スキルが……。
「しかしこの森はどっちへいけば抜けられるんだよ。こういう時に、索敵系のスキルがあれば便利なんだけどなぁ。まだ鑑定スキルしか持ってないから無理か」
森の中を適当に進むのは効率が悪すぎる。こういう細かいところから苦労していくのも醍醐味なのかもしれないが今はちょっとそういう気分にはなれそうにない。まだレベルが馬鹿みたいに上がっている現実を受け止めきれていないんだよ。
四方八方に生い茂る木々を見るだけで憂鬱な気分になる。
これがもしも広大な草原だったならば、町も視認できたかもしれないんだよ。レベルアップで視力も強化されていれば尚完璧だな。
ちょっと目に集中して見るか。
少し離れた木の葉っぱの線でも見えるかと思ったが、それどころではなかった。
まさに視界が木を貫通した。
ここからでは見えるはずのない木の後方の景色が視界に広がっている。それも、どんどん遠くまで見えるようになっていく。
「なんだ!? どうなってるんだ!?」
意味のわからない現象に少し動揺してしまう。
そんな俺の動揺は意に返していないのか、視界は森を抜けきってしまっていた。
「え? 森の先に町が見える……マジかよ……」
これから苦労させされるのかと思っていたことが今の一瞬で解決してしまった。こっちに町があることが確定してしまった。俺の目はどうなってしまったんだ?
「さっきレベルアップした時にスキルは増えてなかったよな……そうだよ、俺はしっかり見たんだ。鑑定スキルがレベルMAXになってただけだ……いや、俺が見逃したとは考えられないが、そう……念のために確認しておくか」
もう慣れた手順でステータスウィンドウを表示させる。
上から俺の名前、目を逸らしたいレベル。その下にスキルが……千里眼? それもレベルMAX? は?
「いやさっきは絶対になかったって。急にスキルが増えてるぞ」
こんなにあっさりスキルが増えてもいいものなのだろうか。ほかの転生者は、チート能力を持って転生しているとすると、それはスキルのようなもののはず。俺はそれを簡単に習得し、レベルMAXにしてしまっている。ぶっ壊れてないか? もちろん、俺の取得しているスキルなんて転生者のチート能力に比べればしょぼいもんだろうけど、俺強くないか?
「千里眼なんてどうやって覚えたんだ? も、もしかしてさっき索敵系のスキルがあれば便利だなって言ったからか……いやいや、もっとほかに要因があったはずだろ……ないわ」
間違いない、俺が欲しいと思ったから習得したんだ。あのモンスターと戦った後には覚えていなかった、つまり高速移動で目が覚醒したとかでもないんだよ。なら、もう俺が欲しいと思ったからとしか言えないだろ。
せっかくだし、もうちょっと使ってみるか。
今度は意識して視界を飛ばしてみる。
先ほどは前方に飛ばした視界を上空へ打ち上げる。
「すっげぇ。まるで俺が飛んでるみたいだ。空からの景色が一望できるぜ。あ、鳥が飛んでる。俺も鳥みたいに大空を飛んでみたいなぁ。きっと楽しいんだろうな……やべぇ、また欲しいって思っちまった……これで飛行系のスキルを習得してたら俺は本物だぞ」
恐る恐るステータスウィンドウを表示させる。
「ハハッ、おかしいってこれ。飛行ってスキルが追加されてるんだけど……」
当然のように、俺のスキルの欄に飛行レベルMAXが増えてしまっていた。この調子で何も考えずに生活していたら俺は意味のわからない程大量のスキルを習得してしまうことになる。それじゃあ、ますます俺の目指す困難を乗り越えて強くなるっていう生活から遠ざかってしまう。既に、この世界で一番遠いところまで来てしまっている気もするが、要は気の持ちようだ。俺がレベル5だと思えばレベル5なんだよ。スキルなんて覚えてないって思ったら使わないだろ。そういうことなんだよ。
「まあ、使っちまったもんはしょうがないし、今回だけは千里眼で見つけた町へ向かおうかな。それと、スキルたちは一時封印だな。あとこの装備と防具も封印しよう。モンスターの素材もレア度やばそうだしどこかに保管しておきたいな」
神様から授かった素晴らしい装備なのだが、一般人として生活するうえでこんなものを持ってたらオーバーキルもいいところだよ。
金ぴかの素材も手に持つわけにもいかないしな……あれ? これはもしかして……。
案の定、スキルの欄に異空間収納なるものが追加されていた。
「おかしい。俺はどこかに保管したいと思っただけのはずだ。なんでこんなスキルが……嘆いてもしょうがないか。これは実用的そうだし、ありがたく使わせてもらうか」
あまりにも便利で俺は装備とモンスターの素材を収納スキルへ放り込んだ。
そのまま異空間へ収納さえ、俺の手には何も残っていない。荷物を持つ煩わしさも消え去ってしまった。
唐突に神スキルをゲットしてしまったんだが……。
「おしっ、今までのことはきれいさっぱり忘れてこれからリスタートだ。さあ、町へ向かうか」
気を取り直して今度こそ先へ進むぞ。