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されど服  作者: 高見香里奈
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ただの布の影響力

 ただの布。そう言われれば、それまでだ。

 けれどその布はとても大きな可能性を秘めている。

 大学を卒業し、大手アパレル企業に販売員として就職した。


 希望していたヤング婦人服のブランドに無事配属になり、百貨店勤務となった。数人の同期達は全く好みでは無いブランドに配属されてしまったと愚痴をこぼしていた。希望するブランドは人気が集中し、そんなこともあるようだ。学生時代は数ヶ月、近所のケーキ屋でアルバイトをした経験しかない。


 今日はそんな社会人経験ゼロとも言える、社会人として第一歩である。

 百貨店勤務のため、ヘアカラーは暗め、ネイルのデザインは控えめという本社からの指示を受けて私は髪の毛を美容院でトーンダウンさせ、ゴテゴテのラインストーンが乗ったデザインのネイルを諦めた。

 従業員入り口の前で百貨店を見上げた。


 空に向かって聳え立つ高層ビル。このビルの一員に今日から自分はなるのだなと、ふとそんなことを思う。表情の無い人たちが従業員入り口にはいっていく。

 黒髪のロングヘアで意志の強そうな、きりりとした平行眉の女性が、私に微笑みながら歩いてきた。


「こんにちは。北岡有紗さんですか?」

 その女性は首をかしげながら言った。

「はい」どぎまぎしながら答える。

「私は店長の橋本です。よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」と会釈をする。

「じゃ、北岡さん行こうか。あっ、これ。入り口のおじさんに見せて」

 そう言って店長は一枚のカードを私に渡した。

『(仮)入管証』と印字されている。

 店長は鞄から同じようなカードを取り出し、入り口の警備員らしき人に見せ建物の中にはいっていった。私も後ろからカードを見せ、建物の中にはいる。


 二十人も入れるほど、広くてでかい従業員専用のエレベーターに乗り込んだ。エレベーター内は、色んなファッションであふれている。ヤング、外資、メンズ、デパ地下、化粧品。

 そうか、今日から私はこっち側の人間なんだ、と自覚する。買う側でなく、売る側なんだな。

 でも、大丈夫だろうか。

 昨夜沈めたはずの不安が胸に浮かびあがる。

 エレベーターのランプが点灯し、ドアが開く。店長が「降りるよ」とエレベータから出た。


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