第六話 『倒れること、成長にならず』
「はあ、はぁ、できた……」
貫かれた木の破片が、弾けた水と共に土に散乱したときだった。
「……まさか」
風雅のつぶやきと同時に、何かが公星に迫る。
「ッ!!」
何かは空中で体をひねり、振り回した足で公星の腹を蹴りこんできた。公星の体は吹っ飛んだ。突然の出来事に何が起きているのかわからず、受け身をとる事すらできずに地面にたたきつけられる。
「う……おおぇ」
全身を強く打ち、公星はその場で吐いてしまった。
「うぅ……。なんだ………?」
「公星、大丈夫か?」
「ああ……なんとか」
「河童様!いきなりなぜ!」
風雅はそれの名を知っていたようだ。
「ん?風雅も聞いていなかったのか。剣蔵に頼まれてな。この修行中に奇襲しろと。なに、安心しろ。そいつを取って食おうなんてしない。ただ吾輩の邪魔を振り切ればいいだけ……」
突然の状況に戸惑いつつも呑み込んだふりをした公星は、姿勢をただす。
「はぁ、はぁ」
「こちらからいくぞ」
緑色の体に、頭には皿をのせた一般的なイメージそのままの河童が、公星めがけて走り出す。
「来る……。一旦距離を……」
毎朝遅刻しそうになっては走っている公星は、足の速さにある程度自信があった。距離をとりつつ力をため、完成した技でうまく木を貫こうという作戦だろう。しかしー
「遅い!」
河童は公星に追いつき、肩をぐいっと引っ張られてしまった。
「おいおい、せめて攻撃を受ける体勢くらいはつくってくれよ」
空中で倒れかけている公星の腹部に、もう一度河童は蹴りを入れるのだった。
「(公星の反応速度じゃ間に合わない!一方的すぎる……)」
全身に強い衝撃を受けた公星はついに口から血が出ていた。
「い……いてぇ……はぁ、息……」
呼吸も荒くなっていった。心臓の鼓動が大きくなっていく。
「小僧、立ち上がれ。吾輩の攻撃をよけ、この修業を達成して見せろ」
「……は、はい……はぁ、うおぇ」
激励する河童と、それどころではなく吐いてしまった公星。しかし今度はー
「はぁ、行きますよ……」
すぐに立ち直った公星が、河童へ猪のように走り出した。
「良い根性だ……。だがな、考えなしで突っ込んで妖怪を退治しようなんて莫迦だぜ」
そう言って河童は一瞬にして、ドタドタと音を立てて走る公星の眉間に拳を振り抜いていた。
「っ!!」
公星は思い切り吹き飛び、宙を回転しながら落ちていき、地面にぐにゃりと叩きつけられた。
「剣蔵め……。戦い方を何も教えていないな。これじゃ実戦で死ぬぞ」
河童がちらりと目をやると、風雅が体を震わせていた。
「ん?ああ、すまねぇな。友達が甚振られているのを見ていい気にはならねぇな」
少しやりすぎてしまったか、と手の力を緩めた河童。その後ろで……
「まだ……終わってない……ですよ」
ぼろぼろで血だらけの公星が立ち上がった。
「……たいしたものだ。その根性。今の妖魔界にゃいねぇだろうな……。公星……だったか?気に入ったぞ」
「へへ……ありがとう……ございます……。でもーー」
先ほどと同じように公星が一直線に走り抜けてくる。
「ここで負けてちゃダメなんです!」
河童もそれに応えるように構える。
「……やることが変わんねぇんじゃ意味がねぇこたぁわかってんだろ?」
また、河童の拳が公星の眉間の目前に移動してくる。
「ゼロ距離、これなら……外さない!!」
河童の胸を、公星の指がとんと触れる。
「【ハートレイトフォース】!!」
水の線が河童の体を突き刺す……のが公星の予定だった。
「吾輩は河童だぜ?素人の水技なんぞただの小雨と同じだ」
そう言って、公星の指からあふれ出す水を操り、公星に返した。公星の体は水に吹き飛ばされた。
「……気絶しちまったか?」
またもや地面にたたきつけられた公星は起き上がらなかった。
「風雅、すまない。やりすぎた。これからこいつは部屋に運ぶ。お前も一緒に来い」
「……はい」
右肩にひょいと公星を担ぐ河童の後に続き、風雅も帰路についた。
「あの、河童様……」
「どうした?風雅」
「公星を選んだのは間違いだったのでしょうか」
「急にどうした。なぜそんなことを」
「……公星は多分、喧嘩もしたことないんだと思うんです。初めて会った時、肌に傷がほとんどなかったので。オレの判断のせいで、オレの我儘のせいで、彼を苦しめていないかと……」
「……そうだな。確かに、こいつは以前より傷をつける機会も多くなっただろう。だがな、お前に頼まれて了承したのはこいつ自身だ。お前が後悔しようが、こいつには関係ない」
「……でも、またあの時みたいに……」
「……もう考えるのはよせ。剣蔵がお前を引き取ったのはそのためだろ?」
「……はい」
暗い表情の風雅と、同情の視線をむける河童は、山を下りて行った。
四時間ほど経った頃。
「おぉ、起きたか。公星君」
ぼろぼろの体の公星が目を覚ました。
「ここは……?」
「部屋だよ。お前はあの時河童様に技を返されて気絶したんだ」
「……そっか。俺だめだったのか」
深く俯き、落ち込む少年に、彼の妖怪が声をかける。
「下を見るな。まだ始めたばかりだろ。何があるかわからないのに、自分の力を見誤るな」
「河童さん……」
「そうじゃぞ。公星君。風雅から話は聞いた。技を発動させたんじゃろ?成長しとるじゃないか。まあしかし、倒れてしまってはその間の成長もなくなってしまうがのう」
そうして、剣蔵は公星の額に触れる。
「霊指力も上がっておる……」
「……そういえば電車でさらっと聞いただけで霊指力って何ですか?」
「ああ、説明しておらんかったのぉ。霊指力とは、霊力、妖力、体力、精神力、その他諸々を数値化したものじゃ」
「オレ達高校生にとっては戦闘力っていえばわかりやすいだろう。」
「そういうことだったのか……。それで俺はどれくらいなんです?」
「公星君の霊指力は327じゃ。水の石を持っていることを考えると、平均より少し上かのう」
自身の数値が公開され、心踊る公星。しかし指標がわからずいまいち盛り上がらない。
「えーっと……平均はどれくらいなんです?」
「高校生であれば105くらいじゃのう。石の力でそれらが3倍されておるはずじゃから、公星君の素の数値は109じゃな」
「なんというか喜んでいいのか微妙な数字ですね」
「これからどんどん伸ばせばいいんじゃよ!」
元気づけるように背中を叩く剣蔵、そして叩かれた公星だが、少年は周りが気になったようで。
「……みんなはどれくらいなんです?」
「ワシは4329。河童は4896じゃ。」
「剣蔵、お前低くなりすぎじゃないか?」
「妖怪と違ってワシらの時間は早く進むんじゃ!」
あまりの桁の違いに、公星は自分の数値がちっぽけであることに落ち込む。
「公星。そこまで落ち込むな。お爺様は昔最強と呼ばれた妖術師だ。それに河童様も大妖怪の一人。この数値になるのも当然だ」
「うぅ……風雅ぁ……。でも風雅は?」
「あーっと……。お爺様、どれくらいですか?」
風雅の額にも指で触れる。
「……公星君、あまり気を落とさんでくれよ。風雅の霊指力は……6212じゃ」
「……ろ、ろくせ……じゅ……ぅ」
「公星ー!」
まさかの数字に公星はまた気絶してしまうのであった。
「はぁ……公星君。倒れること、成長にならず。じゃぞ……」
次回予告
周りとの圧倒的な差に、気絶してしまった公星。なにやら絶対に追いついてやると意気込んで、河童に頼みごとをしているらしい……。ってまた気絶してるし……。
次回 第七話『始動!河童道場!!』