親切ないい子だ
「あれ? 私の声聞こえてませんか?」
尚も俺に喋りかけてくるこの子は一体何者なんだ? これじゃあ俺が無視してるみたいだ。
「悪い、聞こえてる。急に喋りかけられたからビックリしてたんだ」
「す、すいません。あたなが困っているようでしたので……いえ、私の気のせいだったらいいのです」
この子は純粋な善意で俺に喋りかけてくれていたのか? 本当にこの世界で初めて会話する子がこんな可愛い子で、しかも性格までいいなんて……出会いに感謝しかないな。
「どうして俺が困ってるって思ったんだ?」
「はい、周りを見まわしていましたし、服装も冒険者には見えませんでしたから。もしかしたら、冒険者になるためにギルドを訪れたのかなと思ったのです」
すさまじいまでにその通りだ。
それほどまでに俺は挙動不審だったのか? この町に入ってから気を付けていたつもりだったんだが、見破られてしまうとはな。
装備を身に着けていないことで浮いてしまうとは盲点だった。まあ、あの神器級の装備を身に着けてギルドに入っていたほうがよくない方向へ言っていたのは間違いないだろうからどうしようもなかったな。
「君の言う通りなんだ。この町にもさっきついたばかりで、腕っぷしには少し自信があるから冒険者になって金を稼ごうとしてたんだよ」
「やはりそうでしたか。良かったら私が案内しましょうか? 初めての冒険者ギルドではわからないことばかりですよね。私もつい一か月前に冒険者になったばかりの駆け出しですが、それでも先輩として教えれることはありますから」
「ありがとう。どこで雇って貰えるのかすらわからなかったんだ」
今更ながらこの子も、魔法使いのような純白のローブを身につけている。いや、どちらかというと神官とか僧侶系な感じがするな。
「雇うなんて大げさなものではありませんよ。冒険者は誰でもギルドで登録することができます」
「そうだったのか。てっきり何か特別な試験でもあるのかと思ってた。いや、よかったよ。試験とかで落とされてたら俺、今日生活する金もなかったから」
「それは大変です。本来クエストはパーティを組んで行くものですので、今日は一緒に私もついて行きますよ」
そんなことまでしてくれるのか? 同じ駆け出し冒険者とクエストに向かう……それっぽいじゃないか。異世界に転生して初めてのイベントに持って来いだ。
「パーティということは君も誰かと一緒にパーティを組んでるのか?」
「はい。まだ来てないのですが……」
「あっ!! いたいた、おはようミレネ!! ……え? こいつ誰?」
「危ないよミカちゃん、もうっ、初対面の人にこいつなんて失礼だよ」
横から誰かが飛び出してきたかと思ったらそのまま、正面の女の子に抱き着いている。
警戒心マックスで俺の方を見据えるこの子もかなりの美少女だ。輝くような金髪に、くりっとした目、その緑の目で俺が睨まれていなかったらもっとよかったんだけどな。
「ミレネに何かよう? 見たところ冒険者じゃなさそうね。もしかしてミレネのストーカー? 間違いないわ。これ以上近づくんじゃないわよ!!」
散々な言われようだ。
ミレネちゃんとは大違いだよ。
「この人は初めてギルドに来て困ってたから話を聞いてただけ。ミカちゃんが思ってるような人じゃないよ」
「本当にそう言い切れるの? 言葉巧みにミレネを騙してるかもしれないのよ。私の目はごまかせないわ」
「ミカちゃんいい加減にして。これ以上失礼な態度を取るようなら私も怒るよ」
「いや、違うのよミレネ。私はただミレネが悪い男に引っかからないように……」
おっとりした子かと思っていたが、迫力だけでミカちゃんが後ずさっている。
この子を怒らせたら怖いことを知れてよかった。万が一にも俺が怒らせてしまうようなことになるわけには行かないな。
「悪い、なんか一方的に二人の名前を聞いちゃったな。俺はダイサク。よろしく」
「ダイサクさんですね。これからは同じ冒険者になるのですから助け合って行きましょう。私は、ミレネです。こっちはパーティメンバーのミカちゃんです。普段はもっといい子なのですが、今日は機嫌が悪いみたいです」
「フフッ、変な名前ね」
「……ミカちゃん」
「ごめんなさい!!」
俺の名前を馬鹿にしたミカちゃんは速攻平謝りだ。この二人の力関係はよくわかったな。
「私たちは二人で活動してますので、今日はダイサクさんのクエストを手伝いますよ。まずは、登録しに行きましょうか」
「本当にありがとう。頼むよミレネ」
「気安くミレネの名前を呼ぶんじゃないわよ。せめて様をつけて敬いなさい」
「本当に怒られたいの?」
「冗談よ、冗談。軽いジョークじゃない。私のこともしょうがないからミカって呼んでいいわよ、ダイサク」
迫力に負けて話を逸らしたな。
なんでこんなに俺にとげとげしいんだ? まあ、ミレネが居れば大丈夫か。
「こちらで登録ができるので私についてきてください。ミカちゃんも歩きにくいから離れて」
ずっと抱き着いたままだったミカはミレネから名残惜しそうに離れていった。
そのままミレネについて、受付のカウンターへと向かった。