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9/11

黒い翼と銀の小鳥

新作に浮気していました。

ですがこの小説を忘れていたわけじゃありません!

まぁ、それはそれとして新作もよろしくお願いします(プライドのないダイマ)

「洗脳装置ぃ?なんだいそれ、僕の専門外だよ」


 男は迷惑そうな表情を浮かべると、あっち行けと言うように手を振る。

 頼むからそんなこと言わないで欲しい、こちらだって困っているのだ。

 俺は相手のご機嫌を取るようにもみ手をして頼みこんだ。


「なぁ、頼むよ技術者で暇そうなのはあんたぐらいだし、こんなこと聞けるやつ他にいないんだよ」


 おれの言葉を聞くと男は青筋をたてて怒鳴った。


「暇?暇だと!?僕はあの黒鉄の設計の総責任者だぞ!!」


 あ、やべ。

 地雷を踏んでしまったらしい。

 いや、だって本当に暇そうじゃんお前……

 俺の今いる場所は軍の格納庫だ。

 格納庫では現在修理中だった月宮の機体、黒鉄が運び込まれ多くの技術者が復帰作業に勤しんでいた。


 月宮を助ける。

 そう決めた俺ではあるが、そもそもどうやって助ければいい、という問題が浮上した。

 月宮は明らかに改造され、変わってしまった。

 どうやってそれを元にもどせばいい?

 そう考えて思いあたったのが彼女の頭に装着されたあのカチューシャだった。

 彼女が変わってしまったあの日からつけ続けているあのアクセサリー。

 意味ありげに明滅するあの装置が無関係だとはとても思えない。

 あれを無理やり取ってしまえば、と最初は考えたのだが……そもそも脳を制御しているであろう機械をいきなり取り外して大丈夫なのだろうか、という疑問があった。

 俺は軍人だ、機械のことなんて詳しくない。

 俺が適当に判断して月宮の状況が悪化するのは望ましいことじゃない。

 やはりここは専門家に判断を仰ぐべきだろう。

 そう考えておれは技術者たちが働く格納庫まで足を運んだ。

 適当なやつでも捕まえて話を聞こうと思ったのだが、どうにも皆忙しそうで声をかける隙がない。

 どうしようかと視界を彷徨わせていると目に入ったのがその男だった。

 男は忙しそうな技術者に混ざることなく、復旧作業を少し離れた位置から見守っていた。

 なんか……暇そうだな!

 そう思った俺は悪くないと思う。


 かくして俺はその男に話しかけ、今に到るというわけだ。

 まさかこの暇そうな男がこの機体の設計の総責任者だとはお思わなかったのだが。

 俺は内心冷や汗をかきながら言葉を続ける。


「く、黒鉄の設計の責任者ってんなら無関係な話じゃない。この機体のパイロットの話なんだよ」


「なにぃ?」


 俺の言葉に技術者の男が反応する。

 彼は懐からタブレット端末を取り出すと、それをこちらに突き出した。

 な、なんだ?

 タブレットの画面にはわけのわからない数値が羅列されている。


「お前、何か知っているのか?あのパイロットについて」


「あ、ああ」


 思いの外話に食いついてきたな。

 機体の設計者としてこいつはこいつで月宮に何か思うことがあるのかもしれない。

 それよか、この数値はいったいなんなんだよ。


「これは彼女の脳波を記録した彼女の戦闘記録だよ」


 うへぇ、そんな記録取っているのか。

 確かに、駆動騎兵は脳波を読み取り、操作に反映する。

 そのため機械の自動操縦などではできない個性の出る挙動をする。

 それが屍械には学習できない戦闘形態の本質なのだが……

 その読み取った脳波をいちいち数値化して記録しているとは、この男かなりの酔狂者だな。


「最近の記録はひどいもんだよ、まぁ八型などというつまらん機体に乗っているせいもあるだろうが……」


 なぁ、という風な同意を求める視線を男から感じる。

 知らねーよ。

 俺にはその数値が何を表しているかなんて全くさっぱりだよ!

 だが、それを言うと話が止まってしまいそうなので、分かっているフリをして先を促す。

 男は数値を指差しながら何やら話している。


「見てくれ、以前と比べて攻撃前に明らかに空白がある。K値Me反応が出てからようやく攻撃態勢に入っているんだ」


「あー、うん。そう……」


 ……それでそれってどうゆう意味があるんです?

 わけの分からんことばかり喋らんで欲しい。


「彼女は明らかに攻撃前に外部の信号を受けている、その信号が出てからしか攻撃していないんだ。そのせいか以前のような多様性に富んだ攻撃パターンが失われている。これは明らかな怠慢だよ。彼女の強みが全く活かせていない。どんな理由があろうと…………」


「それだ!!」


 男の言葉を遮って俺は声を上げた。

 男を掴みガクガクとゆする。


「それだよ、それ!あいつはその信号に操られているんだ」


 やはり俺の見立ては間違っていない、あの頭についたカチューシャで月宮は制御されているんだ。


「操るぅ?…………ふむ。確かに……そう考えると彼女の脳波の謎の空白も納得がいくな。一定の数値以上にならないようセーフティロックでもかけられているのか……?」


 男は顎に手をやると思案するように目を瞑った。

 脳波の数値なんてどうでもいい。

 それを止める手段を俺は知りたかった。

 俺は月宮に起きた変化、そして彼女の頭に取り付けられた怪しいアクセサリーについて説明した。

 男は最初のような迷惑そうな表情は鳴りを潜め、真剣に俺の話を聞いてくれた。


「なるほど、つまりお前はその装置を僕になんとかして欲しい、そうゆうわけか」


 そうだ!

 俺は男の問いに力強く頷く。


「…………ちょっと待っていろ」


 男はしばらく押し黙ると、そう言って席を外した。

 なんだろうと思って待っていると男はあるものを持って戻ってきた。


「?なんだこれ」


 それは小さなシールのように見えた。

 赤くて丸いシールが男の掌の上にのっていた。


「高度な機械というものは得てしてエラーを起こすものだ。どうしようもないエラーループ、それが起こった時どうする?」


「はぁ?」


 知らねえよ。

 いちいちわけの分からない問答をしないでくれ。

 技術者っていうのは周りくどくてめんどくさい、もっと単刀直入にものを喋ってくれ。


「シャットダウンだ、電源を落とすんだよ。これは停止機、そういったエラー時に外部からプログラムを強制終了させるための装置だ」


 なんだよ、そんなものがあるなら早く出してくれよ。

 俺は男の手からその装置を引ったくった。

 よし、あとは月宮のカチューシャにこれをつければ解決だ。

 駆け出そうとする俺の足を男が踏んづけて止める。


「待ちたまえ。最後まで話を聞け!」


 足を踏まれた俺は前につんのめる。

 この野郎、もっと穏便な止め方があったろ。

 俺はイラつきながら振り返る。


「これは一時的な解決法でしかない。電源を切ったところで装置はすぐに再起動するだろう」


 お、おう…………確かにそうかもしれないな。


「だいたいお前に任せたら装着次第作動させかねん」


 図星だ。

 俺はすぐにこの装置を作動させようとしていた。

 すぐ作動させてその隙にカチューシャを取ってしまおうと思っていた。

 でも、よく考えれば外したところで上層部のやつらにまた付けられるのがオチだ。

 だとするならどうすればいい?

 これではちょっとした時間稼ぎにしかならないじゃないか。


「これが使えるのは一度きり、効果的な場面で起動する必要がある。だから停止機の起動タイミングは僕の方で決める」


 たしかに……俺が起動するよりもその方がいいのかもしれない。

 俺の仕事はこいつを月宮のカチューシャに取り付けるってことか。

 そう考えていると男はまた何やらタブレットを操作し、それをこちらに差し出してくる。

 画面にはなにやら設計図のような図面が映し出されている。

 だからなんだよこれ説明しねぇと分からねえよ。


「お前に手をかそう。だからお前の方でも探って欲しいことがある。軍の上層部が何かきな臭い」


「おう」


 軍の上層部がきな臭い、それには俺も同意だ。

 月宮がここに来る前から軍内部では妙な噂が絶えなかった。

 それが月宮という明らかな改造人間が現れたことにより上層部の疑惑は確信に変わった。

 上層部は今まで以上のやばい何かに手を出そうとしていると聞いても何も疑問に思わないだろう。


「これは、黒鉄の新しい武装の設計図だ」


「新しい武装!?」


 黒鉄はただ修理するだけじゃなく武装まで一新するのか?

 これは……なんか翼っぽいな。


「黒雷羽、上層部から依頼された大量の敵を同時攻撃することに主眼をおいた独立飛行型の兵装だ」


 大量の敵?

 何か妙な感じだ。

 確かに俺たちの相手をする屍械の数は多い。

 とはいえ今までの黒鉄で十分捌けていたと思う。

 それに、以前の人食個体のことを踏まえると、数よりも威力を増した方が効果的に思える。

 俺の疑問に答えるように、男が説明する。


「そもそも、屍械用の兵装とは弾速が重視される。いくら学習されても躱せない速度、それが有効だからだ。だが、黒雷羽は敵を追尾し確実に当てることを主眼に置いている。これでは弾速が遅すぎる。機械制御の兵装は過去にも学習され、対策されてしまったというのにこれでは過去の二の舞だ」


 やはり俺が感じた通り、この兵装は今の戦場に噛み合っていない。


「大体、こんな大量の敵って、何を想定しているんだ?上層部は大陸を取り戻す戦いでもおっぱじめる気か」


 大陸……!

 過去、海上国家が軌道に乗り始めた頃いくつかの国家は自分たちの故郷である大陸を取り戻すため陸地に巣食う屍械に戦いを仕掛けたことがあった。

 結果は惨敗。

 陸地を巣食う巨人型や獣型の強さは鳥形の比ではない。

 いくつかの国家は報復にあい海上からその姿を消した。

 もし、上層部が大陸の奪還を考えているのなら、それは国家の存亡さえ揺るがしかねない事態だった…………





―――――――――――――――――――――――――――――――





 今日もモリモリ飯がうーまーいーぞー!

 私はいつものように食堂でご飯を体内に摂取していた。

 日々の活動のために栄養補給はとても大事だ。

 この食材ひとつひとつが明日の私の肉体を形作るのだ。

 だからこそバランスが大事。

 ラーメンなどという不健康極まりない食事を好んでいた前の私はどうかしていたと思う。

 なんだって、私はあんなものをわざわざ食べに行ってたんだ?

 なにかをサービスでトッピングされていたような気が…………なんだっけ。

 まぁ、安いサービスに釣られて行っていたのだろう、前の私はちょろいなぁ。

 だが今の私は違う!

 食事バランスに気を遣えるパーフェクトガールになったのだ!!(なお自分で料理はしない)

 ふんす!と鼻息を荒くして食事をしていると、頭に何か乗る感触があった。


「うん?」


「よぉ、元気にやってるな」


 振り返ると、友軍である阿佐部だった。

 彼は私の頭を気安く叩くと向かいの席に腰を下ろした。

 なんだ?乙女の身体に気安く触れるなよ、セクハラだぞ。

 私のそんな視線を気にすることなく阿佐部は持ってきた自分の食事を食べ始める。


「そういやお前の機体、修理終わってたぞ」


 なぬ、そうなのか。

 確かに私の機体の修理が近いうちに終わると聞いていたが、詳しい日時は知らされていなかった。

 もう終わったのか。

 なら、この後は予定を変更して黒鉄を見に行こうかな。

 新装備を引っ提げて帰ってきたらしいからそれをチェックするのが今から楽しみだ。

 大破した機体がパワーアップして再登場、ロマンに溢れた展開だよね。

 私ははやる気持ちを抑えてしっかり噛んで食事を進める。


「なぁ、月宮……」


 向かいに座る阿佐部が、なにやらシリアスな面持ちで私を呼びかける。

 うん?どうした。

 その何か思い詰めた表情に私は食事の手を止める。


「上は何をしようとしてるんだ」


 上、上かー。

 それって私を強化人間にした人たちのことだよね。

 あの人たちの考えていることなんていたってシンプルなんじゃない。


「屍械殲滅」


 これだけでしょ、あの人たちの考えていることなんて。

 むしろそれだけしか考えていないから、平気で非人道的なことができる。

 平気で私みたいな存在を作れる。


「そうか……それだけならいいんだけどな……」


 同士阿佐部君は私と考えが違うのか憂鬱そうに顔を歪めた。

 なんだ、心配事でもあるのか?

 もっと気楽に生きればいいのに。

 そうすれば私みたいにいつでもハッピーだぞ!ダハハハハ!

 私はニコニコ笑ったが向かいの男の顔は晴れなかった。



……………………………



…………………



……



 格納庫にたたずむ黒いシルエット。

 私の相棒黒鉄は格納庫の中で一際強い存在感を放っていた。

 はぁ〜、やっぱ黒い機体っていいよね中二心をくすぐるわぁ。

 黒鉄の背中には見覚えのない羽のような装備が取り付けられていた。

 あれが噂の新武装かな?

 私はコッックピットに乗り込むと、メインシステムを起動する。

 ふむふむ……黒雷羽、大量展開する追尾型の兵装か。

 システムから武装の情報を引き出していく。

 しかし新武装を用意するのは構わないが、パイロットの私に説明が何もなしってひどくないか?

 黒鉄に初めて乗った時もそうだったけど、初見の兵器でも問題なく扱えると思われている節がある。

 そりゃ、確かに扱えるけど……心の準備ってものをさせて欲しいよ私は。

 なので阿佐部からの情報は助かった。

 こうして出撃前に新武装の詳細が確かめられるのだから。


「…………」


 うん……大体内容は把握できた。

 これファン○ルだな!!

 いや、展開して打つのではなく展開した兵装が敵に突撃するのだからファン○ルではなくファ○グか?

 なんかいよいよ強化人間っぽい機体になってきたな。

 どうせ噛ませで、この後上位機体が出てくるに違いない。

 だいたい、このタイプの武装で機械制御ってどうなのよ!?

 こうゆうのは脳波で制御してこそのロマン武装でしょ。

 扱いきれないなら、それはそれで強化人間の限界みたいのを表現できてグッとくるし。

 機械制御は全部外しておこう、これで凡人には制御など不能な完全ロマン武装となるだろう。

 他にも細かい挙動を自分用に調整する。

 この機体は久しぶりなので今の自分用に合わせておかなくては。

 そうしてメインシステムをいじっていると、聴き慣れた警報が鳴り響いた。


 領域内に、侵入された時の警報。


 どうやら、お誂え向きに敵が現れてくれたようだ。

 この新武装で暴れろとの思し召しだ。

 私はコックピットのハッチを閉じると出撃の準備に入る。


「…………あれ?」


 だが、出撃を急ぐ私に不可解な命令が下された。

 所定の位置まで移動して待機せよ。

 なぜ待機?

 いつもみたいに殲滅せよという命令じゃない。

 せっかく久しぶりの黒鉄で新武装もあるのに?

 命令に少し不満を感じる。

 でも逆らおうとは思わない。

 命令に従っていれば、私はシアワセだから。





―――――――――――――――――――――――――――――――





 鳴り響く警報、俺たちは慌ただしく出撃準備をしていた。


『月宮來羽、黒鉄出ます』


 出撃を急ぐ俺たちの横でいつの間にか出撃準備を済ませていた黒鉄が出撃する。

 相変わらずの独断先行だな。

 久しぶりの黒いシルエット、月宮もやる気満々なのだろう。

 だが、あいつ一人に任せるわけにはいかない。

 特に今の月宮は不安だ。

 俺も機体をカタパルトへと進める。


「おい、停止機はちゃんと取り付けたんだろうな」


 通信が入った。

 誰かと思ったら、あの技術者の男だった。


「ああ、取り付けたぜ」


 あの装置は頭を叩くフリをして彼女のカチューシャに取り付けた。

 彼女は全く気づいた様子はなかったので、今もカチューシャについているはずだ。

 だが、なぜ今そんなことを聞いてくる。

 まさかこいつ戦場であの装置を使う気か?

 それはいくらなんでも危険じゃないのか。

 洗脳装置が止まった影響で彼女が気を失いでもしたら墜落しかねないぞ。


「何か妙だ、お前も気を付けろ」


 そう言って通信は切られた。

 なんだよあいつ、言いたいことだけ言って切りやがって。

 やきもきしながらも、黒鉄に続いて出撃する友軍に続いて俺も出撃する。


「阿佐部亮、八型改出撃する」


 機体がカタパルトによって空中に射出され、Gが体に襲いかかる。

 モニターに映る景色は、雲の上。

 Gに耐えつつ機体を制御し、敵の方向へと進路をとる。


「……んあ?なんだぁ??」


 そこで俺は戦場の異変を感じ取った。

 とっくに敵前に迫った黒鉄、それが止まっている。

 黒鉄だけじゃない、黒鉄に追いついた友軍までも、そこに透明な壁があるかのように静止している。

 なんだ?

 なぜ敵に攻撃を仕掛けない?

 そうして俺は気づいた、敵もまた静止している。

 というより…………なんだこれは。

 敵の数が、多い。

 今までの何倍もの敵影。

 いや、これは…………そもそも敵なのか?

 この反応は屍械じゃない。

 この反応は………………


「駆動騎兵!?」





―――――――――――――――――――――――――――――――





「うーん、これってどういうこと?」


 私の目の前には所属不明の駆動騎兵の軍隊が展開されている。

 所属不明…………いや、所属は明らかか。

 駆動騎兵のアーマーに印字されたエンブレム、そこに記されたKATELの文字。

 四大国家の一つ帝都カテルの軍隊だ。

 それが、なぜこんな碧斗付近の海上に集まっているんだ?

 ボケッと見ていると、基地から友軍がゾロゾロと出撃してきて私の横にならんだ。

 碧斗と帝都カテル両軍が空中で向かい合うように整列する。

 数は、向こうの方が多い。

 命令は、待機のまままだ来ていない。

 しかし、何が起こっているんだ。

 帝都カテルと碧斗は過去衝突したことがあるらしいが、今では友好的な関係だ。

 攻めてきたというわけではないだろう。

 ということは救援要請か?

 いや、こんな大所帯で?

 様々な憶測が頭の中でいくつも浮かぶ。

 でもそのどれもが、この現状を説明できるものではなかった。


『帝都カテルの軍隊が、はるばる碧斗まで何用で?』


 痺れを切らしたのか、友軍のうちの一機が隊列を外れ、前に進み出る。

 通信回線がわからないので外部スピーカーでの呼びかけ、向こうにも聞こえているはずだ。

 沈黙。

 向こうからの返事はない。


『なぁ……』


 友軍がもう一度呼びかけようとした時、向こうから返事があった。


 爆ぜた。


 友軍が。


「え?」


 目の前の光景に私は目を瞬かせる。

 放たれた複数の銃弾が友軍の機体を貫き、鉄屑へと変える。


「え?」


 再度疑問の声が喉から漏れる。

 でもその光景は変わることはなかった。

 人が乗っていたはずの機械は、燃える鉄屑となって海へ落下して行った。

 汗が溢れ出る。

 唐突な友軍の死、自分たちへ向けられた確かな敵意。


「あは……あ、はは」


 ストレスを感じているはずだった、感じなければおかしい場面。

 でも私の口から漏れたのは笑い声だった。


「アハハハハハハ!やった!やりやがった!戦争する気か!?お前ら」


 笑いが止まらない。

 感じたはずのストレスを覆い隠すように楽しいという感情が湧き上がる。

 頭につけてカチューシャが熱を持ち小さくない稼働音を響かせる。

 どうする、この攻撃に対して、私はどう動けばいい、命令は?


 攻撃し返せ。

 撃て、駆動騎兵を。

 殺せ、人間を。


 命令が…………頭に響き渡る。

 うん、わかった。

 私攻撃するね。

 私のため、碧斗のため、敵を倒すよ。


「…………黒雷羽、起動!」


 黒い翼が、音を立てて開く。





―――――――――――――――――――――――――――――――





「おい!黒鉄を止めろ!!」


 戦況をモニタリングする司令室で僕はパイロットの男と回線を繋ぐと怒鳴りつけた。

 油断していた。

 ことが起こるのはもっと先になるかと思っていた。

 軍の上層部はもうとっくに動いていたというのに。

 奴らが僕に作らせた新型武装、そのタイミングに合わせたかのように現れた敵。

 複数の駆動騎兵だと?

 まるで狙いを済ませたかのような御誂え向きのターゲットだ。

 相手が屍械でないのなら、弾速をそこまで早くする必要はない。

 この数の駆動騎兵も黒雷羽ならば対応圏内だ。

 上層部は黒鉄一機で軍隊を壊滅させるつもりか?

 目的は、戦争か侵略か、それとも新型機のプレゼンか……

 そんなことは重要じゃない、問題は僕の作った兵器が人間に向けられているってことだ。

 人を殺すために作った兵器じゃない。

 屍械を倒すため、人を守るために作った兵器だ。

 それを人に向かって撃つだと!?冗談じゃない!!

 僕の言葉を受けてパイロットの男が黒鉄の前に立ち塞がるが黒鉄はその機動力を生かして男を振り切る。

 くそ、自分で作っておいてなんだがあの機動力は反則だろ。

 機体性能的に止めるのは無理だ。

 だが、男の話を信じるのならば停止機は例のカチューシャにしっかり取り付けられているらしい。

 ならばもうこのタイミングで強制停止させるしかない。

 いきなり戦場で洗脳装置が止まり正気に戻るのは少々気の毒かもしれないが、四の五の言っている場合じゃない。

 タブレットを操作すると、停止機を起動する。

 これで停止機が洗脳装置を強制的にシャットダウンさせる。

 パイロットが正気に戻れば、黒雷羽の使用を注視する…………と思いたい。

 タブレットに進行状況が表示される。

 強制停止まであと3秒。

 黒雷羽はもう展開を始めているように見える、間に合うか?

 後2秒……

 大丈夫まだ黒雷羽は起動し切ってない。

 後1秒…………

 いける、間に合う。

 0!!

 よし!間に合った。

 これで強制停……止……?


 ブツンッ


 僕の操作するタブレットの画面が急に真っ暗になった。

 あ…………れ……?

 画面を慌ててタップする。

 でも画面は真っ暗なまま、うんともすんとも言わない。


「おや、どうしたのかね?」


 不意に、後ろから画面を覗き込まれる。

 さっきまで後ろに人の気配なんてなかったのに。

 振り返るとそこには僕のクライアント、桐島大佐が立っていた。


「何を……した」


 緊張で口の中がカラカラになりながら僕は問いかける。

 桐島はいつもと変わらない表情で肩をすくめた。


「私は何もしていないさ。ただ、彼女は重要な立ち位置にいるからね、大事なら……守らなきゃ、そうだろう?」


 やられた。

 恐らく、あの洗脳装置には僕の思っていた以上のプロテクトがかかっていたんだ。

 ハッキングしたつもりが、逆にされていた?

 杜撰な僕らの計画なんて全て読まれていた。


「見たまえ、花火が打ちあがるぞ」


 桐島大佐が上機嫌にそう言う。

 もう黒雷羽は起動完了していた。


 開かれた翼。

 それは形状的には翼というより、光輪といった方が正しかった。

 円状に展開された漆黒の翼が、ゆっくり光を放つ。

 まるで天使が舞い降りたかのような光景。

 そして次の瞬間、それらは瞬きと共に射出された。

 射出された黒い槍がはじけ、二つに分裂する。

 さらにその槍がはじけ、はじけ……

 まるで花開くように空に黒が広がっていく。

 そうして数十、数百に別れた黒い槍が、敵に殺到した。





―――――――――――――――――――――――――――――――





「嘘つき……」


 そうこぼした言葉は、届きはしない。

 私たちは、完璧に分離してしまった。

 こちらからは現状を把握できるのに、自分の感情、叫びは彼女には届かない。

 その忌々しい現状に歯噛みする。

 全部あのカチューシャのせいだ。

 あれが、彼女と私を繋ぐものを断ち切ってしまった。

 あの時優しい彼女は私を突き飛ばし、意識の表層へと向かった。

 そうして、壊されてしまった。

 本当ならば、壊されるべきは私なのに。

 意識を、周りへと向ける。

 そこには、彼女だったものが無数に漂っていた。

 彼女の負の感情だ。

 私と言う人格、そして彼女の負の感情は隔離され、閉じ込められてしまった。

 そうして彼女は幸せしか感じない人形にされてしまった。

 そしてその人形が今、取り返しのつかない過ちを犯そうとしている。


「このままじゃ私たち、人殺しになっちゃうよ!」


 人類を守る軍人なら、まだ許容できた。

 それなら、彼女も嫌々ながらやってきたことだ。

 でも、人殺しだけはダメ。

 それは超えてはいけない一線。

 命令のまま人を殺せば、それは本当の意味での兵器となってしまう。

 私を助けようとしてくれた彼女に、そんなことはさせたくなかった。


「ねぇ、動いて!命令に逆らわなきゃ!」


 私の周りに漂う彼女の残滓にそう呼びかける。

 でも、それらは涙を流したり、怒ったりするだけでまとまりがない。

 人格を形成できるだけの個がないのだ。

 これらは彼女の感情の一部でしかない。

 もっと強い感情なら、私の呼びかけに答えてくれるかもしれない。

 私は、彼女の思考の海を泳いだ。


「………………?」


 思考の海で私は何かを見つけた。

 異物、なんだかわからない物、これも彼女の一部なの?


「あなた…………だぁれ?」


 それは、鳥の形をしていた。

 私の掌に乗るくらいの、小さくて、銀色の鳥。


「壊そうか……」


「え?」


 鳥は囀るような小さな声でそう言った。


「全てを……壊してやろうか?」


 その可愛らしい外見には似つかわしくない物騒な言葉。

 でも、他の感情とは違いそこには確かに意思があるように思えた。


「この状況をどうにかしたいの、協力してくれない、小鳥さん」


 私は小鳥に協力を持ちかけた。

 小鳥はまるで品定めするみたいに私をじっと見つめた。


「お前の存在の一部をくれれば、お前の望むものを壊そう」


 鳥はそう言った。

 だから、私は手を差し伸べた。


「好きなものを持って行きなさい。一緒に彼女を助けるの!!」


 私なんて、どうでもよかった。

 好きなだけ持っていけばいい。

 私を助けてくれたあの優しい彼女を、助けたい!!


「いいだろう」


 小鳥は、そう言って飛び立った。

 そうして…………


 バキンッッッ!!!


 私と彼女を隔てている枷が、砕ける音が響き渡った。





―――――――――――――――――――――――――――――――





 バキンッッッ!!!


 現実世界でも、何かが砕ける音が響き渡った。

 砕けたのは、私を縛る枷。

 洗脳装置であるカチューシャが砕けた。

 カチューシャを砕いたのは銀色の刃。

 それが白いカチューシャを貫き、物理的に洗脳装置を破壊した。

 そんなものは1秒前まではなかったのに。

 いったいどこから現れ、カチューシャを貫いたのか……


 銀色の刃は…………私の頭から生えていた。


 まるで鬼の角のように、私の左の額辺りから生えた角。

 それにより、私は目を覚ました。

 私にとって、技術者の男のタブレットが壊れたことは幸いだっただろう。

 もし、この時の脳波が測定されていれば、明らかに人間ではない数値が観測されていただろうから……

 短く、息を吐く。

 いきなり記憶と感情が戻り、私の頭はパンクしそうになっていた。

 でも、どうすればいいかは私のもう一人の人格が教えてくれた。


「…………いけ、黒雷羽!」


 すでに敵に着弾間近の黒雷羽の軌道を変更する。

 まるで生きているかのように黒雷羽の動きを制御する。

 敵の何機かは回避行動を取ったが、そんなものは関係ない。

 黒い弾道が空を駆け追尾し、敵に着弾する。

 ……全弾着弾だ。

 放った何百という黒い槍は全弾、過たず貫いた…………


 敵の、武装のみを。


 銃が、腕が、砲がはじけいくつもの爆発が起こる。

 だがその爆発は人に、コックピットに届かない規模のものでしかなかった。

 人殺しはしない、この機体は、私は、そんなことをするために生まれたんじゃない。

 私は太陽を背にすると敵軍に告げて言い放った。


「次は……コックピットを貫く…………死にたくなければ、引け!」


 黒い死神が、敵を圧倒した。





―――――――――――――――――――――――――――――――





名もなき技術者

再度登場する予定は全くなかったキャラ。

それゆえまだ名前が決まっていない、可哀想に。

今回は結局何の役にもたっていないように見えるが、実は洗脳装置が停止機に逆ハッキングをかけることにリソースを割いていたため洗脳が弱まっていた。

そのおかげで銀の小鳥は目を覚ました。

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[良い点] 更新ありがとうございます。 [一言] 新作ってなんだろうと思い、作者さんのページに行ったら、ブックマークしてた作品でした。 応援してます。
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