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第四話 『石を喰らう覚悟』

 言葉を唱えた老体の弱々しい体から、その身に似合わぬ霊力がみるみるとあふれ出てきた。


「これが霊力流解。霊力を全身に流し込み、自身の生まれ持つ特殊な力を増長させる技術じゃ」


 霊力を纏った剣蔵を見た狐の妖怪は、その身を小刻みに震わせていた。


「や、いや……来ないで!」


「なに、安心せい。今のワシは力に満ち満ちておる。苦しませはせんよ」


 背を向け走り出した邪の姿に、の老人の右手が重なる。


「ワシの霊能ちからは『消費霊力を抑える力』じゃ。この年になって霊力も人並みに枯れたが、この能力のおかげで今お前さんに最高の霊術を打ち込んでやれるわい」


 剣蔵の手のひらから妖怪へ、一直線。一本の細い、輝く光線が妖怪を貫いた。


「そして、霊力を流し込む」


 その光を伝い、剣蔵の霊力が狐の妖怪に注入されていく。

 妖怪は光に包まれた。安らかな表情をしていた。


「眠るがよい」


 妖怪は光と共に、消えてしまった。


「ふぅ。片付いたわい。公星君、今のが【霊力流解】、そして安らかな成仏をもたらす霊術【渓流けいりゅう泉水せんすい】じゃ。わかったかな……」


「はい!剣蔵さん!勉強になります!」


「良い返事じゃのう!」


 早くも師弟のようになってきた二人にある妖怪が怒鳴る。


「人間め!よくもあいつらを!わしが呪い殺してやる!!」


 その体をクジャクのように大きく広げたから傘おばけの声だった。彼は両の手で何かの形を結んだ。


「雨よ吹き荒れろ!【雨乞千落とし】!!」


 次の瞬間、雨は強くなり周りが見えないほど強烈なものになっていた。


「風雅!公星君!そこから動くんじゃないぞ!」


 あまりの豪雨に加え思わず体が飛びそうな突風が公星たちを襲う。雨一粒一粒がだんだんと速さを増し、まるで何千人もの人間が一斉にBB弾を撃ち続けているかのようだった。しかし、剣蔵の作った妖力の結界によって雨は遮られ、公星たちは守られた。

「ここまでの雨では炎は使えぬな……。風も音も遮られる……。少し遊びすぎたのう。霊力流解も時間切れじゃ。今のワシでは一分も持たぬとはのう」


「ははは!いい気味じゃ!!今じゃ!土倉どくら!」


 五つ目の妖気の正体、モグラの形をした妖怪が剣蔵を襲う。


「下からか!」


 間一髪、胴体に直撃することを避けられたが、腕を爪で傷つけられてしまった。土倉と呼ばれるモグラの妖怪はまた地中へと戻る。


「公星君!君の下じゃ!」


「ーーえ」


 飛び出したモグラの爪が公星の胸に刺さる。多くの血が舞う。


「公星!【印象】」


風雅によってモグラは引きはがされ、爪が心臓まで刺さることはなかったが、またすぐに地中へ消えた。


「公星、大丈夫か!」


「う、うん。だいじょ……ぐ」


「無理しなくていい。この霊具で……」


 風雅が手に持つ勾玉の形をした霊具に光が集まる。その光は公星の胸を優しく覆った。傷が癒えていく。


「傷が治った……?」


「霊具による治療だ。でも完全回復じゃない。だから休んでいろ」


「ありがとう。でもー」


 公星は顔に付着した血を拭って立ち上がる。


「ー俺は風雅の友達になったんだ。休んでなんかいられねぇよ」


「公星……」


 しかしフラフラな公星を見てから傘おばけは高笑いをする。


「はっははっは!!これは滑稽だ!無様にあらがって見せろ人間!!無力な勇敢さほど仲間の足を引っ張る……!死んで後悔しろ!!」


 から傘おばけは先ほどよりも長く、多くの形を手で結んだ。雨が上がっていく……。いや違う、一つにまとまっていったのだ。そうしてできた水の塊は、日食のように光を遮り、巨大で恐ろしいほどの密度を持っていた。そしてそれは公星たちを目掛けて落ちてきた。


「風雅!お前に任せる!ワシはモグラを!」


 剣蔵の言葉を聞いた風雅がダっと走り出す。


「石の力を逆に使う……。【反現はんげん】!!」


 風雅は引き寄せる力を逆にし、水の塊を反発させて押し返そうとした。

 しかし……


「お前のような小僧にこの術は破れぬ!!おとなしく潰れろ!!」


 風雅の力が足りず、水の塊はまだ落ちることをやめない。


「くっ、オレの力じゃ……」


 水の塊はもうすぐそこまで迫ってきていた。そのときだった。


「な、なんじゃ。いきなり押し返される……。いや、違う水の塊が大きくなっておる……!?」


「あんなかっこつけたこと言ったんだから、俺だって……役に立つんだ!!!」


 公星が水の石の力を使い、水の塊の中の水の動きを乱し、術によって生まれたありえない密度を壊していっているのだ。


「くそ、このままではこの水の塊は爆発する……ワシにも抑えきれるかわからん。じゃが!小僧に負けるほどの妖怪ではない!あの方からいただいた力によってワシは大妖怪にならぶ妖力を、霊指力をもっているのだ!!」


 から傘おばけはさらに手の形を変える。それに気づいた公星が自分の手に、人差し指に力を集中させる。


「漫画とかでよくある……一点集中。頼む俺、頼む石の力!!水よ貫け!!」


 すると先ほど剣蔵がやって見せたように細い、しかしまだ荒い水の線がから傘おばけを貫いた。


「ぐっ!あの小僧のどこにこんな力が……」


 不意を突かれた妖怪はバランスを崩した。


「今だ風雅!」


「ああ!【反現】!!」


 水の塊がだんだんと風雅たちから離れていく……。


「爆発しろおぉぉ!!!!」


 公星がもう片方の手で塊の中の水をさらにかき回す。


「くっやめろぉ!!」


 花火のような音と共に、圧縮されていた水は自由を求め外へ、そして解放された水は周りを、空気を削るように拡散した。それはから傘おばけにも、公星たちにも突き刺さった。


「よくやったぞ風雅、公星君。さぁお前さんもあれを喰らえ!モグラ!!」


 剣蔵は突っ込んできたモグラを蹴り上げ、水の針とも表せるそれを喰らわせた。


 そして、水を喰らったから傘おばけの傘の全身は穴だらけになっていった。


「ばかな……なぜワシがこんな小僧どもに……くそぉおおおおおおおおお!!!!」


 から傘おばけは断末魔を上げながら消えてしまった。モグラも同じく消えていった。


「公星!!大丈夫か!」


「うん、さっきよりは全然マシ。かすり傷程度。風雅は?」


「オレもそこまで喰らわなかった。お前のおかげだよ」


「いや、俺はなにも……。風雅の石の使い方がうまかったから勝てたんだよ。普通逆のことするとか思いつかないし」


「でも、お前はあの土壇場で水の力を自分の思い通りに操った。公星のその才能がなければオレ達は死んでいたよ」


「……そうなのかな……なんか恥ずかしいな」


「ふっ。まあな。でももっと自信を持てよ。お前の力がなきゃ勝てなかったのは事実だ」


「……わかった。ちょっと調子に乗ってみるよ」


 そんな話をしているところに、疲れ果てた剣蔵がゆっくりと歩いてきた。


「公星君、君はどうやら霊術や妖術よりも石の力を極めたほうがよさそうじゃ。もちろん霊術の指導をしないわけではないが、明日からの修行は石の力を主にやっていくぞ。それはそれは本当につらい修行じゃ。それに、今日のように危険な目にも合う。時には先ほど食った妖怪の魂をたくさん食うことにもなる。それほど過酷なものじゃが君にそれを乗り越える覚悟はあるか?」


「……はい!強くなるためなら、石だって鉄だって食います!!」


「ほほぉ!そうかそうか食いしん坊さんじゃのぉ!いい返事じゃ。しかし今日は突然の来客で災難じゃったからの。今日は泊っていきなさい。うまい料理をくわせてやろう」


「良いんですか!!でもマ……母に聞いてからでいいですか?」


「おお、もちろんじゃ。親御さんを心配させては悪いからのお」


「すみません、電話してきます……」


 この後、公星は泊ることになり、剣蔵の得意料理の肉じゃがを食べ、風呂に入り、歯を磨き、何気ない夏休みの一日が終わった。


 次回予告

 始まった修行。石の力を公星はどこまで引き出せるのか。

 次回 第五話『石と呼応』

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