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決戦の朝

 今日はいつもよりも大分早く目が覚めました

やっぱり緊張しているのが分かる


騒がしくならない様に、静かにストレッチをしていたのだけど

メイドさんにはしっかりと気が付かれていたようで

控えめなノックと共に、コーヒーを淹れてくれて持って来てくださいました。


「おはようございます、今朝は随分とお早いお目覚めでございますね」


「おはようございます、静かにしていたつもりでしたけれど、ばれていましたね」


「はい、衣擦れの音がしていましたので

 お目覚めのコーヒーを淹れて参りましたので、よろしければお召し上がりください」


そう言って、ベッドサイドのテーブルに置いてあった水差しを回収しながら

 コーヒーカップ、お砂糖、ミルク、コーヒーサーバーを用意してくださいました。


私もベッドから下りて、テーブルの椅子に腰かけると、香りの良いコーヒーをそのまま口に含んだ

「いい香り、美味しいわ」

思わずつぶやくと


メイドさんは、笑顔で「よかったです」と言ってくださいました。


そして、ワゴンを廊下に片付けてから、今度は大きな籠を持って来ました。


「今日は、領主様が特別な衣装を用意してくださいましたよ」


と言いながら、真っ白なワンピースを見せてくださいました。

平民の服とは、全く違うので 本当に特別な人になった気分です。


「わぁ、可愛いですね、こんな素敵な服を用意して頂いて、良かったのでしょうか」


「もちろんです、領主様も カオリ様に勝って頂かなくてはなりませんからね」


コーヒーを堪能し終わると、直ぐにまっ白なワンピースを着せられて、お化粧もばっちりとしてくださいました。

そうですよね、身分は変えようが無いけど、綺麗にしていたら、発言のチャンスも貰えるかもしれないもんね。

そんな事を思いながら、着替えさせて貰っていると、

3人のメイドさんが入って来て、お礼を言われました。


「「「カオリ様、本当にありがとうございます」」」


あれ? 私何かしたっけ? 何もした覚えが無いので、聞いてみる

「あの? 私 なにかお礼を言われるような事をしましたっけ?」


「はい、応接室で お花を元気にされる訓練をしていらっしゃいましたよね。

 実は私達それぞれ、結構酷い怪我をしていたのですが

カオリ様の訓練の後にお部屋を片付けていると、体調が良くなって、今朝はもう全く傷跡すら無くなりました」

一人がそう言うと、1人は左の袖を捲って腕をねじって見せ

一人はスカートをたくし上げて、膝の辺りを見せ

一人は左の手の甲をこちらに向けて見せました。


私は、前の状態が分からないのですが、3人ともとても綺麗な肌をしていて、傷一つない事は分かりました。


「先日から、カオリ様が聖女様だと言うお話をされていましたが、

お力が発揮されていらっしゃるのは確実でございます。

本日の裁判も、自信を持って臨んでくださいませ」


そう言うと笑顔で、会釈をされました。

そして、3人も私のメイクなどを手伝ってくださり


「さて、それでは朝食を向かいましょうか」

と言われて 1人のメイドさんと共に食堂へ移動しました。


食堂へ入ると、既に領主様もレオナルド先生もいらっしゃいました。

私が食堂へ入ると、 お二人が立ち上がって

「素晴らしい」「素敵です」と声を掛けてくださいました。

メイドさんから

「今日は、朝食の後、領主様もご一緒に馬車で裁判所に向かわれる予定です」

と言われました


その後、私が椅子に座るのを待って領主様とレオナルド先生も座られました。

ワンピースを汚さない様にと、エプロンをかけられて、

 

暖かいコーンスープを頂きました。

このところ毎朝食べている フルーツの盛り合わせも 今日は少しだけ控えめにしておきました。

いよいよ決戦の日ですからね。


食事が終わり、領主様からねぎらいの言葉を頂いて、

アルたちは裁判所の前で待ち合せていると言うので、私達もそろそろ出発する事にしました。


玄関を出ると、門の外がなんとなく騒がしいです。

執事のヨッシーさんが、「新聞で裁判の事が広まったようで、裁判所までの道に領民の人々が集まっています」と教えてくれました。


馬車に乗り込んでしまうと、わざわざ集まってくれた人たちに顔を見せられないと思い

領主様に、歩いて行きたいのですが大丈夫でしょうかと聞くと了承してくださいました。


私はレオナルド先生と一緒に領主様の馬車の後を行こうとすると

先ほど怪我が治ったと報告に来てくれた3人のメイドさんがやって来て、私達に同行してくれることになりました。


門の外に出ると、大勢の人たちから「がんばってください」と声を掛けられました。

お花を渡されたり、お守りを渡されたりしていると、メイドさんがそれを受け取ってくださいました。


「さ、時間が無くなってしまいますよ」と大きめの声で言ってくださったので

皆さんも私達が歩けるように道を開けてくださいました。


領主様の馬車は、私達の歩きに合わせて時々止まりながら、進んで行き

私達は、その後ろをくっ付いて行きました。


15分ほど歩いたところ、前回よりペースが遅いですね、なるべく急ぎましょうとレオナルド先生に言われました。

ヨッシーさんが先頭で道を開けるように言いながら歩いています。

確かに凄い人垣の中を突き進んでいくような状態なので、時間が掛かっていました。


後ろの方から、別の馬車の音が聞こえてきました。

御者が大声で「道を開けろ」と怒鳴っています。


こちらの馬車は、ヨッシーさんの歩く速度で進んでいるので、普通の馬車が来たら

渋滞してしまいます。

こちらの馬車が端に避けると、後ろから来た大きな馬車が追い抜こうとしました。


その時、馬車が小さな女の子を撥ねてしまったのです。

一斉に悲鳴が上がりました。

私とレオナルド先生は直ぐに駆け寄りましたが、既に女の子は動かなくなっていました。

レオナルド先生が脈を診て、首を横に振りました。


御者が振り返って、状況を把握したようで馬車を止めましたが

 馬車の中から、早く行くように大きな声がして、御者と少し話をしていましたが、

結局そのまま馬車は行ってしまいました。


私は動かなくなった女の子を抱きしめて、

 回復魔法がちゃんと効いてくださいと天にも祈る気持ちで

練習と同じようにお腹の中から腕に、エネルギーを流しました。


平民と貴族のこの立場の違いに、悔しくて、こんなに小さな女の子が酷い怪我をして息を引き取ってしまった事にも何もできない自分にも腹が立って

何とも表現できない感情がお腹の底から、湧き上がってしまい。


「なんで、なにもかも、大変な事ばっかり起きるのよ~、私だって、毎日楽しく暮らしたいわよ~、せめてこの子の命を返してあげてよ~」


と、日本語で叫んでいました。


涙がこぼれて女の子に何滴も垂れていました。


さっきまで晴れていたのに、急に真っ暗になって霧雨が降ってきました。

人ごみをかき分けて、ヴァヴィンチョの集落と同じような服の男性が来て、私の前にきて礼をしました

良く見ると顔が女の子に似ているような気がします。

「アンジェリナの父です、娘をありがとうございます」

そう言って女の子を受け取ろうとしましたので、私もその男性に女の子を渡しました。

女の子が、お父さんの腕からぴょんと飛び降りて、私に花を渡してくれました。

突然の事に驚いて、お花を受け取ったけれども、なにも考えられませんでした。


「裁判に遅れてしまいます、あとは皆に任せてください」


メイドさんに促されて、私達は歩き始めました。


すると、後ろから わ~っと 声がしたかと思うと

沿道の人達がひざまづき始めました、

急に静かになった沿道の両脇にひざまづいた人たち


なんだか急に偉い人になったかのようでした

私達はその中を裁判所まで急ぐのでした。

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この小説に登場する侍女アイシャの物語を掲載しています。 バールトン侯爵家は今日も楽しく暮らしています。
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