この能力で行こう
「まずは、おぬしが転生することになる世界の説明に入るとするかのぉ」
そういうと、じいさんは真剣な眼差しで俺を見据えた。
急に顔がマジになってるけど、そんな重大なことを話す展開なのか? 確かに転生する世界の話は重要だけどさ、明らかに今までと雰囲気が違うんだよ。
「おぬしの世界とは全く持って別物のモンスターが生息している危険な世界なのじゃ」
「モンスター?」
「そうじゃ。わかりやすい例えは……動物をより凶暴に、危険な存在にしたようなものじゃな」
それってまずくないか。俺はマンモス相手に狩りを繰り広げていた原始人じゃない。ごく平凡な高校2年生だ。来年に迫った大学受験から現実逃避する程度には平和な生活を送っていたんだぞ。それが、急にモンスターがいる世界に? 冗談きついって。
「ほかの世界に変えることはできないのか? ちょっと俺には荷が勝ちすぎてるって」
「無理じゃ。この世界に転生することがおぬしが新たな人生を送るためのたった一つの条件じゃからな」
俺の提案はあっさりと否定されてしまった。
「まあ、話はまだ終わっておらん。なにも、おぬしをこのまま送り出すわけではないぞ。この世界で生きていくため、そして、いつか魔王を打ち倒すためにチート能力を授ける。これさえあれば、モンスター相手にも遅れを取ることはないじゃろう」
「チート能力って何なんだ? それに魔王って?」
「チート能力とはその名の通り、およそ普通の人間では持ち合わせることのできない程のすさまじい能力じゃ。これをおぬしに授ける。魔王についてじゃが、おぬしの最終的な目標とでも考えておいてもらえれば支障はないの」
俺は通常であれば、モンスター相手に何の対抗手段を持っていないただの人間だが、ここでチート能力を授かることで圧倒的な力を手にすることができるというわけか……でもそれって面白くないな。もっと、俺は過程を楽しみたいんだ。
「魔王を倒すのは、別にそんなに重要視しなくてもいいのか?」
「うむ、これまでおぬしのような人間を何人も送り出してきたのじゃが今まで討伐には至っておらんのじゃよ。既に何人かは魔王に敗れ死んでしまっておる。じゃから、おぬしにも魔王は討伐してもらいたいが、無理はせんでよい。倒せるようなら倒す程度で考えてくれておれば良い」
「わかった。俺も折角貰った命を無駄にするようなことはしたくないからな」
魔王に関してはふわっとしてるな。
犠牲者が出ているのを考えれば無理をするのも厳しいのかもな。頭の片隅に覚えておこう。
「チート能力はおぬしが好きに選んでくれ。おぬしも納得したもののほうがいいじゃろう? あまりにも常識外れなものでなければ大抵は可能じゃ」
自分で好きなもんを選んでいいのか。それだったらやっぱり最初から最強よりも徐々に強くなっていくほうがいいな。いきなり最強は個人的にはあまり好みじゃないな。もっと変化が欲しいんだ。
「例えば何だけど、成長の限界をなくすとかってできるのか?」
「可能じゃ。レベルというものと、個人個人に上限レベルがあるがそれを取り払うという意味じゃったらできるぞ。じゃが、最初は普通の人間のようなものじゃし、危険はあるじゃろうな」
「いや、それで構わない。俺は自分が成長する過程を楽しみたいんだ」
「いいじゃろう。それだけではほかの者たちに劣るじゃろうから、成長速度にも少し倍率をつけてやろうかの。おぬしの能力は無限成長と成長速度二倍じゃ」
すぐに俺の能力は決まったな。これで、新たな人生を送る上での土台が完成した。この能力で俺は異世界で強くなってやるぜ。
「細かいことは困らないようになっておるから心配せんでいいぞ。後はそうじゃな。おぬしには初期装備として軽い防具と武器を授けよう。ほかの者と違い、最初から最強というわけではないからのぉ」
俺にだけ特別にくれるなんてありがたいな。
転生したての俺は今までと何ら変わらないようなレベルだし、緊張感を持っておかないと速攻死んでしまう可能性もあるもんな。気を引き締めて行かないとまずいな。
「ありがとう。俺もいつかは魔王を倒せるように頑張るからな」
「励むんじゃぞ。おぬしの能力ならば可能性はあるからのぉ。おっと、言い忘れておったが魔王を倒すと何でも願いを一つ叶えてやるからの。それと、おぬしは歳を取ることがないから、ゆっくり成長していくのじゃ」
願いを何でも一つか……もし魔王討伐を目指すことになったら考えておかないとな。
魔王を倒すために、いろいろなサポートがあるというわけか。その一つが寿命がなくなることだってことだな。ということは、俺よりも前に転生していった人とも会う可能性があるな。一体どんな能力を持って転生したんだろうか。少し興味はあるな。
「ほかに質問がなければ早速転生を始めるぞ。準備はいいかの?」
「ああ、いろいろありがとう。俺はいつでも大丈夫だ」
「うむ、それでは行くぞ。おぬしの第二の人生が素晴らしいものになることを祈っておる」
じいさんがそういうと、俺の視界は白く染まった。