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良い人面の偽善者

超エリートが集うこの学園に入学し無事に底辺となって、はや3か月が過ぎようとしていた。クラスごとに優秀な生徒とそれ以外に振り分けられてはいるが、この頃になるとようやくクラス内での位置づけも固まり始め、友人も少なくあまり目立たない俺は完全にクラス内でもヒエラルキー最下位の生徒に属していた。


晃威あきらい君、2組の生徒にいつも昼食時にパンを買わされてるって本当かい?」


席に着くやいなや、いかにもクラス内ヒエラルキー上位者の風格をまとった生徒が話しかけてきた。

俺はどうも興味のない人間の名前を覚えることが苦手らしい。存在感がある男ではあったが名前が思い浮かばないので適当に相槌を打つことにした。


「そうだけどそれがどうかしたか?」


まあ、可もなく不可もなく無難な返答だろう。


「どうして誰にも相談しないんだい?それってパシリじゃないか酷いな…」

「晃威君、辛かっただろう…もし今度こんなことがあったなら遠慮なく相談するんだよ?」


いやに親切風なこの男、ただ親切なだけなら何も思わないのだが、この目の前の男の言い回しに何故か言いようのない違和感を覚えた。だから少しかまをかけてみることにした。


「それはすまない…しかし、迷惑がかかるだろう?ろくに話したこともない人間から相談されるなんて」


そう、俺はこの男とろくに話したこともなかった。互いに存在を認識している程度の間柄にも関わらずやけに親切なので卑屈を装って相手の出方を待った。



「そんなことないよ。それより君が軽くみられることで3組全体が侮られることにも繋がるから、君が2組からそういった扱いを受けることは3組全体の問題でもあるんだよ」


なるほど、ようやく合点がいった。この男はいかにも親切な風を装っているが本心では3組が舐められることで自分も舐められることにつながるという思考回路らしい。いくら良い人を装うとも本質はいかにも最底辺の3組の生徒という感じで逆に安心した。ここは面倒なので下手に出ておいて話を煙に巻こう。


「分かった、遠慮なく相談させてもらうよ。それにしてもメチャクチャ優しいんだな。3組にこんな生徒がいるなんて知らなかったよ。失礼だが名前を聞いても?」


「クラスメイトの名前を知らないなんて傷つくなぁ…なんて、冗談。僕の名前は寺内慶介てらうちけいすけこれから仲良くしていこうね」


仲良くか……そんな気は恐らくお互いにみじんもないだろう。うわべのあいさつを終えると寺内は自分の席へと戻っていった。

3組全体が舐められることが気に食わない寺内は2組にパシリのような扱いを受け軽くみられている俺の存在が気に食わないはず。だから俺に対して相談に乗るという申し出をしてきたというところか。しかも、いかにも俺のためというような装いでだ。本心では自分のことしか考えていない……


寺内……俺の蔑まれハッピー生活を営む上で厄介な存在かもしれないな。


そんなことを考えていると昼休みの時間がやってきた。

寺内に気づかれると面倒だと思った俺は見つからないよう慎重に皆田川らのパンを買ってから空き教室へと向かっていた。

すると――


「おっ晃威あきらい~!ちゃんと今日は私が食べたいパン買ってきたんでしょうね?」


皆田川もいつもの教室に向かっていたらしい。廊下で声をかけられた。

いつもなら素直に返答するのだが今日は寺内にくぎをさされたばかりだったので関係ない風を装うためにシカトした。


「………」


「ん、人に話しかけられて無視するなんてさすがに底辺クラスの人間はヒトとしての教養のレベルが違うわね」


俺だって無視したいわけではないのだが、今、話しているところをみられるのはさすがにまずい。

というのも理由ではあったが、こういう罵倒のされかたもありだなと思い始めていた。というか、こいつに教養がどうとか言われたくはないというツッコミ待ちか?とか考えながら空き教室へ向かう途中にかなり詰られたが俺はそのまま無視の態勢を崩さなかった。


そして空き教室へと入ると


「シカトしてしまってすまない。人として最低なことをしてしまった。何を言われても文句は言えないな……」


いくら理由があったとはいえ、人として無視をするなど最低の烙印を押されても反論できない。という誠実な理由で謝罪したのではない。単にこの女の機嫌を損ねてしまっては今後の罵倒ライフに支障が出ると判断したからだ。


すると佐藤アリスも空き教室へと入ってきた。


「何?この空気、恵なんかこいつに怒らされるなようなことされたの?」


「アリスどうやら晃威は私たちに反抗したいらしいわよ。パシリ扱いに耐えられなくなったようね」


ん?何やら誤解されているようだ。俺はパシリが嫌なのではない。そういう理由で無視してたわけではないのだが…


「ねえ恵、見てこいつの目。反抗心隠してるつもりなんだろうけど全く隠せてなくて笑える」


「ちょっとそろそろどちらが立場が上なのか駄犬を躾けしてあげなきゃいけない頃合いかしらね……」


何か勝手に誤解されたが、結果オーライか?








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