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ある村民の目撃した奇跡

どうも、最近町になったヴァヴィンチョ村の隣の村アンジャリンの住民です。

父が衛生的に生活すると病気になりにくいって言う話を

ヴァヴィンチョ町の長老ジェイコブさんから伺いまして

そのご縁で、私達の村にも水洗トイレがやって来ました。

アンジャリンのトイレも、ヴァヴィンチョと同じく大きな穴を掘って、そこへ排泄していた訳ですが


先ずは共同のトイレ3か所と浄化槽を設置して貰いました。

そして、ヴァヴィンチョで行われていると言う毎朝の清掃も取り入れました

家の中の清掃も含めて村を上げて掃除を徹底したのです、村が綺麗になり

ずっと病気がちだった人達が回復し始めました。


そして、ずっと寝たきりだった娘が、元気に歩き回るまでに回復したんです。

私の父がここの集落の長なので、孫娘が元気になったって大喜びで、そんな様子をみんなが見ているもんだから、村民も衛生的に生活する事の大切さを実感しているって言う所です。

そしてこの間、村のみんなで話し合って、村の全世帯に水洗トイレを導入しようっていう事が決定したんです。

もっともヴァヴィンチョの方もとても忙しいみたいで、全世帯の分の用意は、建てている工場が動き出してからって言う話です。


最近は、ヴァヴィンチョのカオリさんは私達の村では英雄のように語られるようになっていました。

いつか、この村にお招きして感謝の気持ちを伝えたいと、みんなそう思っていました。

私達の村よりも下流の町でも水洗便所が普及し始めていて、毎朝の清掃も行われているという事で、

病気が減っているので、ヴァヴィンチョのカオリさんには皆が感謝の気持ちでいっぱいでした。


そんな今日この頃なんですが、隣村の新聞屋が青い顔をして新聞を持って来たんです。

「すっごく大変だから、しっかりと読むんだぞ」と言い帰って行きました。

私は字が読めないので、妻に読んで貰うと

水洗便所などの開発記と、そして裁判所で訴えられていると言う事が載っていました。


この村の英雄ともいえる人が、伯爵に訴えられている、そんな事実を知った

村人達の怒りが高まりました。


そこで村の有志が集まって、王都へ応援に行く事になりました。

みんな燃えてるよ、カオリさんを助けるんだってね。

ただ、次の裁判まで日数が無いんだよね。

だから皆で荷物用の馬車を使って王都へ向かう事にしたんです。

男も女もみんなカオリさんを応援したいわけでさ


大人に交じって、うちの娘も乗り込んできました。

王都迄の道のりだけでも、長い時間馬車に乗らなければいけないから、村に残るように言ったのに

どうしてもお姉さん(カオリさん)に会って応援をしたいと言ってきかなかったんです。


仕方ない、疲れたらその時は大人しく馬車の中で寝て過ごすって、約束をして

殆どぶっ続けで、馬車の旅を続けました。

途中で立ち寄った食堂でも、裁判の話が話題になっていましたよ。


私達だけでなく、街道沿いの町でも浄化槽が設置され始めているという話で、

この店も先日から上水道と浄化槽が設置されたのだそうです。

本当にカオリさんは、どこまで影響を与えたら気がすむんだろうね。


「調理もしやすくなったし、なんでも綺麗だ」と店主も自慢していましたよ。

私達が、カオリさんの応援に行く途中だと言うと、お店からだと言って、焼き立てのパンを沢山持たせてくれましたよ。

本当にありがたい事ですよ。


馬車の中ではぐっすりと眠っていた娘が、王都に到着すると目をぱっちりと開けて

お姉さんに会えると、喜んでいました。

適当な停車場を見つけ馬車を繋いで馬の手入れ代金を払ってから、裁判所までの沿道に行くと

既に多くの人が道沿いにならんで、カオリさん達が来るのを待っていました。


1時間ほどすると、領主様の馬車がゆっくりと通り、カオリさんは皆さんに挨拶をしたいと言うので

歩いてくると教えてくれました。


カオリさんは馬車の100メートルほど後ろを歩いていました。

カオリさんは、真っ白でゆったりとしたドレスを纏い、まるで聖なる人のようでした。

皆が色々な物を手渡そうとするので、カオリさんは前に進めなくなってしまっていて、

警官が道を開けるように注意する程でした。


お礼を言いたいのは、私達の方なのに

カオリさんは大きな声で、みんなにお礼を言っていました。


皆にお礼を言いながら、カオリさん達は少しずつ進んで行きました。

私達の娘が、カオリさんにお礼を言うと言って一人でカオリさんの方へ行ってしまいました。

後ろから馬車がやって来ていたので、カオリさんは道を開けるようにみんなに言っていました。


馬車は公爵家の文様の入ったとても大きなもので、いったん止まった馬車の御者が中の人と何か話をしていました。

突然御者は何も言わずに馬車を進め始めたので、人々は逃げるように道を開けようとしていた時

馬の前に立っていた私達の娘が馬車に撥ねられてしまいました。


皆の悲鳴が上がりました。

御者が馬を止めようとしましたが、馬車の中から

「平民なんてどうでも良いから早く行け」という声があがり

馬車は血を流して身動きしなくなった娘をそのままに、行ってしまいました。


カオリさんが慌てて、やって来て娘を抱き上げて、大粒の涙を流されていました。

私達に分からない言葉で、カオリさんが泣きながら叫んでいました。


人波が多すぎて、私はなかなか娘の方へ進めませんでした。


それまで雲一つなかった空が、急に薄暗くなって、小雨が降り始めました。

雨に濡れたまま娘を抱きしめていたカオリさんに

一人のメイドさんが声を掛けました。


「裁判に遅れてしまいます、あとは皆に任せてください」


私がカオリさんの腕からから娘を抱き受けると

娘はパッと目を開き、「パパ~、かおりさんにだっこしてもらった~」

と言いました。


私はこれが最期の言葉なのかと、涙を流すと


娘は私の腕から抜け出して、ぴょんと跳ねてカオリさんの前に立って、

潰れてしまった花をカオリさんに向けて差し出しました。


「わたしをけんこーにしてくれてありがとう」

「ばしゃにはじきとばされて、からだのなかから、ぼきっておとがして、すごくいたかったけど、かおりさんにだっこしてもらったら、ぜんぜんいたくなくなったんだよ」

と言って、くるくると回って見せました。

血が付いて破れた服から見える肌は、傷一つなく綺麗でした。


その光景を見ていた私達は、聖なる人が奇跡を起こしたと、確信したのです。

沿道にいた人たちが、全員ひざまづきました。


しばらく静かになったままでしたが、カオリさんの隣にいたメイドさんが「それでは裁判に行ってまいります」と言い、カオリさん達は裁判所へ向かわれました。


沿道にいた人たちは、カオリさんの為に道を開けて、深々と頭をさげました。

まるで、王様のパレードのようでした。

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この小説に登場する侍女アイシャの物語を掲載しています。 バールトン侯爵家は今日も楽しく暮らしています。
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