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「じゃあ、私がお客様役で、北岡さんは店員ね」
「えっ?」
谷口さんはそう言って、鞄をどこからともなく持ってきて肩にかけ、店の入り口に向かった。
えっ何? 何するの?
谷口さんは客のように入り口から歩いてきて、ラックにかかっている服を見ている。
「谷口さんをお客様だと思って接客してみて」
店長が助け舟をだしてくれた。
接客? 谷口さんに?
幼稚園の時にやった遊びが一瞬頭によぎる。
そうか。お店屋さんごっこをやればいいんだ。
谷口さんが今日入荷してきたばかりの、襟つきのツイードのピンクのワンピースを鏡で合わしている。
「これ、他の色あるんですか」
谷口さんは客のように私に聞いた。
「ええっと、少々お待ちください。お調べしてきます」
ワンピースはさっき入荷したばっかりだったので、何色があるか把握していなかった。
すぐに私は店のパソコンの在庫管理システムでそのワンピースの色違いを検索する。
【白・黒・ピンク】【S・M】三色展開なんだ。
谷口さんにそのことを伝える。
「じゃあ、これに合うアウターってありますか? それから、靴も」
「ええっと」
私は同じ素材のツイードのジャケットを手に取った。
「もうちょっとカジュアルな感じに着たいんですが」谷口さんは言った。
「カジュアルですか。えーっと……」
店内を見渡す。何がカジュアルだろうか。手が止まってしまった。
谷口さんはラックからの白のトレンチコートと黒のフェイクレザーのジャケットを持ってきた。
「この辺りがいいんじゃない。着てみていいですか」
そう言って谷口さんはフェイクレザーのジャケットに袖を通してワンピースを合わせた。
良い感じだ。コンサバすぎないこなれた感じ。
一見合わなさそうな組み合わせなのに。
「この前ネットで見たんだけど、SSのシャネルのコレクション会場で、
モデルがこんな感じのツイードワンピにあえてレザーを合わせて着てたんだよね」
SSとはスプリングサマーの略だ。春夏コレクションとFWの秋冬コレクションが
毎年ファッションショーとして開催される。コレクション会場には多くのカメラマンがいて、
モデルの私服や有名人達のファッションも注目される。
「こっちだときれいめな感じ。OLさんとかに受けがよさそう」
そう言って谷口さんは黒のジャケットを脱ぎ、白のトレンチコートを着る。
確かに。アウターを変えるだけで、印象が全く違う。
さっきはファッション感度の高そうな人向けだったのが、今は爽やかなお姉さんといった感じだ。
それに、このトレンチコート、ラックにかかってたからわからなかったけど、
ウエストがシェイプされていて、シルエットがきれいだ。
実際着てみないとわからないもんだな。




