もう一つの兵器
難産だった……結構無理のある展開かもしれない(こねくりすぎて、もはや客観視ができない)
でもこの後書きたい展開がいっぱい控えているので頑張って書きました。
私の目の前で装甲を纏わぬ所属不明機が決めポーズをとる。
「正義のヒーロー桐島さんの登場だ!」
「…………あの……」
イキっているところ悪いのだが、その機体じゃとても戦えるようには見えないのだけど。
見知らぬ女の操るその機体は装甲がないだけではなく武装も見当たらない。
装備は背中に取り付けられたブースタータンクだけ。
銃もナイフもない、丸裸の機体。
そんなものにこの戦場を任せられるとは思えなかった。
無謀だ。
「ねぇ…………」
静止しようとしたが、彼女はそれより早く行動に出た。
「ひゃほおぉぉっ!」
未完成の機体が空を舞い、一匹の屍械に向かって飛びかかる。
ちょっと!?
私を貫いた攻撃を見ていなかったの!?
当然、屍械は迎撃のための角触手を射出した。
黒鉄のように全方向にブースターを装備した機体じゃない。
推進のためのブースターを一対積んだだけの機体、空中での回避行動などできるわけがない。
直撃する、そう思ったが銀の機体はまるでその攻撃を待っていたかのように腕を突き出していた。
「そぉい!」
射質された角を掴み、受け止める。
駆動騎兵を貫くほどの攻撃を、易々といなす。
彼女は掴み取った角を自慢げに掲げた。
「私に隙を見せたな。これでお前は私のおもちゃだ」
銀の機体が角と繋がった触手をガッチリと掴む。
そうして、屍械を思い切り引っ張った。
屍械の巨体が力負けし押されていく、とんでもない馬力だ。
「そーれぐるぐるぐる」
そのままジャイアントスイングを始めた。
振り回された屍械が他の屍械を巻き込んでいく。
屍械と屍械がぶつかり合い、ひしゃげる不快な轟音があたりに響き渡った。
すごい力技だ。
屍械の群れが引きちぎられていく。
おおよそ駆動騎兵としては考えられない戦闘方法。
それを可能としているのはあのとんでもない出力だろう。
間違いなく専用機。
ロボットと言うよりもはやキングコ○グのようなフィジカルに任せた暴力的な戦い方だった。
あの力の暴力にはそもそも武装など最初からいらないのかもしれない。
その光景に唖然としていると、通信が入った。
「月宮!そのまま下がれ。後は俺たちと訳の分からんあの専用機でやる」
阿佐部さんだ。
彼からの事実上の撤退勧告。
燃料残量を確認する……この減り具合だと確かに戦闘するのは心許ない。
先ほどまでの戦わなければいけない状況とは違い、今はあの暴力の権化というべき専用機が敵を引き付けてくれている。
「…………了解…………人命救助、する。」
「おい!」
戦闘はあのバーサーカーと友軍に任せよう。
でもそのまま撤退はしない。
都市の生き残り、その救出作業に移る。
私にもまだできることはある。
私の中の少女はこの都市の人間を救おうとしていた。
それがどんなに独善的な正義であろうと、それは確かな優しさだった。
その意思を私は汲み取りたい。
生体センサーを起動。
センサーは都市に点在する無数の生体反応をキャッチした。
こんな燃えさかる都市であろうと生物は意外といる。
鳥、ネズミなどの小動物、見捨てられたペット。
私が探したいのは人間、サイズを大きいものに絞って探索する。
戦闘から遠い、安全な場所。
生存者がいるなら、燃えていない損壊が控えめな建物だろう。
都市を走り回り、生存者を探す。
しばらくして、該当の生体反応をキャッチした。
都市の外れ、人工林が広がる公園の施設の中。
数は…………2つ。
それ以外の該当反応は見当たらない。
少ない、絶望的に。
いや、分かっていたはずだ。
この都市に群がる屍械の数、生き残りがいるだけでも……それは奇跡に近いことだと。
唇を噛み締める。
少女の記憶が私を苛む。
『…………救助にきた……大丈夫…………?』
外部スピーカーを通して生存者に向かって呼びかける。
「…………」
うーん、返事はない。
当然だが、あたりには戦闘の爆音が響き渡っている。
そんな中出てくるはずがないか。
仕方ない、直接連れ出そう。
駆動騎兵から降りて、生身で捜索を開始する。
その施設は倒壊を免れていたとはいえ襲撃にあったのかあちこちにヒビが入っていた。
瓦礫を跨ぎ、施設へと侵入する。
「……大丈夫……ですか?」
生存者に呼びかける。
本当はもっと大きな声で叫びたいのだが、どうにもやはりこの口がうまく回ってくれない。
これでは救出にきた軍人と言うよりかは迷子の子供のような声音だ。
先ほどの生体反応を頼りに施設の奥へと進んでいく。
「誰?」
捜索する私の耳が声を捉える。
声のする方に視線を向けると、小さな男の子が立っていた。
私と目が合うと男の子は踵を返して建物の奥へと消えてしまった。
ちょっと待てや。
私は男の子を追いかける。
狭い通路を抜け、広い空間に出た。
そこには先ほどの男の子と、彼の母親だろうか?女性が1人床に座っている。
「誰!?」
母親が私へと拳銃を向ける。
「あ……大丈夫…………助けに来た、私軍人……」
私は慌てて弁明した。
私は軍人だが、拳銃のような護身用の武器の携帯は許可されていない。
丸腰だ、まさか助けに来たのに銃を向けられるとは思わなかった。
「……軍人?」
母親は私を訝しげに見つめる。
その目には深い隈ができており、顔色も悪い。
この都市で生き延びることがどれだけ過酷だったのか、その一端を私に感じさせた。
疲れて判断力が鈍っているのだろう。
でも信じて欲しい、こんな幼いなりをしているが私は軍人なのだ。
説得力0だろうけど…………
「外に……駆動騎兵を止めてある……脱出、する」
拳銃に怯んでいるとバレないように努めて冷静に、彼女の目を見て話す。
彼女は私の言葉を咀嚼するように何度か瞬きをした。
救援など考えも及ばなかったのだろう。
この都市は本国から見捨てられたのだから。
男の子が不安そうに私と母親を見比べると、母親の腕を握った。
それで決心がついたのか、母親は銃を下ろしてくれた。
ほっ、よかった、信じてくれたようだ。
「…………こっち」
親子を黒鉄の下まで案内する。
黒鉄は施設の入口で私たちを待っていた。
外では相変わらず激しい戦闘が繰り広げられているようで、ここまで爆音が聞こえてくる。
ここも安全じゃない。
「乗って……」
コックピットへと飛び乗り、親子へと手を差し伸べる。
もちろん黒鉄は複数人を乗せるようにはできていない。
でも今は緊急事態だ、少しぐらい狭いのには我慢してもらうしかない。
シートを限界まで前に移動させる。
そうしてできた空間に母親を、私の膝の上に男の子を乗せる。
かなり無理のある搭乗の仕方だ。
親子2人を固定するものは何もない、いつものような速度での急制動は危険だろう。
慎重に、ゆっくり離陸する。
念のためセンサーを確認。
よし、周りに屍械はいない。
このまま屍械を避けて船まで帰還しよう。
私は安堵のため息を吐いた…………その瞬間。
轟音とともに、機体が大きく揺れた。
「…………え?……」
機体に何かがぶつかった衝撃。
機体の損傷を確認する。
ブースターが一機やられている。
攻撃?いったいどこから?
センサーには依然として屍械の反応はなかった。
「あ、あれ!」
ひざに乗せた男の子が指を差す。
宙に、何かいる、半透明な何か。
センサーでも感知できない謎の敵…………新型!?
私が先ほど戦ったのとは別タイプの個体。
なんで……こんな時に。
攻撃が来る、半透明な刃は目視不可能なほど、早く鋭かった。
強化人間としての感覚をフル稼働して回避する。
「あうっ」
攻撃は躱せた、でも鈍い音がして親子がコックピットの壁に激突してしまった。
「しまっ……」
だめだ、いつもの調子で加速してはこの人たちがコックピット内でシェイクされてしまう。
攻撃は躱せない、攻撃される前にやらなくては。
ナイフを構える。
その半透明な体にナイフを突き立てようとして…………それよりも早く屍械は黒鉄の左腕を切り飛ばした。
「あっ…………」
透明な刃は、そのまま返す刃で私たちを地面へと叩き落とした。
衝撃…………轟音。
黒鉄は、無様に地面を転がった。
鳴り響く警告音。
コックピットを囲むメインモニターに亀裂が走り、映像が乱れる。
私の胸元で男の子が泣き叫び、母親は痛みにうめいた。
墜落した黒鉄の目の前に、半透明の化物が着地する。
先程は空に紛れてよく見えなかったが、地上でならばそのシルエットを捉えることができた。
大きな二対の腕、その腕から突き出る長い刃。
その凶器が、黒鉄に向けられる。
絶望的状況…………
死
前世でそれを経験した私はその感覚をよく知っていた。
もうだめ……ここで終わり。
あの刃に貫かれる未来がありありと想像できた。
モニターに自爆を勧告するポップアップが表示される。
自爆、駆動騎兵の情報を少しでも学習されないために、駆動騎兵には自爆機能が備わっている。
喰われるくらいなら、自爆で木っ端微塵になった方がましという訳だ。
全くひどい幕引きだ。
どこで選択を間違えてしまったのだろう。
私はどこか達観した気持ちになりながら、その事実を受け入れた。
死ぬのは二度目だ。
死は終わりではない、前世を思い出した私はそのことを知っている。
だから、怖くはない。
「いやだああああぁぁあ!」
私の膝の上にいる男の子が泣き叫んだ。
その声に私の身体がびくりと震える。
「……大丈夫……泣かないで…………」
私の口が勝手に言葉を紡ぐ。
震えている、でもどこか優しげな声色。
少女だった。
戦闘が怖くなって、奥底に逃げ込んだはずの少女の私が、顔を上げる。
死を一度経験した前世の私と違って、少女の私は生を諦めてはいなかった。
まだ、死にたくなかった…………自分が手を差し伸べた二つの命をここで終わらせたくはなかった。
「ああああああぁぁぁっっ!!」
自分の喉から、今まで出したことないような大きな雄叫びが漏れる。
黒鉄が大地を駆けた。
作戦も糞もない、無意味な突貫。
黒鉄は両腕を失い、武装もない。
それでも、一矢を酬いようとしていた。
少女は駆動騎兵を操縦できない。
先の戦闘ではそれでうまく機体を操縦できずに被弾した。
でも今回は前回と違う、少女は前世の私を押し除けたのではなく、並ぶように前に出た。
前世の私は少女の横にちゃんといる。
ならば一緒に行こう、少女と手を取り合って。
意思は少女の私、操縦は前世の私。
私と私が混ざり合い黒鉄を動かす。
透明な刃による迎撃がくる。
私はその攻撃を躱さなかった。
コックピットに直撃しなければ、それでいい。
刃が黒鉄の装甲を貫き、切り離す。
でも、その鋭さが逆に仇となった。
刃は黒鉄を貫いたが、なんの摩擦も与えず、私たちの突貫を止める攻撃にはなっていなかった。
そのままの勢いで体当たりをする。
武装はない。
なので装甲を全て展開する。
羽のような装甲を逆立てる。
機体を守るための装甲を攻撃のための刃へと転用すのだ。
突撃…………鈍い衝撃。
鋭い装甲が屍械へと深々と突き刺さった。
しかし、それだけでは終わらない。
そのまま、強引に押し倒す。
何度も何度も地面に叩きつけ、そして最後に一際強く踏みつけた。
砕ける音。
半透明な体が、ガラスのように粉々に砕け散る。
……………
私は荒く息を吐いた。
勝った……?
コックピットのシートにへたり込む。
生き残った……
もう燃料残量はほぼゼロ。
このまま船に帰還するのはもう無理だな。
救援信号を出して仲間の助けを待つしかないだろう。
まだ泣いている、子供をひと撫でし母親の下へ預ける。
空を見上げる。
屍械の姿は見あたらない。
先ほどから聞こえていた戦闘の音も、どこか散発的になっている。
戦闘はもう終局に差し掛かっているのかもしれない。
救援は思ったより早く来るかもしれないな…………
―――――――――――――――――――――――――――――――
銃撃、着弾、屍械の断末魔。
戦場に不快な音が木霊していた。
所属不明機の助けもあり、戦況は終局に近づいていた。
屍械の軍勢は壊滅寸前であり、あとは残党狩りを残すのみだ。
月宮は大丈夫だろうか。
彼女は俺の言葉を聞かずに生存者の救助に向かってしまった。
あれほどのダメージを負った機体で戦場をうろつくのは流石の月宮といえど危険なのではないだろうか。
それでも、生存者のことを見捨てられなかったのだろう。
ここ数時間で、俺の彼女に対する印象はかなり変わっていた。
月宮は作戦会議の時から生存者の救助を頑なに主張していた。
そうして1人で焦って先行し、被弾した。
正確無比なロボットのような彼女からは考えられない行動だった。
彼女にも他人を思う心がある。
兵器なんかではなく血の通った人間だ。
それを知れただけで俺は嬉しかった。
やはり、彼女は戦場にいるべき人間じゃない。
その確信が強くなる。
その時、救援信号をキャッチした。
この機体ナンバーは黒鉄、月宮からだ。
まさか、あの機体で屍械と接触したのか?
「大尉、俺が救援に…………」
「ああ、誰か行ってやれ」
成田大尉に救援の旨を伝えるが、あっさりと許可された。
意外に思いながらも、機体を黒鉄のいる場所まで駆動騎兵飛ばす。
地面にうずくまり、黒煙を上げる黒鉄を見た時は、心臓が止まるかと思った。
だがそのそばに立つ一機の駆動騎兵を見て、安堵する。
先ほどまで一緒に戦っていた所属不明機。
彼女も救援に駆けつけていたようだ。
よかった……無事だったんだな。
彼女の機体の足元に人影が見える。
子供とそれを抱く女性、おそらく彼女が助けた生存者だろう、そして月宮と背の高い女性これはあの機体のパイロットか?
「おい、大丈夫か?」
近くに駆動騎兵を着陸させると彼女たちの下へと駆け寄る。
だが、返事がない。
それどころか、こちらを振り向こうともしない。
月宮と所属不明機のパイロットは見つめあったまま動かなかった。
……?
なんの話をしていたのだろうか。
「あっ!」
次の瞬間女性の腕が月宮の頬を打った。
乾いた破裂音が響く。
「何してんだおめぇ」
慌てて止めに入る。
「何って……壊れているみたいだから叩いて直そうかと思って」
「はぁ?」
女はニコニコ笑いながら月宮の頭を叩いた。
だから叩くなよ。
女の腕を掴んで睨む。
「命令無視の独断先行〜、被弾〜、戦線離脱〜、おまけに他国の民間人を庇って専用機をこんなにボロボロにしちゃって〜」
確かに彼女の行動は褒められたものじゃないだろう。
黒鉄も俺が見た時よりも破損がひどい。
あの後戦闘があったのだろう。
だが、それを責めるのは上官の仕事だ。
関係のないものが責め、手を出せばそれは私刑になってしまう。
「それを叱る資格は俺たちにはないだろうが」
「あるよぉ」
はぁ?
何を言っているのかわからず眉をひそめる。
この女は俺たちの上官だとでも言うのか。
「これを作ったのは私のパパなんだから」
女は月宮を指差して言った。
パパぁ?
「兵器なんだから。ちゃんと設計通りに動いてもらわないと、ねぇ?今日は庇ってあげたけど、このポンコツ具合じゃ私が廃棄しちゃうよ」
いや、この月宮を物扱いする言い草、聞き覚えがある。
「お前……桐島大佐の娘か」
女はにっこりと笑った。
「私は桐島霧子。大佐の娘にして、パパの所有する兵器の一つ」
―――――――――――――――――――――――――――――――
「やっぱり、ルナト同盟国にいたみたいだね娘さん」
「あれは娘などではない」
若い少年の言葉に、壮年の男性はいらただしげに答えた。
いつもの、薄暗い格納庫ではなく、男の執務室で2人は顔を合わせていた。
「娘などと呼べばあれはさらに手が負えなくなる」
男は彼女の顔を思い出したのか不機嫌そうにため息を吐いた。
彼女の才能を見抜き引き取ったまではよかった。
その才能に見合う地位も与えてやった。
だがなぜか変に執着しされてしまったのは男の計算外だった。
今回のことも、どうせ強化人間のあの娘に嫉妬して暴走したのが原因だろう。
研究の初期段階からあれはそんなのいらない、私で十分だと煩かった。
有り余る暴力性の所以なのか彼女はよく暴走した。
屍械を殲滅するだけなら別にそれで十分だろう。
あれにはそれだけの才能がある。
だが、思い通りに動かせる駒というなら彼女では不十分だ。
やはり……専用機を与えたのは早計だった。
「僕は彼女の自由奔放さが好きだけどね」
冗談ではない。
動きの予測できない駒など扱いづらくて仕方ない。
「でもさぁ、強化人間の方も暴走したのはどうするの?そうしないために作ったんじゃないの」
少年の鋭い指摘に男は押し黙る。
報告にあった強化人間1号の暴走。
そうしないために、わざわざ脳を改造したというのに。
「本国に戻り次第、調整するしかあるまい」
男の言葉に少年は笑った。
「君って本当に人の心がないよね。そういうところ本当に頼もしいよ」
―――――――――――――――――――――――――――――――
桐島霧子
味方だと思った?残念違います。
専用機のパイロットにして桐島大佐の娘、彼女も上層部の人間の1人です。
面白キャラではなく、言動のおかしいサイコちゃんでした。