表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/11

鬼に金棒、少女にロボット

今回は番外編的な話なので短い&主人公視点なしです。

 駆動騎兵を作って欲しい、そう依頼があった。

 それ自体は珍しいことじゃない。

 僕は幾つもの駆動騎兵を設計してきた。

 前線で戦う駆動騎兵は僕の携わった機体が数多くある。

 でも今回はいつものような量産機の依頼ではなかった。

 予算を顧みない一機生産のみの高性能機。

 専用機の開発依頼だ。

 それもまぁ、ないことではない。

 数えるほどでしかないが、僕の企業は専用機を作ったことはある。

 僕が度肝を抜いたのはそんなことじゃない。

 僕が驚いたのは機体の作成プラン、その計画書に書かれていた要求スペックだった。


「な、なんですかこの要求スペックは!?」


 僕は思わずクライアントに噛み付いてしまった。

 今回のクライアントは僕たちが逆らうことのできないほど強大な権力を持った相手だったというのに。

 件のクライアントとは軍上層部、それもかなりのお偉いさんだった。

 異議を申し立てるなど自殺行為。

 でも反論せざるを得ないほどその計画書はめちゃくちゃだった。


「なんだ、作れないのか?」


「作れる、作れないの問題ではなく、こんなものに人間が乗れば挽肉になってしまいますよ!!」


 駆動騎兵には人間が搭乗するのだ。

 単純に機体スペックを上げれば強いというわけじゃない。

 このスペックじゃ初速の時点でパイロットはGの負荷によって気絶してしまうだろう。

 最大速度なんてもってのほか、肉体はGによって押し潰され、コックピットに無残な死体が出来上がることになる。

 とてもじゃないけど、実戦に耐えられる性能なんかじゃない。

 兵器とは人間が扱えて初めてその真価を発揮するのだ。

 これじゃあただの動く棺桶だ。


「パイロットについては心配しなくていい、乗るのは人間じゃないからな。それで、作れるのか?」


 人間じゃない?

 一体軍の上層部は駆動騎兵に何を乗せるつもりなんだ?


「作れ…………ます」


 そもそも最初から、選択肢なんてないのだ。

 相手は軍のお偉いさん、断ればこの先どうなるかなんて分かっている。

 企業を守るため、この依頼は受けるしかないのだ。


「よろしい、出来のいい機体を楽しみにしておくよ。こちらも乗り手をさっさと完成させなくてはな」


 クライアントはそう言うと満足げに去っていった。

 軍は、何をしているんだ?

 頭に浮かぶのは、軍が秘密裏に進めている計画の噂。

 そんな噂、信じたくはない。

 でも、そんな噂を裏付けるかのような兵器の計画書が僕の手の中にあった。


「嫌だな…………」


 軍はどうやら僕に悪魔を作って貰いたいらしい…………




……………………………




…………………




……




「ほぉ、素晴らしい」


 クライアントは格納庫に鎮座する機体を見て感嘆の息を漏らした。

 彼が感心するのも無理もない。

 その機体は僕の技術力の結晶なのだから。

 駆動騎兵Type.D03。

 Dとは機体開発コードであるDevilの頭文字だ。

 悪魔の名を冠した機体。

 それは見た目からも禍々しさを感じさせるものだった。

 予算も、スペックも、全てが規格外の怪物だ。


「本当に計画通りの機能があるのか?」


「無人テストでは期待値を超える数値を叩き出しました、ですが有人テストは…………」


 やはり、パイロットへの負担が大きく有人テストは散々なものだった。

 そもそも、人が乗れるような代物じゃない。

 この機体を乗りこなせるやつがいたら見てみたいものだ。

 クライアントはテストの結果を確認しながら鼻を鳴らした。


「まぁ、いい。彼女に乗らせてみればわかるだろう」


「彼女?」


 聞き返しても、クライアントは何も答えなかった。

 ただ、ニヤニヤと笑うだけだった。


「ちょうどいい、君も見たいだろう、この機体が自在に空を駈ける姿を」


 いるのか…………?

 この機体のパイロットが?


 クライアントに同行し、たどり着いた軍の基地で僕は出会った、想像を超える化け物に…………


「女の子?」


 それは、どう見ても10〜14くらいの少女にしか見えなかった。

 その白く華奢な手足は今にも折れそうで、とても僕の作ったType.D03に乗れるようには見えなかった。


「これに…………乗るの?」


 彼女は格納庫へと移送されたType.D03を見てそう言った。

 まるで買い物へ行くみたいな気楽な様子。

 自分が何に乗るのか全く分かっていない。

 それは殺人マシーンなんだぞ?

 その時図ったかのようなタイミングで、屍械の襲撃を知らせる警報が鳴り響いた。

 まるで発射のベルのように。


「ちょうどいい、お前の実力を見せてやれ、來羽」


 クライアントがニヤリと笑い、少女に命令を下した。


「…………わかった」


 少女は人形のような無機質な表情で頷いた。

 そうして躊躇いを感じさせない足取りで、コックピットへと乗り込んだ。

 Type.D03が出撃する。

 僕はそれを黙って見ていることしかできなかった。

 その少女の自殺とも思える行動を止めることができなかった。

 僕は、Type.D03の中で少女が圧死する幻覚を見た。


 でも…………現実はそうはならなかった。

 Type.D03は初っ端から最大速度で敵に突貫した。

 その時点で死んだと思ったのだが、機体はその速度を維持したまま急旋回し、屍械の攻撃を掻い潜る。

 まるで重力などないかのように、縦横無尽に空を駆け、屍械を攻撃する。

 製作者の僕ですら、想定していなかった挙動。

 パイロットのバイタルは…………正常。

 異常なのは脳波だけ。

 彼女の脳波は異常な速度で機体を操り、Type.D03をさらなる化け物へと昇華していた。


 震えた…………。

 自分の愚かさに。

 僕は機体の限界を愚かな偏見で決めてしまっていた。

 機体の可能性を自分自身の手で狭めていた。

 飛べはしないと思っていたType.D03は今こんなにも力強く空を羽ばたいている。

 こんなパイロットが存在すると知っていれば、出し惜しみなんてしなかった。

 あのGに耐えられると言うなら試したい技術がいっぱいある。

 現時点でも兵装の変更点はいくつも思いつく。

 彼女が披露して見せた装甲展開による空力制御、あれをするなら装甲はもっと大きいほうがいい。

 限界だと思っていた機体性能が、急に心許なく思えてくる。


 戦いは数分で終わった。

 圧倒的だった。

 戦場に舞う悪魔は、たった一人で敵部隊を全滅させたのだ。

 彼女の操縦に誰もが言葉を失っていた。

 そんな中僕は誰よりも早く帰投したType.D03の下へ向かった。

 パイロットである彼女の意見を聞きたかった。

 まるで駆動騎兵の全てを知り尽くしたかのようなあの操縦技術、彼女であれば僕が気づきもしない機体の改善点に気付くかもしれない。

 そんな期待を持って僕はType.D03の下へと急いだ。

 Type.D03は傷一つない姿で格納庫へと戻ってきていた。

 Type.D03のハッチが開き、中から少女が出てくる。

 想像通り、こちらも無傷な姿で。

 乗り込んだ時と同じく軽い足取りでタラップを降りてくる。


「あ、あの!僕の駆動騎兵は、どうでしたか?乗ってみて何か変なところは…………」


 声を掛けると、彼女はその無機質な瞳でこちらを見た。

 その無表情な顔に、少し気圧される。


「……色が……ダサい…………黒く塗っておいて…………」


「へ?」


 彼女はそれだけ言うと、踵を返し去って行った。

 色がダサい?

 それだけ?

 あれだけの操縦をしておいて、かかった身体的負担も相当なものだったはずなのに…………

 出てきた感想が、カラーリングが気に入らない?


「ぷっ……くく、あははははっ!」


 なんだか笑えてきた。

 つくづく技術者泣かせのパイロットだ。

 いいだろう、機体は黒く塗装してやるさ。

 それと同時に君が驚くくらいの改修も施してやる。

 そうして、今度はまともな感想を吐かせてやるさ!

 画期的な改修プランがいくつもある。


 そうだな……まず、手始めに…………………黒い塗料でも発注するとするか。





―――――――――――――――――――――――――――――――





駆動騎兵Type.D03

後に黒鉄と名付けられる駆動騎兵。

他の駆動騎兵を圧倒する機動力を持つがそれゆえ操縦者への負担が大きい、強化人間でもなければ搭乗は不可能だろう。

初期の段階ではまだ羽のような装甲はなかった。

ちなみに改修した際の來羽の感想は「黒い……かっこいい」だった。

ドンマイ名もなき技術者君。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 某大佐が赤いじゃない事に嘆いてたり?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ