はたから見た女神
冷泉静香
白鷗峰学園の新入生総代を務めた超エリートであり、1組の中でもトップの成績を残している彼女。
そんな彼女の幼馴染である晃威明人、俺は真逆の最底辺3組に所属していた。―――
―――3組クラス内
「明人、そろそろ風紀委員会の集まりがあるから、その時にこの前頼まれてた冷泉さんの様子をみてくる」
「頼んだ湊こんなこと頼めるのはお前しかいない。あ、あと俺が静香を気にかけてることは内緒にしておいてくれ。恥ずかしいから」
前に友人の田沼湊に幼馴染の冷泉静香が最近悩み事があるらしいという適当な理由をつけて様子を見てほしいと頼んでおいた。彼女の動向が気になる本当の理由は俺が2組の皆田川らに罵倒されている現場をみられているため、彼女がどういう行動を起こすか探る必要があると考えたからだ。当然、俺が田沼にそんなことを頼んだと静香にバレたら俺の思惑も同時にバレることになるので田沼には適当な理由をつけて内緒にしてもらうことにした。
「しかし、そういえば明人と冷泉さんが話してるとこみたことないな、どうしてだ?」
「それは色々な事情があるが、一言で言ってしまえば成長するにつれだんだん互いに喋らなくなって疎遠になったって感じだ」
「あー、ありがちなヤツだな。それ。幼馴染が疎遠になる定番の理由」
「つーか明人、それでもまだ冷泉さんを気にしてるってことはひょっとして?」
「ん?なんだ?」
「いややっぱ何でもない。委員会でとりあえず冷泉さんの様子見てくるわ」―――
―――「本日の、委員会の報告は以上とさせていただきます」
委員会のメンバーが次々に教室の外に出ていくなかで、ひとり使用した備品を片付けている生徒がいた。
「冷泉さん、俺も手伝うよ」
冷泉静香
明人の幼馴染だ。黒髪で手足が長くまるでモデルのような容姿をした彼女に声をかけるのはかなりの勇気が必要だった。しかし、友人の明人のため勇気を振り絞り会話をすることにした。
「ありがとう。助かるわ」
笑顔でそう微笑む彼女。1組の超エリートなのにも関わらず決して傲慢な態度はとらず、誰にでも優しい。まさに完璧という言葉に相応しい人物だった。
他の1組の生徒は3組の底辺が話しかけても返事をしてくれないことが標準みたいなところがある。だから、彼女のこの対応はたとえ世間一般的には普通のことであったとしても今の俺には輝いて見えた。
「確か晃威くんのお友達の田沼くんよね?よろしくね」
「俺のこと知っててくれてたなんて光栄だよ、こちらこそよろしく!」
超エリートな冷泉さんが俺のことを認知してくれてたのか…!
かなり感動した。嬉しすぎる。
あ、もしかしていつも明人の近くにいるから知っててくれたのかも…?
「それにしても冷泉さんって凄いよね。誰もが進んでやりたがらない備品の整理を自ら進んでやってるんだから」
「いいえ、そんなことないわ。私がしたいからしているだけ。それ以上の意味はないわ。それに貴方だって片付けをしてるじゃない」
自分から進んで善行を行う彼女に俺は尊敬の念を抱いた。学業も完璧で容姿も美しく性格まで清廉潔白という、女神という言葉ですら形容しがたい彼女の神々しさを感じていた。
「俺は冷泉さんがしてたからそれを手伝ってるだけだよ」
だめだ、つい冷泉さんと話し込んでしまった。様子をみてくると明人とは約束したが、普通に彼女は元気そうだった。こんな女神のように完璧な彼女に悩みなどあるのだろうか?という疑問が浮かんだ。
「というか、話変わるけど最近、明人とは喋ってないの?幼馴染なんでしょ?」
彼女の悩みを考えていると、ふと思いついた疑問を何も考えず口に出してしまった。
「え?突然どうしたの?晃威君は良い友人よ。ただ、昔遊んだ程度でそこまで深い仲ではないというだけのことよ」
「それにクラスも別々になってしまったから今は喋る機会がないの」
そう言うと彼女は心なしか、いつものキリッとした印象とは打って変わって少し影のある憂いを帯びた表情を浮かべているようにみえた。
それから何を喋ったら良いのか分からず、しばらく無言の時間が続いたが備品を片付け終えたので俺と彼女は教室を後にした。