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危険因子

「おい明人!もしかしてまだあいつら(皆田川たち)に何かゆすられてるのか?」


俺が教室の椅子に座ると、すぐに田沼湊たぬまみなとが駆け寄ってきた。

田沼が2組の生徒に絡まれているところを俺が助けた。それが出会いだったのだが、そのせいで俺が2組の皆田川たちの標的になってしまったことに対して田沼は罪悪感を覚えているようだった。


「いや、別にそんな大したことではないぞ?ちょっとパンのお使いをさせられるくらいか」


「明人……俺のせいでほんとごめん。どうやって詫びたらいいのか…」


「じゃあ俺の代わりに皆田川たちの身代わりになってくれるか?湊」


「……」


田沼は申し訳なさそうに言葉に詰まっている。どうやら皆田川をはじめとする2組の生徒が相当怖いらしい。この学園では上位のクラスの生徒が下位のクラスの生徒に対して高圧的な態度をとることがよくある。クラスが入試の実力順によってわけられる分、その差別意識は根深いものになっている。その中でも、田沼のように気弱な生徒では、その高圧さにより拍車がかかるということか。


「すまん冗談だ。心配するな俺は全然問題ない」


実際に俺にとっては全く問題なかった。むしろ皆田川たちに罵倒される毎日はご褒美といってもいい。

しかし、田沼はどうやら俺に対して申し訳ないという気持ちでいっぱいらしい…これは使えるな。


「湊、その代わりと言っては何だが俺の頼みを聞いてくれ」


「何だッ!?俺にできることなら何でも言って欲しい。少しでも明人に恩返ししたいんだ」


まるでとびかかるかのように、俺の頼みに反応してきた。恐らく少しでも俺の役に立って自分の罪悪感を軽減したいのだろう。


「委員会で、確か冷泉静香れいぜいしずかと一緒だったよな?もし見かけたら彼女のことを少し気にかけてやって欲しいんだ。この頃、何か思い詰めているみたいでな」


空き教室で静香に2組の皆田川たちに俺が罵倒されているところを目撃されている。なんとか、演技の練習をしてたと誤魔化したものの、苦しすぎる言い訳だ。当然、何かを彼女は勘づいている様子だった。あいにく、俺と彼女は接点がない。この学園最上位のエリートで1組のリーダー的存在である彼女に近づけるはずもなかった。そこで委員会で顔を合わせる田沼を利用して彼女の動きを探ることにした。


「確か冷泉さんと明人って幼馴染だったよな?」

「ああ、幼馴染として少し彼女のことが心配でな……」


心配といっても種類が違う、俺の心配だ。

このままでは、静香に俺の罵倒ハッピーライフが邪魔されてしまう恐れがある。危険因子は早々に取り除いておかねばならない。それに、幼馴染といってもすでに疎遠で幼馴染という言葉以上の意味を持たない。昔少し知り合いだったというだけのことである。


「分かった。もし何かあったら明人に報告するよ。ってか明人やっぱ凄いわ…」


「何が?」


「今、明人は2組の生徒に追い詰められて苦しい状況なのに、自分のことより他人の心配ができるなんて……聖人って明人みたいな人のことを言うんだろうな」


「やめろよ…そんな恥ずかしいセリフ真顔で言うのはよしてくれ。それに知り合いが辛そうだったら助けたくなる、それは当たり前の感情だろ?」


当然、俺は他人を無条件で助けたくなったことなど一度もない。だが勝手に誤解してくれているのは都合が良い。話を適当に合わせてその場は解散した。




俺はふと、教室の席でこの詰られ罵倒ハッピーライフをどうすれば続けていけるのか考えていた。



現状で俺が2組の皆田川たちに詰られ罵倒されていることをよく思わない人物は最低2人いることは確実だ。


1人目は幼馴染の冷泉静香れいぜいしずか

彼女は裏はどうであれ表向きは弱者を慈しみ、悪事を絶対に許さない清廉潔白な人物として通っている。彼女の本心がどうかは知らないが、表向きの性格として俺に対しての暴行を目撃した以上、このまま見過ごすはずもなく何らかの行動を起こしてくる可能性は十分にある。


2人目はクラスメイトの寺内慶介てらうちけいすけ

彼は3組においてカースト最上位の生徒である。だから、俺が2組の生徒に舐められている現状を良くは思っていない。俺が軽くみられることで、3組全体が侮られることを危惧きぐしているからだ。

3組の生徒では慕う者も多い。彼は誰にでも優しく世間では善人に属する人間だろう。少なくとも表向きは……


その危険因子たちをどのように対策していくかが、俺のスクールライフにおいての最重要課題だ。


1人目の冷泉静香に対しては田沼に動向を探らせることでひとまず牽制けんせいしておくとして、寺内をどうするべきか、考える必要がある。







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