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壊れた気まぐれ

作者: 橘立花


この物語を始めるに当たって、一つ忠告しなければならないことがある。


この物語は自分でオチることのない物語だ。自分でそれを実行することはできない。


しかし他人の力ならこの物語がオチるのかもしれない。



教室の端、窓際の一番後ろの席に少年の姿があった。

ぱっと見たところ、漆のように黒く皺一つない学ランを何気なく着こなしていた。サイズ自体は少し大きめな印象を与えられるが、少年から出ている威圧感のような物がそれを思わせない。

ボタンが一つ開けられた少し上には人間とした当たりまえだが、顔があった。顔自体も全体的に整っている方で、これならば美系の部類に入るのではないかと思われる。髪型は学校の規則に沿ったような短髪の味気のない髪形だった。

そして一つ問題が挙がる。

彼の表情を観察すると、どうも何か大事な物が抜けている気がするのだ。第一に能面のようにのっぺらした顔で、窓から眺めている視線が空の一点だけを見つめているのだ。これは先生から言わせてきれば、「覇気がない」の一言に尽きるだろう。

少年は周囲から冷ややかな視線で見られ、誰も近寄ろうとはしない。まだ友達が出来ていないだけだろうか?

いや、それは違う。新たな学校生活が始まって今やもう3学期だ。そこまでの期間があって仲間の一人も出来ないというのは信じられない話である。

その真相はどうなのかという話だが、それはただ少年自身がそうしなかっただけなのである。

少年は仲間を作るという行為を拒絶していた。少年は一匹狼みたいに格好をつけている訳ではない。

ただ一言『面倒くさい』だけなのである。

そのせいで、少年はしばしばいじめにもあっていた。いじめの内容については、靴を隠す、声が聞こえるようにわざと悪口を言うというぐらいでそこまで大したことではなかった。後者については休み時間、もしくは授業中にもイヤフォンを付けて音楽を聴いているのでいじめにあっているという実感はないらしい。

授業中にも音楽を聴いていることについては、最初は先生に何度も注意されたが、最終的には先生が根負けして何も言われなくなったのだ。テスト自体は悪いわけではないという理由もあるだろう。

しかし…いや、とうとう事件が起きる。普通という道から()れれば、いずれそうなる運命なのである。電車だって脱線するればよっぽどの奇跡が重ならない限りは大惨事を招く。

そしてなにより、事件が始まらなければ物語が進まないのである。これは少年の人生なのだ。なにかの事象が起きなければ次には進めない。それは何だってそうである。


僕は普段通り耳にイヤフォンを付け、音楽を聴ききながら登校する。音楽は基本的にメタル系の激しい曲を聴いていた。細かく分類していけばブラックメタルに属し、好きなアーティストはディム・ボガーやエンペラー。そして登校の際に隣には友達は居らず、駅に向かう中年のサラリーマンが次々に通過するのみ。

前を見ると少しばかり傾斜のある階段があり、数種類の制服の学生が上って行く。スカートの丈を膝より上げ、もはやミニスカートを履いているような女子高校生もいる中、そのスカートの中を下から覗きこもうとする男子高校生もいた。そんな盛っているは男子高校生は自分からすればどうかしていると思うが、覗かれると分かっているのにも拘らずスカートを短くする女子高校生もどうかしているのではないか。そんな事を少し考えているうちに校門の前に到着した。

公舎に入って自分の靴箱を開けると、もちろんそこは空っぽだった。いつもご苦労な事だ。僕は靴下のまま事務室に向かい、慣れた手つきで茶色いスリッパを摘まんでそれを履いた。

昨日久しぶりに自分の上履きに再開したのだがそう長くは持たないようだと考えていると、イヤフォンから流れる曲が変わった。アーティストはアークエネミーである。哀愁あるリードギターが気に入っているおり、好きなアルバムは1枚目から3枚目だ。

階段下に来るまでに、廊下の床には黒く変色したガムが複数見られた。特に駅の構内などで見かけるあれだ。僕はたまに先生がそのガムを憎たらしそうに銀色のヘラで取っているのを見たことがあった。たしか掃除用具箱の中に入っていたのだっけ、と思いだす。

そんな学校の状況を見て分かる通り、この学校は近隣からの評判が悪く柄の悪い高校として知られている。

僕は階段を使い、2階について左に曲がると、一番手前に自分のクラスである1-6組の札が見える。

僕は教室内を確認することもなく一直線に自分の席に着いた。僕がクラスに入ると空気が少しばかり変わりそわそわし始める。

いつもは机にうつ伏せになる僕だが、今日は空の一点を見つめていた。ただなんとなくそんな気分だった。

聞いている音楽のせいか、綺麗だろう空が少しどんより見えた気がした。


朝の休み時間はなんと短く感じることだろうか、いつのまにか数学Ⅰの授業が始まっていた。もちろんイヤフォンは付けたまま。

授業が始まるや否や、前方から視線を感じる。

僕が視線のする方向に目を向けると一人の女子の姿が映った。彼女は僕が視線を向けた途端に照れた顔をして目を逸らしてしまった。

日々続けられるその視線が僕は嫌で仕方なかった。僕をそんな奇異の目で見ないでくれ、関わらないでくれ、と言いたかったかもしれない。

そんな全てを無関係だと思って過ごしている僕でも、一つぐらいはやることがある。

音楽の授業のギターだ。どうでもいいような発声練習などを除けば音楽の授業は娯楽だ。もし別の授業の書写や美術の場合は地獄だったであろう。

僕は自由にギターを使える時間は、いつも聞いているようなジャンルの曲を弾いている。エレキギターならばいいのだが授業ではアコースティックギターなので、今日はシステム オブ ア ダウンのクリーンの曲を弾いていた。曲調は短調で右耳にはイヤフォンをしている。

もちろん僕の演奏を聴く者はいない。演奏を聞くとすればクラスで人気がありながらギターが多少弾ける者の演奏を聞いている。

その男子の曲調は僕とは正反対で、明るく軽快な音楽だった。僕とは全くの正反対、人間が根本から違うのだ。

そんな男子を取り囲むようにしている群衆の中から、またしても視線を感じた。

またもや彼女だ。彼女はその男子の演奏見てはいるが、そわそわしていて演奏を聞いている感じではなかった。

こちらをチラチラ窺ってる事から、こちらの演奏を聴いているようにも感じる。きっと気のせいだろう、と思った僕は神経を頭から手に戻して曲の演奏に専念した。


そして昼休み。僕は鞄から弁当の入った巾着と水筒を取り出して机の上に置いた。

白に近い茶色を基調とした巾着で、中央には可愛らしい芋虫の刺繍が施されていて下には『I Am Hungry』と書かれていた。これは母の趣味なので僕が選んだわけではない。家を出る際に台所の近くに置かれている。

水筒は表面が銀色で上の黒い蓋に飲み物を注いで飲むタイプだ。

僕はそんな巾着から透明のタッパーとぼかしの入った形状の似ているタッパーを机に出した。

「いただきます」とは言わない。一人で言っても惨めなだけだ。頭の中でぶつぶつ考えながらタッパーを無造作に開けて箸をつけた。

今日の弁当は久しぶりに手作り感のある弁当だった。いつもの食べ飽きた冷凍食品であるよりかいいが、僕は特に気にすることもなかった。

そして昼食を食べている間にも、例のあの視線だ。確かめるまでもなく、もちろん彼女の視線だった。もういいかげんにうんざりしていた。

昼食を食べ終わった僕は朝と同じようにまた空を眺めていた。朝よりも少しばかり雲の動きが早く感じられた。

しばらく眺めているとぼうっとなっていき、空に吸い込まれるような感覚に合う。そんな時はイヤフォンから溢れる音の世界が小さくなって、目の前に広がる視覚の世界が大きく感じることもある。

イヤフォンから流れる世界からは咆哮のような声とクリーンの声使い分けたヴォーカルと心地の良いパーカッションの音が聞こえた。このアーティスト、スリップ・ノットも好きなバンドの一つである。そして今度ばかりは空がどんより見えなかった。


時間が過ぎるのはなんと早いことだろう。僕は黒板に書かれている事をノートに簡単にまとめて授業を終える。それは勉強というより作業という言葉の方がしっくりくる気がする。

そして帰りのショートホームルーム。

先生はクラスにいる生徒が全員いるという事を確認せずにさっさと始めようとする。ぱっと見ただけでも数名居なくなっていることが分かる。

先生は白を基調とし、赤と青のラインの入ったジャージを着ていた。恰好で分かる通り体育を担当している先生だ。

彼は体育の授業中等に女子へのボディタッチが多いためか、女子生徒からは反感を受けている。そして噂ではPTAを敵に回して教育委員会に訴えられただの、一人の女子生徒と援助交際をして妊娠させてしまった等というような噂がたっている。

先生に名前を呼ばれ号令係が「起立」という言葉と共に立ち上がる。立ち上がるタイミングも皆バラバラで気だるそうに立ち上がる。自分もその一人だ。

「礼」、と号令係が言ったと同時にほとんどの生徒が座るため、「着席」という言葉が意味をなさなくなっている。

そして教壇の前に立っている先生は連絡事項を手短に伝えて話を終えた。まじめに聞いている生徒はいないに等しい。

またもや号令係が先生に促され「起立」と声を張った。「さようなら」という言葉だけは全員活気に満ちているに違いないだろう。先生は掃除を見守ることはなくすぐに教室を出た。

そして一人一人が机を前に寄せて清掃が開始される。残念な事に今週の清掃当番は自分の班だ。そして自分の班には、いかにもといったチャラついた三人集団がいる。

そしてその中の一人が僕に声を掛けた。

「おい、ちゃんと掃除しとけよな!」

茶髪の男は僕を睨むようにしてそう言った。

しかし僕は、耳にイヤフォンを付けているため一回では聞き取れない。相手側のイヤフォンを外して耳に手を当て、もう一度言ってくれというポーズを取った。

「てめぇは耳の遠い爺さんかよ」

茶髪の男がそう言うと周りの男達がゲラゲラ笑いだし、「たしかにな」と頷いていた。

僕はその三人集団に対し少し目を細め、ただ見据えた。

それに気づいたのか、またしても茶髪の男が突っかかってきた。

「お前、気持ちわりぃんだよ。俺達の分も掃除やっとけよな」

男はそう言うと、周りの仲間を連れて教室を出ようとした。

その間僕は掃除用具入れを開け、乱雑に詰めこめられている自在箒の一つを手にして去って行く男たちに向けて放り投げた。

自在箒はおかしな軌道で飛んでいき、三人集団の一番後ろの頭にラインの入った短髪男子に直撃する。

自在箒が当たった男子は後頭部を押さえてこちらに振り向いた。自在箒がガシャンと落ちる音と共に叫ぶ。

「痛ってぇな!・・・なにすんだよ!」

短髪の男は僕に殴りかかろうとしたが、茶髪の男がそれを制した。

「お前もなんだよ。やり返すぞ!」

「まぁ待てよ。やるんなら屋上でやんねぇか?誰も来ねぇだろ」

茶髪の男は「な?」と肩を叩くと、短髪の男はしぶしぶ引き下がった。

すると、背の低めのもう一人の男子が二人にこう言った。

「わりぃ。今日俺、彼女と一緒に帰る約束があるから帰っていいか? あいつ怒ると怖いんだよ」

そいつは両手を顔の前で合わせて「ごめんな」と謝った。二人はそんな彼を特に嫌な顔をせずに了解した。

「はいはい。まったくお前はノロケ過ぎなんだよ。終わったら写真付きでメール送ってやるよ」

茶髪の男はそう言って彼の背中を押しだした。

すると短髪の男子が茶化すように、「ヤる時はゴムしろよ」と付け加えた。

そして二人の視線が僕に戻る。さっきまでの和やかな空気が一転し、殺伐とした空気が戻ってくる。

茶髪の男が短髪の男の耳元でなにか呟くと、「来い」と一言残し教室の出口に歩いていく。

その瞬間僕は、ガムを剥がすための銀色のヘラを思い出し掃除用具箱の左側のフックに取り付けてあったヘラを後ろポケットにしまった。ヘラの持つ部分が少しポケットからはみ出したが学ランを着ているためその下に隠れた。なぜ僕がヘラを手にしたのか自分でも分からないが、何もないよりマシだという考えに至った。

そして僕はヘラを後ろポケットにしまって二人の後をついていった。


屋上に向かってる途中数名の生徒とすれ違ったが、皆こっちをチラッと見て視線逸らした。これから何が起こるのかきっと皆分かっているのだと思うが、なにも、誰も口を出さい。

そしていつの間にか屋上に繋がる扉の前に立っていた。

「チッ、鍵かかってら。どうする?」

短髪の男がガチャガチャとドアノブを回した。

「あ? 開いてねぇのか、じゃあ無理やり開ければいいだろ」

茶髪の男はそれが当たり前かのように扉を蹴破った。作りが古くてガタがきていたせいか、扉は派手な音をたてて開いた。

そして悪びれた様子もなく扉を通り屋上に出た。僕は短髪の男に手首を思いっきり引っ張られて引き込まれた。

我が高校の屋上は基本的に立ち入ることが禁止されていて、屋上に出るには教師の許可が必要かこのようにむりやり開けるしか方法はない。

僕は初めて屋上に来たが、校舎が大きい分屋上も広かった。金網がないのが少しばかり手抜きな感じがする。床は一般的なコンクリートで覆われており、端の方には給水塔が設置されいた。それ以外は特に何もなく殺風景な景色が広がっていた。

「よし――――――――じゃあ始めるか」

茶髪の男がそう言った。僕はまたイヤフォンを付け直して音楽を聴いていたので、二人が何を喋っているのか分からなかった。

二人が暫く会話した後僕の方に近づいてきた。僕は表情を変えることなく二人を見た。恐怖心は不思議と湧かなかった。

そして僕の近くに寄ってきた短髪の男が、何の前触れもなく僕に殴りかかってきた。相手のフォーム何もないストレートは呼びがたい右パンチが僕の頬に直撃した。

吹っ飛びはしなかったものの痛みでその場に(うづくま)る。来ると分かっていても直撃すればさすがに痛い。

そして立ち上がる間もなく目の前にあった右足が僕の脇腹に吸い込まれる。

「っうぅ・・・」

息が苦しくなり僕は(うめ)いた。左手を蹴られた部位に押し当てて、前方に倒れ込んだ。

いつの間にかイヤフォンから流れる音が遠のいていくような気がした。

「おい! なに倒れてんだよ」

僕は茶髪の男に無理やり立たされて後ろから腕を押さえられた。そのせいで僕の腹部がノーガードになった。

すかさず短髪の男が僕の腹に拳をめり込ませる。ちょうど鳩尾に入ったのか、一瞬息が吸えなくなり呼吸が苦しくなる。

その後も何度も腹や顔を殴られた。拳が鼻にぶつかり鼻血が垂れ、それが舌に触れたせいか鉄っぽい味が口中に広がった。

だんだん意識が遠のいていくような気がした。そんな行為が長くにわたって続き、二人もだんだん飽きたのか殴る手を止めた。

「おい、お前いつまで音楽聴いてんだよッ!」

短髪の男は息を荒げながら叫んだ。そして僕のイヤフォンに手を掛け、無理やり耳から引っこ抜いた。

途端に僕の耳から音楽が消えて目の前の男の荒々しい息遣いが聞こえた。

男はイヤフォンをコンクリートに投げ捨てた。ポケットのプレイヤーから伸びているコードは地面にだらんと垂れさがった。

「音が消えた。何もなくなった。・・・世界が壊れた」

僕は、心の中でそう呟いた。

急に今まで受けた痛みが僕の体を走った。それは弱者を殺す蛇のようにねっとりとしていた。

男達はニヤニヤしながら僕に殴りかかる。

そして、今まで消えかけていたモノが心の奥から込み上げてきた。そう、感情だ。

男達は見下すように踏みつけた。

感情が溢れ出した。怒りというには穏やか過ぎ、穏やかというには怒り過ぎていた。

男達は僕の痛めつけられた姿を撮影する。

感情というには少しばかり語弊があるのかもしれない。それは・・・ただの殺意だった。

僕はお尻辺りに感じる一つの狂気に手をかけた。それは狂気を具現化したかのようにどす黒く感じられ、僕の右手に収まった。

地面に倒れ込んでいた僕は二人の足を振り払い立ち上がった。二人は驚いた表情をして僕に視線を向ける。

僕は背中の所で握っている銀色の狂気を袈裟斬りの要領で二人を切りつける。

銀色のヘラは思った他凶器として扱えるようで、二人は「ひッ!」と声をあげて尻もちをついた。

二人のYシャツの胸元辺りはずたずたに破かれ、少しばかり赤く染まっていた。

その向かいに位置するヘラもまた赤く、二人の顔が恐怖で歪んだ。

「やめろよ。お―――――俺ら友達だよな。謝るからさ」

先程までのでかい態度がどこへ行ったのか、二人は急に弱々しくなった。大きいはずの体がとても矮小に感じられた。

「友達は―――――いない」

そう言いながら僕が一歩進むと、二人は尻もちをついたまま後ずさった。手と足はワナワナ震えており、今にも走って逃げだしてしまいそうである。

僕はさらに足を進める。

「お―――――お前のボコしたい奴を俺等がボコしてきてやるからよ」

僕は聞く耳を持たない―――――というよりかは聞こえなかった。新しく自分の世界を構築しつつあるのだから。

「なぁ・・・お願いだよ。許してくれ・・・」

二人の目から涙は零れていないものの、今にも泣き出しそうな表情だった。

そして僕は二人の目の前で止まった。

「・・・じゃあな」

僕はヘラを振り上げる。二人は頭を両手で覆い、ただでさえ低い体勢からさらに身を屈める。

時間がゆっくり流れる。二人の頭の中では走馬灯が巡っているのだろうか。助かるという希望を持っているのだろうか。

こういった物語では大抵誰かがこれを止めに入る。もしくは何らかの理由で殺す事をやめる。何故かといえばその方が読者を興奮させることができるからだ。

時間が元通りに流れる。そして少年はそんな概念すら簡単に打ち砕き、あっさりと右側の男の生命を刈った。

男の頭部から刺さったヘラを引っこ抜き、続けざまにもう一人の男に叩きつける。

結果は同じで、もう一人もぐったりその場に横たわった。

二人の目からは生気は感じられず、どこか自分に似たものを感じた。

二人の頭からは未だ血が溢れ出してきており、コンクリートが鮮やかな赤に染まっていく。僕の心も赤く染まっていく。

二人は同じような格好で横たわっていて、頭を見れば死んでいるか致命的だった。というか出血量が尋常なものではないので、もっと瞬時に気付くだろう。

僕の胸は高鳴るどころかひどく静かだった。元から心臓なんてものがなかったかのように。百聞は一見にしかずというらしいし、一度は自分の目で拝んでみたい。

もう全てがどうでもよくなってきた。僕は右手に強く握り込んでいたヘラを男の背中に投げた。

そして殴られる際に邪魔だといわれ放り投げられた学ランに目をやる。学ランは屋上の縁の方に転がっていた。長いこと掃除されていないようで、黒い学ランは汚れまみれだった。

僕は二人に背を向けて歩き出す。同時にイヤフォンも引きづられる。

僕は自分の世界が完璧に構築されている事に気付いていなかった。完璧であるからこそ―――――完璧であるが故に気付かない。

僕は縁に捨てられていた学ランを拾い上げ、空いている手で軽く(はた)いた。そしてそのまま慣れた手つきでそれを着る。

そしていつものように空を見上げる。空は後ろの惨状も、僕の心も知らずにただ青く澄みきっていた。

『地球は青かった』なんて言葉は誰にでも言える。ただガガーリンが最初に言っただけ。事象自体はあらかじめ決まっていて、誰がどうするかは気まぐれだ。

僕がぼうっと空を見上げていると、急に前方に力が加わる。僕は屋上外の何もない空間に吹っ飛ばされた。後を振り返る余裕はない。

この時は少年は気付いていなかったのだ自分が何も聞こえなかった事に―――――後ろから「やめて」と叫ばれた事に。

手を伸ばした状態で地面に膝を付け倒れている女子生徒。そして―――――あっけなく落下していく僕。

自分でオチることのなかった物語も誰かの偶然によりオチることになる。それは神様の気まぐれのようなものだ。―――――いや、最初から決まっていたのかもしれない。

人を呪わば穴二つ。人を殺すもまた然り。この事象は二人を殺した時から決まっていたのだと思う。

僕は簡単に呆気なく惨めに空虚に、そして凡庸(ぼんよう)にただ堕ちていく。


その後警察が駆けつけ、事件はあっという間に終結した。

誤って僕を転落死させた女子生徒は無罪になり、誰にも咎められることはなかった。そしてその女子生徒はずっとこっちを見ていたあの生徒だった。

話によると彼女は僕の事が好きだったらしく、あの時自殺するのだと思い駆け寄った所足がもつれて転落死に繋がったらしい。

何とも皮肉な話だろうか。そして名前も分からずじまい。結局―――――僕は全て面倒くさかったのだ。






だいぶ期間が空いての更新となりました。うゆです。

やっとこさ高校生活が落ち着いてきたので遅くなりました。


今回のお話はほとんど勢いで書いたため内容とかがあんまり練られていません。すいません。

そしてバンドもかなりマイナーです。再度すいません。ジャンルが曖昧で決めるのに時間がかかりました。

自分的には会話の多い話が好きなんですが、主人公の性格など考えたところ会話が生まれませんでした・・・。このお話は描写をリアルに描きたかったんですが中々難しいですね。もうちょっと溜めやメリハリとかも欲しい所です。こんな稚拙なお話をここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます。


これにてうゆの茶番劇を終了します。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 状況や設定なんかはとてもリアルで、共感しやすいです。 また、ガガーリンのところは今まで全く思わなかった考え方ですが、妙になっとくできました。 [気になる点] 個人的には音楽プレーヤーを壊し…
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