11 初めての魔物
整備された公園と言えそうな森に入って行く、森の入口には車が2~3百台は停められそうな駐車場があり管理棟やレストラン等の建物もあった。
えみりに会うまでは、心配で食事の途中でやって来た事も忘れていたけれど、今こうやって一緒に居ると安心したせいかお腹がとても空いている事が気になった。
慌ててやってきたので、ウェストポーチにも食べるもの一つ入っていなかった。
30分ほど歩いて整備された歩道が無くなった辺りで一行の歩みが止まった。
先頭に居た隊員さんが、手で何か合図している。
隣にいた隊員さんが頷いて、手で何かを伝えてから、私の耳元で「いました、これから討伐を開始します。」と言った。
えみりにも「これから始まります、危険の無いよう注意していてください」と言っていた。
私は目をつぶり、感覚に集中する、彼ら魔物の生体エネルギーがなんとなく光の球に感じられる。
百体ほどの小さな光の球が私達を取り囲んでいるのが分かった
隣りの隊員さんに、「百体ほどいます、取り囲まれています」と伝えた。
更に、意識を集中してみるが、彼らに攻撃的な気配は感じられない、なんというか、何が来たのだろう?という興味本位な感情だ。
私は隊員さんに、「攻撃的感情は感じられません、むしろ好奇心を持っているようです、声を掛けてみてよろしいでしょうか?」と聞いてみた。 隊員さんは、無線で隊長さんと話し始めた。
隊員さんは頷いて私に「危険と判断したら直ぐに攻撃に入ります、あまり近づき過ぎないようにお願いします」と言った。
私は、ゆっくりと魔物に近づいて行った、「ほら・・・怖くない、恐くない」と声を掛けながら
ん?なんかどこかで聞いたセリフだなぁなどと、余計な事を思い浮かべる位の余裕だった。
次の瞬間、バサバサッと音がして一斉に飛び去られてしまった。
後ろでは、ため息が聞こえた、十数人で百以上の魔物を倒せる気だったのだろうか?
しかし、その先数十メートルの所に一体の生体エネルギーがじっとしているのが感じられた。
私は「この先に何かいます」と言うと一人で近寄って行った。
「あっ待って勝手に行かないで」と言いながら護衛の隊員たちが追いかけてきた。
生体エネルギーを感じられるところに来たら、倒れていたのは体長二メートルほどの真っ黒いオオカミのような魔物だった。
おおきな怪我をしているようで、横に倒れていて呼吸も苦しそうにしている。
「近づくな」頭の中に言葉が聞こえてきた。
私は気づかないふりでドンドン近づいて、傷口に手を当てると回復させた。
「近づくなと言っただろう」まだ声が聞こえるが無視して回復させた。
「治してくれたのか、礼を言う」今度は魔物の口から直接人間の言葉を聞いた。
「待って、今洗うから」「いや、治してくれただけで十分だ」「ダメ、洗わせてくれないと、怒るから」
なぜか、そんな会話になって、私はオオカミのような魔物に、お泊り用に持って来ていたシャンプーとお湯を発生させて洗い始めた。
「人間用の物は身体に良くない物が多いのだぞ、お湯だけでも十分に洗えると言うのに」
諦めのような声でオオカミのような魔物は言った。
全身を洗い終わると、「もう良いか? 皆の者離れろ」とオオカミのような魔物は言うので、私達が離れると全身をブルッと震わせて水気を吹き飛ばした。
「えみり水掛からなかった?」「うん大丈夫」
魔物の後ろの方に居た隊員さんが見事に水が掛かって濡れていた。
「じゃぁ乾かすわね」私とえみりが温風を発生させて、オオカミのような魔物をふわふわに乾燥させた。
もちろん隊員さんにも温風を吹き付けて乾かしてあげました。
えみりが、「まだ痛い所あるね、治してあげる」と言いながら、魔力を注ぎ込むと黒かった魔物が思い切り光り輝いて、光が収まると・・・まっ白に変わっていた。
「フォッフォッフォッ、まさかまた会えるとはな、しかも二人も聖女殿がいるとは、ワシは2000年前に聖女殿にお仕えしていたのを最後に、この世の邪悪が面倒になってな、人間から離れて静かに隠居していたというのに、しかし二人もいるとは・・・」
神々しいほど真っ白くなったオオカミのような魔物は、感慨深げな様子で私達の前にひれ伏した。
「聖女アンジェラ、聖女アグネス、あなた達に仕えよう、私の名はオウムレット」
「あの? 私アンジェラじゃありません」「名前違うんですけど」 えみりと二人で反応してしまった。
えみりの方を見て「お主は聖女アンジェラではないのか?」私の方を見て「聖女アグネスにしか見えないが・・・」
オウムレットが言うので私は「もしかして2000年前の聖女さんの名前ですか?」と聞いてみた
「いや、2000年前の聖女は”ジェシカ”だ、アンジェラは大層美しく可愛らしい聖女じゃったが、ワシの担当では無かった。アグネスも数度会っただけだが飛び切りの美人じゃったのだが、ワシの見間違いじゃったか」
「2000年も人間が生きている訳ないじゃないですか、完全に別人です」
「そうか、ジェシカもあっという間に死んでしまったものな、お主たちもあっという間に死んでしまうのだろうな」
オウムレットは、なんだか寂し気に言いました。
◆ ◆ ◆
「ふぅ長いわねこの自虐的な日記、あの子は結局中学校の間一度も健太君に好きとも何とも言わなかったのね、健太君本当に良く付き合ってくれてたわ、今度西田さんにお礼言わなきゃいけないわね。」
日本では平和に午後のひと時が流れていた。




