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~お蘭の任侠作品集~

~女侠~浅香瑞樹の生涯~

夏だ祭りだ任侠カーニバルの短編小説です。

 東京の下町浅草、あたしはこの町で産声を上げた。あたしの生家は、先祖代々続く、神農と呼ばれるテキ屋一家だった。


 そしてあたしが、中学を卒業しよう頃、一家の大黒柱だったあたしの父親、浅香銀次事、浅香達将が地元ヤクザとの利権がらみのいざこざに巻き込まれて命を落とした結果、あたしは父親の残したこの浅香一家の二代目を継ぐ事になった。


「二代目ぇ…今夜の夏祭り俺に仕切りを任せてもらえませんか?先代が獲られて以降地元ヤクザとの利権争いはいまだにくすぶったままです……先代を獲られて二代目にまでもしもの事があったらぁあっしは世話になった先代に合わす顔がありませんやなぁ……」


  そう提言してくれたのは、先代からの腹心の幹部でもあり、独りっ子だったあたしには実の兄以上の存在だった、里中弘二さんだった。


「弘二さん…心配してくれてありがとう……でも平気だよ……この夏祭りは父さんとあたしの長年の夢…なんとしてでも成功させたいんだ……それにあたしは一人じゃない…弘二さんが居てくれて…同じテキ屋仲間の沙也佳だって居てくれる今のあたしに怖い物なんて何も無い……それにあたし達にはテキ屋の神様がついてるんだよ……ほら弘二さん…お客さん達が集まり始めてるこの夏祭り…最高の夏祭りにしよ!」


 父親が殺されて、いまだにきな臭い動きを見せる

 ヤクザ系テキ屋一家の浅草天神一家。あたしが物心ついた頃からあたしの父親を支え、一廻り近く年の離れたあたしを実の妹のように可愛がってくれた。そんな彼の優しさが、ややもすれば沈みかけるあたしの心をさらに強く突き動かしてくれるのだった。


「……ったく…お嬢にゃかなわねぇな……わかりましたよぉ!お嬢の身辺警護ぁ俺と弟の裕司とで万全を期してお守りします!お嬢は存分にこの夏祭り盛り上げてやってくださいやぁ!」


 彼はあたしのてこでも揺るがない信念に、根負けしたと言えば聞こえはいいが、半分はあたしの頑固さに呆れたような様相を一瞬だけ見せたが、それもまた、一瞬の事、すぐにいつもの彼に戻り実弟の裕司さんと顔を見合わせて笑っていた。


 祭り会場を見廻る弘二さん兄弟とあたしの三人、あたし達浅香一家が差配する露天商達の屋台を一件一件声をかけて廻り、全ての屋台の運営状況を確認し終えて、一家の事務所に踵を返えそうとした時だった。


「喧嘩だぁ喧嘩だぁ!」


 屋台通りを行きかう浴衣姿の群衆から声が上がるのだった。


「弘二さんと裕司君はお客さん達を安全な場所に避難させて!今騒ぎの元になってる屋台はあたし一人で平気だから!」


 その場の状況を鑑みたあたしは、騒ぎの起きた屋台があたしの古くからの親友で、何かとあたしに力添えしてくれていた、岐阜県からの流れの露天商、鬼原沙也佳の屋台であることを把握した上で、あたしは弘二さん兄弟に指示を出すのだった。


「お嬢…お気をつけて……」


 心配そうに無言であたしを見る弘二さんとは対照的に、弟の裕司さんは快くあたしを見送ってくれるのだった。


「……裕司ぃおめぇ二代目の事が心配じゃねぇのか?いくら俺等の二代目つったってお嬢はまだ十五歳になったばかりだぁ

 ……」


 あたしの去った後、兄の弘二さんがそう言って弟の裕司さんに苦言を呈していた。


「兄貴は相変わらずの心配性だなぁ……お嬢は兄貴が思うほどもう子供じゃねぇよ……さっきの迅速な指示の出し方…並の十五歳にゃあ出来ねぇぜ」


 彼、里中裕司さんがそう言って笑ったのはあたしの指示どおりに、祭り会場に集まった群衆を全員、安全圏に避難させての後だった。



「ちょいと兄さん方ぁどういった了見ですぅ?ここぁ今も昔も変わらねぇあたし等浅香一家のシマ内だぁ所場荒らしなら早々にお引き取り願えませんかねぇ……それからもう一つ…お宅さん方ぁ彼女を小柄な女だからってナメ過ぎちゃいないかえ?しかし…だいの大人の男衆がぁ十五の女一人にこのていたらく……情けないねぇ……死人が出ないうちにさっさとケツまくっちまいなぁ!」


 あたしはそう啖呵を切るようにいうと、半裸状態にされながらも、顔と身体だけは全くの無傷のまま、善戦し続ける彼女の傍へとかけ寄った。


「てめぇら俺等にこいだけ恥かかせてただですむと思うなよ……この場所の利権はほぼ全部俺等天神一家の物なんだぁ邪魔者ぁおめぇ等の方なんだよぉ」


 あたしと同じ十五歳の少女、鬼原沙也佳一人にきっちりととっちめられた二十代前半のチンピラ風体の男達がそう捨て台詞を吐いた時だった。


「ちっと待ちなぁ!利権のほとんどがあんたらの物たぁ聞き捨てならないねぇ!ここぁ先祖代々あたし等浅香一家がシマにしてる場所だぁあんたら腐れ外道の好きにさせてたまるかってんだぁ!」


 彼等の最後の捨て台詞に怒り心頭のあたしと沙也佳が、彼等に襲いかかろう刹那だった。


「てめぇら…いい加減にしろやぁ俺等天神一家ぁんなみっともねぇ喧嘩しか出来ねぇクズ集団かよ……それにだぁおめぇ等程度がこの二人に粉かけんなぁ百万年はえぇやなぁ!わかったらとっとと消えちまいなぁ!」


 そう言って、この修羅場に参入して来たのはなんと、天神一家の二代目でもある安西伸二さんだった。


「若ぁいつこちらにお戻りでぇ……」


 あたしと沙也佳の気迫に早くも逃げ腰になる彼等、その八人程の人数の中ではかなりの年長者でもある一人の幹部組員が、自分達の前に現れた伸二さんを見て、さらに驚きの声を上げるのだった。


「んなのぁ決まってんじゃねぇかよ…てめぇらバカ共がぁ!オヤジの意に背いてぇ浅香の御大亡き者にしてぇさらにゃあそのシマぁぶんどって尚かつ二代目お継ぎになった浅香のお嬢達にまで嫌がらせたぁどういう了見なんだよぉ!おぅ!鮫島ぁ!」


 天神一家二代目総長の安西伸二さんは激昂の様相で、その鮫島という幹部組員に近寄ると、右手に持った黒檀の木刀で彼をしたたかに打ち据えるのだった。


「若ぁあんたぁ長ぇムショ暮らしが続いて浦島太郎にでもなっちまったんじゃねぇんですかい?今の時代侠道と懲役の年数だけで組は仕切れねぇんですぜぇ今の極道ぁ如何に上手く稼ぐかなんすよねぇ……もう…あんたら親子の古くせぇやり方じゃあ人っ子一人付いてきやせんぜぇ……」


 彼、鮫島喜三郎の極道仁義に唾吐く言い分に、そこに居合わせたあたし等全員が怒り心頭で彼等に襲いかかろう刹那だった。


「ちっと待ったぁ!伸二ぃ!おめぇは手ぇだしちゃならねぇ!ここぁ俺等の神聖な場所だぁそこの外道共の始末ぁ俺等浅香一家に任しちゃもらえめぇか?内の先代はあの夜…あんたら親子との義兄弟縁組を提案しに出かけたぁ……そこの外道共ぁともかくぅあんたら親子だけぁちぃっとスジの通った極道だってぇ…褒めてやしたぜぇだからあんたぁ手ぇだしちゃならねぇ!」


 あわや、一触即発のあたし等と伸二さんを止めたのは弘二さんと、弟の裕司さんだった。


「弘二ぃそれは俺も同じだぁ……御大だけじゃねぇ内の先代もおめぇとことなら間違いなしに仲良くやれる……内の先代もたいそう褒めてやしたぜぇ……お宅さん方と二代目になられたお嬢の事をよぉ……わかった…こいつらの事ぁそちらさんにお任せいたしやす…それから…今回の間違いは二代目を襲名したばかりの俺の不手際…俺の左腕ぇ斬り落としてくれやぁ!」


 伸二さんはそういうと、口も聞けぬほどに彼の木刀の乱れ打ちを喰らわせた鮫島喜三郎以下八名の組員達と同様に、もろ肌脱いであたし等の前に座りこむのだった。


「……伸二さん立って…あたし等はヤクザじゃない…だからぁ人を殺めるなんてまねぁ天地が逆さまになったって出来る事じゃない……それに…まだまだ駆け出しのあたしをちゃんと二代目と認めてくれたあんたの左腕ぇあたし等に斬り落とせる訳ないじゃん!こいつら八人の始末ぁ弘二さんと裕司さんに任せてあたし等と一緒にこの夏祭り盛り上げるの手伝ってよ!」


 彼のその、侠気あふれる態度にたかが十五の小娘が。口を挟む事じゃないのもわかってはいたが、黙って静観するなんて事はその時のあたしにはできなかった。


「……お嬢…いいや…浅香一家二代目ぇ……不詳天神一家二代目総長安西伸二ぃ温情あるお言葉ぁ傷み入ります!」


 彼はそういうと、また、あたしと沙也佳、そして弘二さんと裕司さんに改めて深く頭を下げるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言]  十五歳の主人公を見ていて、薬師丸ひろ子の昔の映画を思い出しました。   二代目はクリスチャンなんて映画もありましたね。  相変わらずキレのいい啖呵、気持ちいいですね。  執筆、投稿ご苦労様…
[一言] 早速読ませていただきました! まさに喧嘩に祭りに任侠カーニバルな作品!! お嬢達のこれからに幸あれ(*´︶`*)ノ
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