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第五話 『石と呼応』

 公星が結地神社に来て二日目。昨日の傷はまだ癒えることはなく、空模様も怪しかった。


「公星、入るぞ。起きてるか」


 公星が寝ている部屋に入ってきた風雅の左手には麦茶とおにぎりを運ぶお盆が乗っていた。


「んー、ん?おはようー風雅ー。起きるの早いねー」


「おはよう。というかもうこんにちはの時間だぞ」


「え、今何時?」


「13時」


 昨晩公星が布団に入ったのが20時。つまり17時間ほど寝ていたらしい。


「俺そんなに寝てたの!?」


「あぁ、ぐっすり」


「まじか……なんかちょっと体だるいな……」


 毎日25時頃まで夜更かししては7時に起き、学校に行っている公星にとって、普段の二倍以上の睡眠はむしろ体がだるく感じるものだった。


「今日から修行始めるが、動けるか?」


 風雅の問いに、公星は跳ね起きして元気に立ってみせる。


「うん!大丈夫!」


「それなら良かった。それじゃ、14時から裏の広場で。おにぎりは梅と鮭が入ってる」


「わかった!ありがとう、いただきます!!」


 口の中いっぱいにおにぎりを詰め込み、麦茶で胃に流し込んだところで、公星は自身がまだ顔を洗っていないことに気が付いたのだった。


ーー14時 神社裏の広場


「風雅ー!おまたせ!」


「来たか。これから石の力についての修行を始めるぞ」


「よろしくお願いします!って剣蔵さんは?」


「お爺様は昨日中止になった町内会の除霊に行かれたよ。だからオレが代わりに」


「そういうことね。それじゃ早速お願いします」


 風雅は広場の端に見える三本の木を指さした。


「まず最初はあれに生み出した水を命中させる修行だ。三本連続で当てるまで終わらない。休憩は適度にとるんだ」


「わかった。何か縛りみたいなものは?」


「特にない。この修業は公星がいつでも自分の意志で、思うように力を出すことを目的としている。力加減や、応用、実用的な技の作成は少しずつ別の修行でできるようにしていく」


「おっけい!じゃあ始めよ」


「ああ。修行はじめ」


 公星は昨日の戦いでやって見せたように指の先に力をためる。しかし、水は生み出されない。


「公星、まずは水を出すところからだ。焦らなくていい」


「わかった……」


 今度は手のひら全体で力をためる。少しずつ水ができていくのが感じられる。


「……この感覚を、指先に……」


 手のひらから指に集中が移った瞬間、生まれていた水の塊は崩れてしまった。


「あっ……」


 公星はとにかく回数を重ねようと何度も試した。その中に答えがあると信じて。


「これなら……。だめだ、もう一回」


 そうしていって一時間ほど経った頃。


「あれ、水が生み出せない……」


 手のひらに力をためている時にすらもその能力を扱えなくなっていたのだ。


「なんで、同じくらい力を入れているのに。なんで……」


 焦る公星の後ろから、最初の口出し以来初めて風雅が口を開いた。


「お前の中にある力が減ってきたんだ。ゲームでいえばMP切れ。公星の能力の使い方はあまりにも非効率すぎる。もしこれが霊術なら、霊力の器に負担がかかりすぎて倒れているだろうな」


「そっか……MP切れ……。でもどうやって効率的にやれば」


「それは使用者次第だ。オレの場合は、とにかく冷静を保つことにしている。霊力も妖力も感情によって大きく出力が変わるように、石の力もそうだったからな。でもお爺様は感情が高ぶっても調整ができている。人によってどこで出力量を調節するかは違う。だから冷静に、というのは参考程度にしてくれ」


「わかった。一回落ち着いてみるよ」


 深く深呼吸をして、公星は手に力をためた。ゆっくりと、水が生み出される感覚が公星に伝わる。しかし、それに喜びを感じたことが原因なのか、心臓の鼓動が集中を遮った。


「あぁ、崩れた……」


 ぴちゃぴちゃと手のひらから滴る水を、不満そうに公星は見ていた。


「なあ、公星。アドバイスでもなんでもなく、オレがお前を見ていて思ったことなんだが」


 顎に手をやって風雅は公星に問いを投げかける。


「お前、以前どこかで石の力を使っていたんじゃないか?」


「えっ、どういうこと?俺あの時初めてこんな不思議な力を使ったはずだけど……」


「なんていうか、昔やってた習い事の内容を体が覚えているみたいに、お前の体が力の使い方を知っているように見えたんだ。あの時も、昨日も」


「確かに、初めて使った時は今みたいに力をとか意識してなくて無意識にやってた……。でもなんで」


「……オレの考えすぎかもしれないな。ごめん、修行にも戻ろう」


「う、うん。わかった」


 二人はまたおんなじ立ち位置へ戻った。


「(俺の体が覚えてる……か。もしかして、頭で考えすぎなのかな?)」


 深呼吸をして目を閉じる。


「(よくある映画みたいに、考えずに五感でやってみれば……)」


 公星は体の中のいろいろな感覚を、一本一本の神経をとがらせた。どくん、どくん。どんどん大きくなっていく。心臓の鼓動が。それに合わせて何かが登ってくるのがわかる。青い光が、石の力が鼓動に合わせてどんどん流れていくことを。


「ふーー」


 公星の左手に力が自然と集まっていく。呼応していく、石と鼓動が。それが大きくなって、水を生み出した。


「今だ!!」


 流れに合わせて公星は力の集中を指先に向けた。


「(昨日の夜、あの時出した技の名前考えてた。そのまま寝ちゃったけど。今決まった)」


 鼓動が鳴っていないその瞬間、指先から、荒く、細い水の線が勢いよく直線で飛び出した。


「……【ハートレイトフォース】!!」


 心拍に合わせたその力は、木の幹を貫いた。


 次回予告

 石と呼応し、一本目を命中させた公星。しかしもう体力は残っていない……

 次回 第六話『倒れること、成長にならず』

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