異世界転生
「……うぐっ、あ、頭が痛い……」
急にズキリと頭が痛む。
頭痛で目を覚ますなんて、今までに覚えもない。
「お! 起きたようじゃな。なかなか起きんから心配したんじゃぞ。つい、わしの力で頭に刺激を与えてしまったわい」
聞き覚えのないじいさんの声が聞こえる。
頭痛で目を覚ましたというのにまだ夢の中だっていうのか? ここは俺の部屋でじいちゃんは一緒に住んでない。しかも、声が俺のじいちゃんのそれとは異なっている。
「何を呆けておるんじゃ?」
「いや、起きたつもりだったんだがどうやらまだ夢の中なんだと思って。ところでじいさんは誰だ? 俺の頭痛はじいさんが原因なのか?」
今度は声のしたほうを確認する。そこには、何年剃らなかったらここまで伸びるのわからないほどの髭を生やした白髪のじいさんが立っていた。俺のじいちゃんはもっと、普通のじいちゃんだ。こんな一度見たら忘れない程のインパクトはない。記憶をさかのぼるが、やはりこのじいさんは見たことがない。
どうやって俺の夢に出てきたんだろうか? 謎だな。
「すまんのぉ。おぬしが一向に起きる気配がなかったから、軽く痛みを与えたんじゃ。経験上、これが起こすのに最も向いておるからの。目はさめたじゃろう?」
「確かに目は覚めたけど……普通にゆすったりするんじゃダメだったのかよ。結構痛かったんだけどな」
「加減が難しいんじゃ。気が付かんほどの痛みじゃ意味ないじゃろ?」
おちゃらけた様子が少し癇にさわるが、これは所詮夢だ。俺が腹を立てたところで何の意味もない。
でも、夢で痛みを感じるなんて不思議なこともあるんだな。
「本題に入るが、さっきおぬしが言ったことは間違っておる。ここはおぬしの夢の世界じゃないぞい。すぐには信じられないかもしれんが、わしは神でここは死後の世界じゃよ。周りを見てみるんじゃ」
「え?」
いきなり告げられる驚愕の真実に俺の思考はシャットダウンしてしまった。
「困惑するのも無理はないんじゃが、こればっかりは信じてもらわんと話が進まんからのぉ。納得してくれるとありがたいの」
「え? いや……えぇ?」
「一旦落ち着くんじゃ。ほぉら、こういう時は深呼吸じゃろう。ゆっくり深呼吸するんじゃ」
働かない頭で何とか言われたとおりに深呼吸をする。
「すぅぅー、はぁぁー、すぅぅー、はぁぁー」
「どうじゃ? 少しは落ち着いたかの?」
まだ受け止めきれない現実に頭はついてこないが、思考は少しずつ戻ってきている。
今更、周囲を見渡してみるが、じいさんの言う通り見覚えのある俺の部屋ではなかった。まるでどこまでも続いていると錯覚するような不思議な空間だ。
このじいさんの話では、ここは死後の世界ということだ。え? 俺死んだ?
「ちょっと質問してもいいか? じいさんの話から推測するに、俺は死んだということなのか?」
「お、そうじゃな。まだそのあたりも説明しておらんかったわい。おぬしの言う通りじゃ。おぬしは不幸にも、短い生涯に終わりを告げたばかりじゃ。もう、不幸と言うほかにはない死に方じゃったな。おぬしは覚えておらんじゃろうから、説明はせんがの」
「嘘だろ……」
じいさんからまたも信じがたい真実を教えられ、軽いパニックに陥る。
まだこれは夢という可能性が残されている。でも、自分が死んだ何て夢で見るもんか? くそぉ、意味がわからん。俺の最後の記憶は、ベットに入って眠りにつく時のものだ。どうやったら、ここから不幸な死を遂げることができるんだ。じいさんがここまで言うからには俺には予想もつかないことがおきたんだろう。
「まあ、簡単に説明すると死んだおぬしをわしが新たな世界へ転生させるためにこうして呼び出したわけじゃ。ここは死んだ者、全員が来る場所ではないんじゃよ。わしが特別に選んだものが訪れる場所じゃ」
「え? 転生? どういうことだよ、俺は生き返れるのか?」
「厳密には、異なる世界へ転生するんじゃから生き返るといわれると少し違うかの。いや、おぬし自信の記憶も姿もそのままじゃからあながち生き返るというのも間違いではないの」
俺は死んだが別の世界で生き返れる、そういうことだろう。
まだ、自分が死んだという実感がまったく湧かないが、先ほどからずっとつねっている頬も痛みを訴えている。この痛みが夢だとはどうしても思えない。
「俺が死んだということには一旦納得するとして、どうして転生になるんだ? 生き返らせてくれるのじゃダメなのか?」
「おぬしが自分の世界に戻りたいという気持ちはわかるが、残念なことにそればっかりはできんのじゃ。説明すると、ながくなるからのぉ。納得してくれ」
俺はもうあの家に帰れないのか……。
前向きに行こうじゃないか。もうどうしようもないことを考えていてもしょうがない。俺はまた生き返れる、それだけで十分じゃないか。
新たな人生をこれから送ろうと言うのに、暗い気持ちのままなんてもったい。
「すまんのぉ。できればわしもおぬしを元の世界へ戻してやりたいんじゃ」
「俺は大丈夫。今、前に進むって決めたんだ」
「そうじゃな。おぬしは確かに不幸にも死んでしまった、じゃがなわしの目に留まり、幸運にも転生する機会を得たんじゃ。リセットして新たな人生を送るのがいいじゃろう」
すぐに気持ちを整理するのは難しいかもしれないが、新たな世界で過ごしていくうちに時間が解決してくれる。
家族や友達二度と会うことができないのは確かに寂しい。でも、俺が生き返ればまた出会いはあるんだ。
「これからは、転生する世界について説明をするからの。わからんことがあったら質問するんじゃぞ」
「ありがとう。頼むよ」
こうして、俺は異世界へ転生することになった。