疲れでくたくただ。まだ、働いてもないのに。

 周りを見渡すと従業員が談笑したり、食事をしたりといそいそと動いている。

 いつもフロアで笑顔で出迎えてくれる百貨店の店員さん達。彼女達もプライベートがあるんだな、と感じる。

 そうか、売り場ではみんな、百貨店の従業員という演技をしているんだ。

 まるでテーマパークのキャラクターの中の人のようだ。

 私はそのテーマーパークに一員になれるのだろうか。


「北岡さん、面接合格だって。岸本さん、褒めてたよ」

 休憩から戻ると、店長がそう言って小さな『百貨店マニュアル』と書かれた冊子を私に渡した。

「合格したんですね。よかったです」

 一安心だ。

「面接は合格したし、次は筆記試験。試験は明日だから、軽く読んどいて」

「筆記試験もあるんですね」

 冊子をめくると、そこにはお客様へのお辞儀の仕方、お金やカードの渡し方等が記載されていた。

 普段何も考えずに百貨店に買い物に行っていたが、渡し方だなんて、こんなにも細部にまで心配りがされていたのだ。

「服、選ぼうか。最初だから本社から支給されている服を着てもらうね。どれがいいかな……」

 店長が手に持った数枚の服をガラス台の上に広げた。

 ボタン部がフリルになった丸襟のホワイトブラウス。スポンジのような素材のフレアのベビーピンクのスカート。

 わぁーかわいいと声がでていた。


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