発動?
その日は、夕食も簡単にサンドイッチを食べながらで、夜遅くまで私がこの世界にやって来てからの事を聴取されていました。
この世界にやってきた当初、あまりにも不潔に感じて仕方がなかったこと、浄化する力があればと幾度も思ったことなどを思いつくままに話しました。
流石に上の目蓋と下の目蓋がくっ付きそうになって来たので、続きは翌日に再開されることになった。
部屋を出て行くニコル・カイト・アンドウさんとサードウ・ディショカさんも相当に眠そうでした。
私達が終わるのを待っていたメイドさんは、直ぐに私を寝室へ案内してくださって、
簡単に湯あみをさせてもらいました。
貴族じゃないのに、着替えまでさせてもらってしまいました。
一人になるとウィリアムがちゃんと牢で無事に扱われているのか、考えてしまい、なかなか寝付けませんでした。
翌朝、目を覚ました時に普段となりに居るはずのウィリアムが居ない朝は、やはりなんとなく落ち着かなかった。
今日には釈放されて来るはずではあるのだけど、昨日の裁判の時の全く人間らしく扱われなかった事が頭から離れなかった。
皆で集まって、朝食を食べている時も、なんとなく落ち着かないのが皆にも、伝わってしまっている様子。
アルが「後でご主人様を連れて参りますから、どうぞゆっくりなさってくださいね」と言ってくれた。
朝食が終わるとすぐにレオナルド先生と一緒に、応接室に移動した
ニコル・カイト・アンドウさんとサードウ・ディショカさんは既にお待ちになられていました。
「おはようございます、昨日は良く眠れましたでしょうか?」とニコル・カイト・アンドウさんは元気に声を掛けてくださいました。
「実は昨日拘束された夫の事が気になりあまり眠れませんでした」と答えた。
「では、あまり集中できないかも知れませんね」と言いながら
ピンポン玉ほどの水晶玉をいくつか取り出して、私の前に並べました。
「ファイースト以外では魔法は使えませんので、全く反応しなくても気になさらないでください。
念の為、反応を見てみたいと思っただけですので」
そう言いながら、私の右手の手のひらにを水晶玉を一つ置いた
そうですね、魔力が流れているのが見えるので、こちらの世界でも行けそうな気がします。
先ずは、安全で簡単な物を、と言いながら私の手の下に洗面器を置いた。
「お腹の辺りを意識しながら、手のひらに水が溜まっているイメージをして見てください。」
目を閉じたり開いたりしながら、手のひらに水が溜まっているイメージをして見た・・・
けれど何も起こらない。
暫く続けてみたけれど、目に力が入ってこめかみにしわが寄った気がするだけでした。
「いったん休憩しましょうか」
と言われて、ちょっと立ち上がってみた
左手を置いていた所が、汗でびしょぬれになっていた。
「ああ、凄い汗ですね。恥ずかしい」
「いや、これ汗じゃないかも知れないです」
私は、怪訝そうな表情でみた。
直ぐにテーブルとソファーが拭かれて
「それでは、こちらを試してみましょう」
右手に乗せていた水晶を取り、別の水晶を左手で握らされた。
そして、右手のひらにはしおれた花を置かれました。
「さて、右手を軽く握って、この花が元気に咲いている姿をイメージしてください。」と言われたので、
お花畑一杯に咲き誇っている姿を思い浮かべました。
こちらも10分位イメージしてみましたが、変化はありませんでした。
暫く休憩をして、それからまた10分位イメージをしてという事を何度も繰り返しました。
「やっぱり、魔法の無い世界だからしかたないですよぉ」私は言いましたが
「いえ、かなり魔力を感じていましたから、数日練習すると上手く行くかもしれませんよ」
と真顔で返答されました。
そんな事を言われると、やってみようじゃないのさって言う気にもなって、私は午前中ずっと
花を元気にするイメージをする事ばかりやっていました。
途中で、アルの事務所の人がやって来て、レオナルド先生と一緒に部屋を出て行かれました。
夢中になって練習をしていると
「そろそろお昼の時間ですが、よろしいでしょうか」と声を掛けられました。
「ああ、もうこんな時間か、一旦お昼にしましょう」
そう言われたので、花をテーブルの脇に片付けて3人で食堂へ移動しました。
お昼は、バジルソースの冷製パスタ ささみを蒸してほぐしたものとアボカドのディップのサラダ
カップケーキでした。
使った事の無い筋肉を使ったような、身体の奥の方からじんわりとした疲れが出ていたのですが、お昼を完食するころには、疲れも感じなくなっていました。
それにしても、アルもウィリアムも時間掛かっているなぁ
なんて思っていましたが、まだ戻ってくる様子はありませんでした。
しばらく、食堂で紅茶を頂きながらくつろいだ後、また応接室に戻ると
「あっ」 と驚きの声を上げてしまいました。
先ほど片付けたはずの花が、花瓶に活けられていたのです。
しかも1輪だけだったはずの花が、花束になっていました。
私が、花畑をイメージしていたから、お花が増えてしまったの?
まさか本当に、萎れた花を私が回復させたと言うの?
これは一体どうしちゃったのと驚きのあまり、思考がグルグルと回ってしまい、
なんだか嬉しいような、おかしいような、複雑な気持ちになっていました。
続けて部屋に入った二人も、とても驚いていました。
「あの・・・私・・・花畑に咲いている花をイメージしていました、そのせいでしょうか・・・
こんなに沢山の花に増えてしまって」
「い・・・いやぁ・・・回復させる術は知っているけれど、増やすなんて事は・・・
初めて見たんだが・・・」
相当驚いた表情のまま、サードウ・ディショカさんが言いました。
ニコル・カイト・アンドウさんが、不思議そうな顔をしながら
「う~む、回復させたんだとして・・・
なぜ増えたのだろうか・・・」 と、考え込んでしまっていました。
するとメイドさんが現れて
「すみません、お花が可哀想な状態になっていましたので・・・
丁度庭に同じ花が咲いていましたので、庭師に頼んで活けさせていただきました。」
と言われました。
舞い上がりそうになっていましたが、種を明かしてもらえて良かったです。
危なく、「私 聖女になったの」って、叫んじゃいそうでした
一瞬でしたが、俄然やる気がわいていたのですが、今の種明かしでがっくりと疲れてしまいました。
次は、少し危ないかも知れないからという事で、メイドさんにお願いをして、お庭に出てきました
庭の割と広い場所で、周りに燃えそうなものが無い場所を探すと、3人はそこで
カバンを広げ、先ほどの水晶を取り出し、さらに目の前に蝋燭を用意されました。
そして今度は、蝋燭の芯に触れた状態で、炎をイメージする練習をしました。
すると、なんだか指先が熱い感覚になりました。
手を離すと蝋燭が柔らかくなって、少しだけ曲がりました。
「えっ」思わず声を出しました。
「おお」「できそうだな」
お二人も、笑顔で頷いています。
「感覚が身についてきたようですね。」
「私も絶好調であればこの国でも、ろうそくを点火するくらいならば出来なくは無いですが、残念ながら今日はそこまで力を出す事が出来ません」
「この調子で練習して行けば、ファイーストで活躍していらっしゃる田辺玲子様をも上回るお力の聖女として活動できるかも知れません」
などとおだててくださります。
それを聞いて、レオナルド先生達と病気の治療などが出来たら良いなと思った。
その時、アルが険しい表情で戻ってきました。
門から中に入った所で、私達が庭にいると知らされて屋敷ではなく、庭の方へ向かって来ました。
そして、私の前まで来ると「すみません今日ウィリアムさんをお連れする事は出来ませんでした。ただ裁判の方の資料もやらなくてはならないので、ウィリアムさんには明後日の法廷迄お会い出来ません。申し訳ありません」
と言われてしまった。
どれだけ平民を人間扱いしないんだって、怒りが爆発しそうだった。
その時、アルが「痛い」と声を上げた。
アルの眼鏡が壊れてしまったのでした。
これって・・・私の怒りのエネルギーのせい?
「アルごめんなさい、アルが悪いわけじゃないのに」あまりの申し訳なさに謝りました。
ニコル・カイト・アンドウさんが、「カオリさん、上手くコントロールできるようにしっかりと訓練しましょう」と言いました。
アルは「えっ、カオリさんが・・・」と言い驚きの表情になりました。
「では、裁判に確実に勝ちます、私も全力を尽くします」と言うと
強く私の手を握ってブンブンと振り、「カオリさん、頑張りましょう明日また来ます」と言うと
壊れた眼鏡をポケットに突っ込んで、帰って行かれました。




