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13 堅物の辺境伯

ランス王都からおよそ900km辺境の地 ファカタ領の領主ジェイムソンは、完璧を追い求めてきた

朝目が覚めるとベッドから下りてカーテンを開ける、このカーテンだって毎週洗濯されている。


そのまま直ぐにシャワーを浴びる、一度着た寝間着と下着は洗濯はしないで廃棄へ回す。

ベッドも一月に一度新品へと交換する。

実際には、リサイクル店へおろされてみんなの小遣いになっているという事は知っている。

それで皆が潤っているのならば何も問題はない。


でも最近週に2度ほどは、「洗濯しておいて」という日もある。

初めて「洗濯しておいて」という言葉を言った時メイドは、驚きで心臓が止まりそうな顔をしていた。

が、それ以上に驚いたのは、自分自身だった。

いつものように、脱いだパジャマをゴミ箱へ入れようとした時、心の奥の方から勿体ない事をしないでという声が聞こえたのだ。

多少、勿体ないと言う感覚が身に着いたのか、それか他に何か要因があるのか、それは分からない。


こんな行動をとっているので、怖い人だと思われているようだ、執事達との会話も最小限

普段は、誰といる時でも、終始無言だ。別に機嫌が悪いわけではない、穏やかに接しているつもりなんだ。

周囲の人は怖い当主だと思っているようだけれど、実に愉快で心優しいという認識なんだ。


まして変わり者だと言う自覚は全く無い、この地はランスの中ではかなり歴史もあり、人口も多いので王都との交流が無くても十分に自給自足が成り立つ土地である。

そこの領主なのだから、本人に他の領地との交流が無くても、なにも困る事も無かった。

陳情もたいていは聞いているつもりだ。

ケチだなんだと、言われているようだが、どこかを優先させると依怙贔屓だと言われた事があるので、全ての陳情に優先順位を持たせていない、ただそれだけの事。


年に数回領地の行事で挨拶をしなければならないのが、苦痛とは言わないが、出来る事ならば挨拶すら面倒くさいのでやりたくなかった。

20年前結婚して1年もしない時に、不慮の事故で妻を亡くしてからは一人の女性とも噂が立つ事も無く

唯々領地の運営だけを生きがいにして生きてきた


これだけの領地の領主なのに、いい人はいないのか、数少ない友人がたまにそんな事を言っていたが、昨年彼も他界してしまった。

時折海を渡った他国からの貿易船に、使者が乗って来た時に挨拶に出る程度の社交だった

毎日穏やかな日々がこのまま続くと思っていた。


時々聞こえる心の奥からの声はなんとなく気になったけれど


そんな自分が、ある時小高い山の牧場の視察の帰りに崖から転落してしまった。

奇跡的にどこにも外傷がないまま自宅まで運びこまれ、およそ1週間意識不明だったそうだ。


気が付くと、西洋風の屋敷の中、心配そうなメイドが私の顔を覗き込むようにしていた。

「ああ、旦那様お目覚めになられましたか。」

見慣れた病院の天井ではない、とても豪華な部屋に驚いた、天蓋付のベッド。

そして彼女は誰だろう、よく分からないけれど、少なくとも西洋人のようでとても可愛らしい。

少なくとも日本ではなさそうだ。

そういえば、彼女の話した言葉は日本語ではなかったのに、私は普通に聞き取れた、夢なのか何なのか今一つ理解できない。

心配そうなメイドが医者を連れて来て、色々と質問をされたが、私もその医者に質問をし返した

医者曰く、一時的な記憶喪失になっていると言うが、私はしっかりと記憶がある。

妻に先立たれ、孤軍奮闘で育てた娘も数年前に旅立って、残った孫が先日パソコンで、妻が別の世界に生きているのだと教えてくれたんだったなぁ。

また妻に会えるのだろうか。


そんな事を思ったら、いつまでも寝ている訳に行かなかった。

だんだん意識がはっきりしてくると、辺境伯として生きてきたこの52年間の記憶もはっきりと思いだせるようになった。

どうやら領地の運営ばかりに精を出して、この屋敷の事は全く任せっきりだったようだ。

私は、執事を呼び出して、今までこの屋敷を管理してくれていた事への感謝を伝えた。

そしてその日の夜、使用人全員を集めて、今までの感謝とねぎらいの気持ちを伝えて、好きなだけ飲んで食べてもらった。

幸いこの領地は非常に上手く運営されていた、想像するに日本人時代の私が無意識に運営に携わっていたのだろう。

そう、私は前世日本人だった。 内藤義雄という男だった。

今は、内藤義雄の意識と記憶、そしてジェイムソン・ファカタの記憶両方がミックスされている。

心の中の声がどうも気になってたまらなかった私は、図書室へ行き貴族年鑑を端から端まで読んでいくと

遂に見つけた、以前孫が病室で読んで聞かせてくれた話の登場人物、サリア夫人と言っていたけれど

どうやら今でも独身で、王家から出家して王都の隣のヴァヴィンチョに住んでいるらしい。

年鑑にも詳しい事は載っていなかった。


たしか、孫の話でも彼女は独身だったから、間違いなくそのサリア夫人が、典子だろうそんな気がする。

いてもたってもいられなくなった私は、執事に2~3か月この家を留守にする事を伝えて、王都へ向かう事にした。

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この小説に登場する侍女アイシャの物語を掲載しています。 バールトン侯爵家は今日も楽しく暮らしています。
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