宿代の交渉
「ここが私たちが住んでいる宿です。横にあるのがダイサクさんに紹介しようって言っていた宿ですね。すぐ横なのでいつでも一緒にクエストとに行けますよ」
ミレネについて歩くこと数分で目的地に到着した。
二人が住んでいるという宿だが、こちらは言っていた通り綺麗で清潔感のある宿だな。それに比べて俺が泊まる予定の宿と言えば……これまた言っていた通りかなりぼろい。外観から既に滲み出るぼろさが隠しきれていない。隠すとかそんなレベルでもない。もろにぼろい。
「これまた年季の入った宿だな。金もないし、贅沢言える身じゃないけどさ……しょうがない、当面のあいだはここを拠点にするか」
「中は綺麗かもしれませんよ。私たちも入ったことはないのであまり無責任なことは言えませんが、きっといい宿ですよ」
ものすっごい無責任だ。
中が綺麗だったら俺の所持金で泊まれないかもしれないじゃないか。
「それじゃ、永遠にさよなら。死なない程度に頑張りなさい」
「おい、ミカなんかおかしいぞ」
「今日一日付き合って上げただけでも感謝しなさいよ。おかげで私たちも収入が減ってるのよ。明日は当然討伐クエストに行く予定だし、ダイサクは戦力外よ」
金について言われるの反論の余地もないのでやめてほしいな。
俺だってそこに関して言えば申し訳ないと思ってるんだよ。
「俺が戦力外だと? 剣も借りてるし……これ借りたままで良かったのか?」
今更ながら腰に差したままになっている剣を持って帰ってきてしまったことに気が付いた。一応、ギルドのお姉さんが素手では危ないからと持たせてくれた武器だが、名目上は借りたという体になっているはずだ。借りぱくしちまったかもしれない。明日謝ってまた借りよう。
「いいんじゃない? どうせ忘れ物でしょ。それに、ここ一日、二日の話じゃないでしょうし、持ち主が現れないままになっていた剣よ。もう返しても扱いに困るだろうから貰っちゃえば? 私は怒られても知らないけどね」
「俺が怒られるかもしれないってのに適当なこと言うなよ。いやいや、こんなことしてる場合じゃないんだよ。宿に入るから一応ついてきてもらってもいいか?」
「わかりました。万が一お金が足りないって言うこともありますしね。そこは私が貸してあげますので任せてください」
結局借りる可能性を残してしまっているのは申し訳ないが俺も野宿をすることに比べればこの程度の恥なんてどうでもいいことだ。
とりあえず、ぼろい……いや年季の入った戸を開き、中へと入る。
「ごめんください」
「おお!? いきなりなんだい?」
俺たちが中へ入ると、少しやせているおばさんが驚いた表情で出迎えてくれた。これは出迎えてくれているというには反応がおかしいが、俺たちはお客さんなわけだし、きっと歓迎してくれてるんだろう。
「ここに泊まりたくて、一泊いくらですか?」
「ああ、客かい。いきなり入ってくるもんだから泥棒かと思ったじゃないか」
「ごめんくださいって言ったよね俺。え? ここ宿じゃないのか?」
「いんや、れっきとした宿だよ。最近はあんまり客が来なくてねぇ。こうして暇してたわけさ。お前、まさかそんな可愛い子を二人も部屋に連れ込もうってのかい? 最近の若いのはやるじゃないか」
勘違いもいいところだ。
またミカが騒ぐんじゃないか? 面倒だからおばさんもいい加減なこと言わないでくれよ。
「そんなわけないだろ。俺に安く泊まれそうな宿を紹介してくれただけだ。二人は別の宿に泊まるから関係ねぇよ」
「なんだい、つまらないねぇ。ということは、客はあんた一人か。はぁ、やってらんないわ。わざわざ一人泊まらせるために私は働かなくちゃいけないのかい?」
「おいおい、それはないだろ。俺は一応、客として訪れたんだぞ。それなりの対応ってものがあるだろ。あーと、予算は銅貨5枚までで頼むよ」
「なんだい、それっぽっちかい。余計やる気がでなくなっちまったよ。せめてその10倍は用意してくれないとねぇ。私を働かせようって言うんだ。対価はもちろんもらうからねぇ」
「高すぎだろ。それなら違うところに行くって。お願いだよ。俺も野宿するのは嫌なんだ。モンスターに襲われるかもしれない状況で呑気に寝られるほど図太くないんだよ」
果たして、そんな状況で眠ることができる奴なんてこの世にいるかわからないが、俺はとにかく野宿だけは嫌なんだよ。
「はぁ、めんどくさいねぇ。わかったよ。久しぶりの客だし、サービスしといてやるよ。見たところ冒険者だろう? もっと稼げるようになったら宿代も上げるからね。それまでここに住むんだよ」
「それって、おばさんが暮らしていけるくらい俺に稼げってことか?」
「私はほかにも収入があるから別に全額払えって言ってるわけじゃないさ。ある程度は貰うから覚悟しておくんだね」
理不尽だが、今日は俺の全財産で何とか宿泊させてもらえそうだ。
「良かったですね。それでは、無事に宿も決まりましたし、私たちはこれで失礼しますね。明日は8時くらいに宿の前に集合しましょう。寝坊したら置いて行きますから、絶対に起きてくださいよ」
「ああ、また明日。今日はありがとな」
二人は用が済んだので、宿から去って行った。
「それじゃあ、こっちの部屋を使っていいよ。ほれ、鍵。私はもう寝るから後はあんたの好きにしなさい」
「え?」
それだけ言うとおばさんは足早に奥の部屋へと消えていった。
「風呂とかどうすればいいんだ?」
疑問が残る中放置されてしまった俺は、何とか風呂場を見つけ、風呂に入った後、自分の部屋で眠りについた。




