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されど服  作者: 高見香里奈
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 数ヶ月が経ち、接客にも慣れ、ぽつりぽつりと自分の売り上げが上がっていた。

 自分が勧めた服に満足して購入し、笑顔で店からでていくお客さんの顔を見ると、自分の中に達成感という気持ちが芽生える。今月は個人売り上げが良い感じで、このままいくと個人予算を達成できそうだな、なんて思っていた矢先、私は初めてのクレームというものを受けた。客は昨日、私が接客した女性だった。男女で来店されていたのだが、てっきり親子だと思っていた。実は恋人同士だったのだ。

 お母様 と声をかけてしまったのがダメだった。

 親子とばかり思い込んでいた。失礼なことをしてしまった。ショックだった。

「呼び方はほんと気をつけないといけないよ。私も昔、おじさんと若い女の子が来店して、娘さんだと思っていたら、愛人だったことがあった。確実なことがわからない間は必ず、お連れ様と呼ばなきゃ」

 確かにそうだ。あんなに楽しそうにお買い物をしてくださったのに。私の余計な一言で台無しになっただろう。

 申し訳の無さとくやしさと、初めてのクレームにずんと気持ちが沈んだ。

 その日はただひたすらどんよりとした気持ちで一日を過ごした。

 百貨店の統括マネージャーの岸本さんにクレームの経緯を話す。ケースによっては、お詫びに行っていただく場合もある。

 今後は必ず、お連れ様と呼ぶように徹底するように、厳重注意された。

 がくんと下がった気持ちをなんとか押し戻す。最近少し慣れたせいもあってか、接客に緊張感が薄れていたかもしれない。

 そういえば百貨店での研修で、お客様のお名前の呼び方の項目があった。

 落ち込んでばっかりではいられない。私はプロになるって決めたんだ。

 もう一度、気を引き締めて丁寧に接客することを心がけよう。

 それから数日間、私は初心にかえって丁寧な接客を意識し、心がけた。

 そうすると何か見えないものが見えてくるような不思議な感覚になった。お客様が必要としていることが、相手の立場に立って見えてるような、視点が持てた。

 展示されてるトルソーを着替えさせていると、おねえさーんという声がした。

 声の方を見ると、数ヶ月前にトレンチコートとワンピースを購入してくれた母親とその娘が笑顔で私に手をふっていた。

 私は急いでトルソーから離れ、その親子の元に向かった。

「この前ちらっと、お店覗いたんだけど、お姉さんいなかったから、すぐ帰ったの。今日は会えてよかった」

 笑顔でその母親が言った。

「ママも私もここに来るのが楽しみになっちゃって。お姉さん、なんかお勧め、ありますか?」

 一瞬嬉しくてなんだか泣きそうになったのを堪え、絶対にこの二人に満足して楽しんでいただけるお洋服を探そう、と決心し、私はラックに向かって歩いていった。

 その親子が私にとっての初めての顧客様となった。


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