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10/11

海に潜む何か

投稿遅くてすみません。

イカゲーをやってたわけじゃないんですよ。ほ、本当です(大嘘)

「なんだ!何が起こっている。クソッ!言うことをきけ、月宮!!」

 

 司令室に桐島大佐の怒号が響きわたる。

 司令室の大モニターには黒鉄の攻撃を受け、撤退していく帝都カテルの軍隊が写っていた。

 司令室にいるオペレーターたちが遠巻きに大佐の様子を伺っている。

 桐島大佐の目的はなんだったのかわからないが、様子を見るに明らかに想定外の事態が起こっているようだった。

 この司令室にいる最も地位の高い人物は桐島大佐だ。

 だが、この場にいる人間は今回の襲撃に対し、どう判断すらばいいか分からず、大佐に指示を仰げないでいた。

 帝都カテルの攻撃にそれを無力化する漆黒の機体、カテルとの争いを肯定するかのような大佐の発言。

 突然の巻き起こった事態に誰もが正常な判断ができていなかった。

 おまけに大佐の想定外の挙動をしたのは、彼自身が無理やり配備させたあの少女なのだから。

 黒鉄のパイロットの洗脳が解けた?

 でも、僕の停止機はうまく作動できなかったはずだ。

 何が起きている?

 背を向ける帝都の駆動騎兵に対して、黒鉄も友軍たちも攻撃を加えることはなかった。

 被害で言うなら、こちらは一機撃墜されている。

 撃墜されたパイロットと友人だったものもいるだろう。

 だが、感情に任せて敵軍を撃つことはない。

 さすがは軍人といったところか、ここで打てば本当に戦争になることが分かっているんだ、混乱する司令室よりよっぽど状況が分かっている。

 友軍の犠牲は、黙って耐えるしかない。

 僕は横でモニターを食い入るように見つめている大佐の様子を伺う。

 彼は明らかに両軍の戦闘を望んでいた様子だった……瓦解した作戦、この男はこれからどうするつもりだ。

 僕が桐島大佐の動きを警戒していると、不意に司令室の扉が開いた。

 

「いや〜、やってくれたね桐島君」

 

 そう言いながら司令室に入ってきたのは……子供、だった。

 誰だ?

 緊迫した雰囲気にそぐわない明るい表情。

 軍隊でも、技術部でも見たことのない子供だった。

 

「……碧斗か」

 

 桐島大佐が驚いたような声を上げる。

 桐島大佐の知り合いなのだろうか、でもここはあんな年頃の子供が来る場所じゃない。

 それに、碧斗だって?妙な名前だ。

 どこの誰が自分たちの住む国家の名前を子供につけると言うのだ。

 僕が混乱していると、子供の背後から黒ずくめの兵隊たちが室内に雪崩れ込んできた。

 少年と同じく軍では見たことのない装備の兵隊。

 だが、彼らの隊服には碧斗の紋章が印字されていた。

 兵たちの持った銃の先端が桐島大佐へと向けられる。

 

「なぜ、私に銃を向けるのかね?私は君の味方だと自負しているのだがね」

 

 桐島大佐は自身に向けられた銃に全く怯むことなく、少年に声をかけている。

 そんな中僕は銃の射線が逃げようと大佐からゆっくり離れていた。

 司令室のオペレーターたちも、手を上げつつ部屋の中央から逃げている。

 なにやら上層部の中で不和が生じているようだった。

 そんなものに巻き込まれて死ぬのは誰だってごめんだ。

 

「僕はねぇ、なにも戦争をやれとまでは言ってないんだよ」

 

 少年が笑顔、それでいて冷めた目で大佐を睨む。

 戦争……!やはり僕の横に立つ男の目的はそれなのか!?

 

「時には必要な争いもある」

 

「あのさぁ、それを決めるのは君じゃないんだよ」

 

 少年が手を振ると、黒ずくめの兵隊のうち一人が大佐へと歩み寄った。

 その手には拘束具が握られていた。

 

「抵抗、しないでよね?」

 

「理解が得られないのは、残念だな」

 

 銃口に囲まれ、拘束も目前だというのに大佐は全く怖気ずく様子がなかった。

 その厳つい顔に狂気のような笑みが浮かんだ時……事態は動いた。

 

 僕は最初何が起こったのかわからなかった。

 閃光、轟音そして衝撃。

 気付いたら僕は床に倒れており、司令室は阿鼻叫喚の惨状が広がっていた。

 少年と黒ずくめの兵隊たちが立っていた背後の壁が崩れ去り、大きな穴が開いている。

 衝撃によって生じた瓦礫が兵隊たちを押し潰していた。

 

『パパァ〜、大丈夫?』

 

 黄色い駆動騎兵が壁をブチ破り、司令室に進入してくる。

 駆動騎兵のモノアイが緑色に光り、室内を照らす。

 機体の背後に開いた穴からは司令室まで続く破壊の跡が見えた。

 格納庫からここまで壁を崩して侵入してきたのか!?

 無茶苦茶だ、あまりにも力技すぎる。

 

「問題ない、行こうか霧子」

 

 桐島大佐は差し出された駆動騎兵の手に乗るのが見える。

 

『逃げれると思っているのかい?』

 

 司令室のモニターが切り替わり、瓦礫の下にいるはずの少年の顔がアップで映し出される。

 大型のモニターだけじゃない、司令室のモニター全てに少年の顔が映し出され、大佐と黄色い駆動騎兵を睨んでいた。

 そんな光景にもやはり桐島大佐は動じず答えるだけだった。

 

「逃げるさ、碧斗の未来のためにも」

 

『詭弁を吐かないでくれ。未来のために、必要な戦争なんてないよ』

 

 駆動騎兵が背負った大型のメイスを振りかぶり、壁に叩きつける。

 また閃光、轟音が室内をめちゃくちゃにした。

 僕は少しでも自分の身体を守るために、机の下に逃げ込むしかなかった。

 破壊が止んだ後、恐る恐る顔を上げると、司令室には大きな穴がもう一つ。

 黄色い駆動騎兵の姿はなく、穴からは空がのぞいていた。





―――――――――――――――――――――――――――――――





 私は撤退してく帝都カテルの駆動騎兵たちを見ながらほっと息をついた。

 よかった、引いてくれて。

 これ以上の戦闘は両者にとって良い結果にはならない。

 例え勝つのが私たちだとしてもだ。

 これ以上死者が増えれば本当に戦争になりかねないからね。

 

「月宮!元に戻ったのか?」

 

 なんか通信が入ったと思ったら友軍の阿佐部だった。

 阿佐部、彼はおかしくなってしまった私をなんとかしようとしてくれていた。

 洗脳されていた私は気づきなんかしなかったけど、正気に戻った今考えると彼の前でおかしな言動をしていたし、異変に気づくのも当たり前か。

 明らかにお人好しの彼がそんな状態の私を気にかけないわけがない。

 この通信だって私を心配してのことだろう。

 大丈夫もう正気に戻った、そう伝えようと思ったのだが……

 

「…………正気……」

 

 回らない口まで元に戻ってました。

 なんで戻っちゃうかな、そこは戻らなくて良いのよ。

 言葉を続けようとするけど、口はもごもごするだけで喋ってはくれなかった。

 

「……ぷっ!その様子だと確かに元に戻ったみてぇだな」

 

 おい、笑うな。

 まったく、この不便な感じももはや懐かしいな。

 まぁいい、今はともかく帰投しよう。

 戻り次第、今回の事態を問いただす必要がある。

 今回の一連の事態は戦争になる危険性を孕んでいた。

 そしてそのトリガーは私が握っていた。

 膝の上に転がるカチューシャの残骸に目をやる。

 これを破壊できなければ、私は敵を殺していたかもしれない。

 そして私の頭から生えた銀色の角。

 ただ人間の遺伝子を弄り、強化しただけでこんなものが生えてくるだろうか?

 軍は私に何をした?

 疑問は尽きない、そしてその答えは軍の上層部が握っている。

 遠くに見える基地を睨みつける。

 すると、私の視線の先で基地が火を吹いた。

 は?

 私たちの帰るべき基地の一部が燃え、煙を上げている。

 

「???」

 

 あれは、確か司令室のあたりだ。

 まさか、先ほどの駆動騎兵は囮だったのか!?

 基地が襲撃された?

 様々な疑問が頭を駆け巡る。

 私がその結論を出す前に、モニターに知らない少年の顔がポップアップされた。

 え?だ、誰ぇ?

 知らない顔だ、見たことない……いや、なんか見覚えがある気もするな。

 

『黄色い駆動騎兵を逃すな!この戦争の首謀者だ』

 

 見知らぬ少年の命令が下される。

 煙を上げる基地から黄色い駆動騎兵がものすごいスピードで飛び出すのを私は補足した。

 あれって霧子とかいうあのテンション高い女の機体じゃないか。

 戦争の首謀者って、そんなキャラか!?

 謎の少年からの命令。

 これが、顔見知りのオペレーターや軍部の人間だったなら少しは結果は変わっていただろう。

 でも、結果として私や友軍は、見知らぬ人間からの命令を聞くべきか逡巡してしまった。

 その隙をついて黄色い機体は私たちから距離を離していく。

 なんだ、あのスピード。

 よく見ると見覚えのない大型のブースターが駆動騎兵に装備されている。

 逃げる気満々かよ!

 あのスピードでは普通の駆動騎兵の速度では追いつけない……でも、黒鉄の速度ならば位置的に回り込める。

 遅れを取り戻すように、私は加速し黄色い駆動騎兵の進路へと立ち塞がる。

 なんだか知らないが一旦止まれ!

 

『あ、失敗作じゃぁ〜ん。邪魔!!』

 

 立ち塞がる私に対して、黄色い機体は攻撃を放つ。

 見覚えのない大型のブースター周りから放たれる無数の飛来物。

 なんだ、ミサイルか?

 それが放たれた刹那の瞬間、私はその飛来物が分裂するの視認した。

 分列したものがまた分裂し、分裂を繰り返していく……

 脳が警鐘を鳴らし、ぶわりと鳥肌が立った。

 これって私の黒雷羽と同タイプの兵装!?

 新兵装をプレゼントされたのは私だけじゃないってわけか。

 無数の槍が全て黒鉄一機目掛けて飛来する。

 まずい、私も慌てて自分の黒雷羽を起動した。

 でも黒雷羽は性質上分裂を繰り返し全弾展開するまでの間がある。

 私の黒雷羽は展開し切っていないのに、向こうは展開済み。

 少ない弾数で対応しなければならない。

 

「…………危ない……」

 

 槍と槍をぶつけ合い相殺するけど、全弾は対応できない何発かは直撃ルートだ。

 黒鉄の機動力をフルに使い、通常兵装のライフルで追尾する槍を撃ち落とす。

 後手に回ったのは失敗だった。

 私が槍に手こずっている間に、黄色い機影が脇をすり抜けていく。

 くそっ!

 回避しながらも相手に追いすがる。

 でも、徐々に距離が離されている!?

 黒鉄は高機動をコンセプトに設計された機体だ。

 空中での速度はどの駆動騎兵にも負けない自信がある。

 ただ、それは機動力という点で見ればという条件がつく。

 黒鉄は方向転換する時にその速度をほとんど落とさない。

 パイロットに多大な負荷がかかるという欠点があるが、空を駆け回り空中戦を繰り広げようともそのスピードは落ちる瞬間がない。

 だから速い、他のどんな駆動騎兵よりも。

 だが、直線機動の最高速度という点で見れば黒鉄より速い駆動騎兵は存在する。

 それこそ今目の前にいる機体のように外付けの大型ブースターでも背負えば簡単に黒鉄を超える速度を出せるだろう。

 このままでは引き離される。

 ならばあのブースターを貫く!

 

「いけ…………黒雷羽っ!!」

 

 敵と私が武装を展開するのは、ほぼ同時だった。

 空に二つの花が咲く。

 正面からぶつけて全弾相殺ではダメだ。

 側面から貫いて相手の槍だけ無力化する、そうして少しでも弾数の有利をとって攻撃に回す。

 とんでもない数の槍、自分の槍を制御するだけでも精一杯なのに、不規則に飛ぶ相手の槍の挙動の予測までしなければいけない。

 できるか、そんなこと?

 

『できるも何も、あの兵器の挙動はもう見た。学習しただろ?』

 

 は?

 誰お前?

 銀色の小鳥が、私の視界を横切った。

 

『お前の黒雷羽と違ってあれは機械制御だ。何を怖がる必要がある』

 

 私の中に何かいる。

 今世の人格、宮東陽向じゃない、もっと別の何か。

 いつから、そこにいた?

 銀色の何かが、敵の兵装の挙動、その幾千もの行動パターンを私へと開示する。

 たった一度、攻撃を見ただけなのにその全てを理解したかのように。

 強化された私の脳はその情報全てを瞬時に理解した。

 得られた情報を元に相手の槍の軌道を予測し、その側面へと黒雷羽を回り込ませる。

 黒い槍が、相手の槍を貫いた。

 槍と槍がぶつかりあい、空にいくつもの爆発が巻き起こる。

 そして、その爆風の中を、私の槍が黄色い機体へと殺到する。

 残すことのできた槍はたった数本、でもそれだけで十分だ。

 

『やれ』

 

 機体を貫いて終わりだ…………

 

「違う!!」

 

 今私は何をしようとした?

 機体を貫く?そんなことをすれば私は人殺しだ。

 貫くのはブースターだったはずだ。

 なぜ、どこから意識が変わった、塗り替えられていた?

 洗脳はもう解けたはずだぞ。

 

『おい、逃げられてるぞ』

 

 気づくと、槍は私の困惑の影響で失速していた。

 慌てて意識を持ち直し、槍を操作するが…………もう射程外だ。

 黄色い機体はどんどん遠ざかっていく。

 逃して、しまった。

 俯く私の目線の先に銀色の小鳥がいた。

 私に人を殺す意思はなかった。

 あるとすればこいつしかない。

 私の意識を占めていたのは私と日向だけだったはずだ。

 いつからこんな異物が混ざった?

 

「……お前……誰だ?」

 

『……………ふぅぁ……眠い、寝るわ』

 

 はぁ!?

 小鳥は私の問いに答えることなく、空気に溶けるようにその姿を消した。

 残されたのは、困惑した私だけだった。





―――――――――――――――――――――――――――――――





 結局、一連の騒動は軍の一部の人間たちが戦争を画策したことが発端だったらしい。

 何人かの軍人が密かに姿を消していた。

 それらの行方はまだ掴めていない。

 そして私が逃してしまった桐島親子の行方もまた不明だ。

 あの機体が逃げていった方角には何もない。

 一体どこに逃げたのやら。

元凶が逃走してしまったせいで私の疑問は全く解消されていない。

 軍の上層部は戦争を起こして何をするつもりだったのか、私という存在の謎、分からないことだらけでモヤモヤする。

 頭に生えてしまった角は今は大きめの軍帽を被って隠している。

 まだ隠せる範囲だからいいけど、これ以上大きくなったりもう一本生えてきたりしたら隠すのが難しいぞこれ。

 カチューシャの次に軍帽を被り出した私を見て阿佐部あたりがまた何か言いたげだし……

 そんな中、私は作戦会議室へと呼び出された。

 嫌な予感がする。

 なんか前も会議室に呼び出されてロクでもない目にあったな。

 頼むからなんの会議か事前に教えて欲しい、そうすれば察して絶対参加しないから。

 会議室に顔を出すとそこには数名の友軍、阿佐部もいた。

 そしてあの眼鏡は私の黒鉄の整備してくれる人か。

 上官の姿がないな。

 そう考えていると扉が閉められ、鍵が掛けられる。

 なんで鍵掛けたの?……ていうかまたこのパターンですか。

 落とされる室内の照明、モニタニーに明かりが灯り見覚えのある少年が映し出された。

 あの時逃げ出す駆動騎兵を捉えるように命じた少年だった。

 

『やぁ、集まってくれてありがとう。画面越しですまない。肉体の方が壊されてしまってね、こんな風にしか君たちとコンタクトが取れないんだ』

 

 うん?

 肉体が、壊された?よくわからない言い回しだな。

 こないだの騒動で怪我でもしたのかな、司令室にいた何人かは怪我したって聞くし。

 

『ここに集まってもらったのは他でもない、先日起こった戦争未遂……その真相を君たちに探ってもらいたい』

 

 どよめきが室内に広がる。

 ことが起こった後の召集、確かに件の事件が関係していると予測はしていたがこうも単刀直入に言われるとは思わなかった。

 とゆうか真相を探って欲しいって…………真相まだ分かってないのかよ。

 こっちは真相を教えて欲しいのに、それを探れとくるか。

 

「てかよ、まずお前誰?作戦よりまず素性を開示するのが筋じゃねーの」

 

 頬杖をつきながら阿佐部がそう愚痴る。

 おおう…………言うねぇ。

 彼、結構身分に頓着ないよね。

 こうして私たちを召集したんだから少なくとも私たちよりも上位の存在だろうに。

 でも確かにこの少年の正体は私たちも気になるところだ。

 

『そうだね、まずは自己紹介しようか。僕は碧斗。この海上国家碧斗の管理人にしてこの都市そのものさ』

 

「あ?」

 

 阿佐部は顔に疑問符を浮かべる。

 私も、他の人間も反応は彼と大体同じだ。

 海上国家の管理人など聞いたことがない、今この海上国家は政治家が統治しているはずだ。

 モニターに世界地図が表示される。

 海に設立された4つの国家『碧斗』『ルナト同盟国』『帝都カテル』『バナハ島』それぞれの国がクローズアップされる。

 

『かつて、人類が屍械に敗北した時、その政治体系は滅茶苦茶だった。政治家は保身に走り、国民を守ろうともしなかった。その結果多くの国、人間が犠牲となり人類は海に逃げるしかなかった。海上国家はその反省を生かし、都市にそれぞれ管理人を創造したんだ、僕みたいなね』

 

「なんだよそれ、それじゃあお前は都市を管理するAIか何かだって言うのか?」

 

 なんだか話が壮大になってきたな。

 政治家の代わりに海上国家を管理する存在、この世界ってもしかして私が思っているよりSFちっくなのかもしれない。

 

『AI?違う違う、今の人類の技術じゃ高度な人工知能は作れないよ。僕はあくまでも生体ベースのプログラム、そうそこにいる月宮君の前身みたいなものだよ、まぁもっと大掛かりではあるけど』

 

 わ、私?

 会議室に集まった人たちの視線が私へと向けられる。

 その顔が嫌悪感に歪む、私への嫌悪感ではない、人間を兵器や道具のように利用することへの嫌悪感だ。

 

『複数の人間の脳と機械をつなぎ、都市そのものと一体化させる。そうやってできた意識によって管理される都市、それが海上国家であり、僕なのさ』

 

 あまりにも、荒唐無稽な話。

 でも少年は至って真面目にその事実を開示した。

 もしそれが本当の話ならば…………自分が生きている、立っているこの土地の成り立ちの罪深さに鳥肌が立つ。

 一体何人の犠牲によってこの都市は動いているんだ?

 そうまでして、管理する価値があるとでも言うのか。

 

『でも最近、管理人の意図を超越して人間が暴走することが増えているんだ。今回の事件のようにね。僕もカテルの管理人も戦争は望んでいないのに』

 

 今回の戦争騒動、あれは管理人の意図する事態ではなかったと言うことか。

 ではなぜ両国の軍は戦争を始めようとしてしまったんだ。

 なんの利益があって争う?

 

「ならなぜ今回の騒動が起こったのです?人類はいまだに屍械の脅威に晒されている、戦争する余裕なんてどこにもないはずですが」

 

 私がまさに疑問に思っていることを、他の軍人が聞いてくれた。

 

『確かに、屍械の脅威に晒されている限り人間同士で争っている場合じゃないよね。でも…………その前提が覆されたとしたら?』

 

 え……おい。

 ちょっと待て。

 今とんでもないことを言ったな。

 前提が崩される、それはつまり屍械が脅威ではなくなるということになると思うんだけど…………

 

『まずそもそもの話だけど、屍械ってなんで海を嫌うと思う?』

 

 あまりにもそもそもな話。

 屍械は海を嫌う、だから人類は海へ逃げ、海上に国家を建てているのだ。

 でも確かに奴らがなぜ海を嫌うのかその理由を私たちは知らない。

 

「なぜって…………機械生命だし、錆るのが怖いんじゃねぇの?」

 

 阿佐部が誰でも思いつく回答を口にする。

 

『屍械が嫌いなのが海水なら、都市を海水で覆ったり、海水を打ち出す兵器が有効になるだろうね。でもそれらは効果がなかった。屍械の弱点は海水ではないんだ』

 

 回答は否定される。

 でもそれなら、なぜ奴らは海を嫌うんだ。

 海が屍械にとって脅威になりえる理由が分からない。

 

『僕ら四大国家の管理人はその理由をずっと探してきた。海の何がそこまで屍械を怖がらせるのかをね』

 

 もしかして、その理由が、解明された、のか?

 

『カテルは海そのものではなく、海の中にある“何か”が屍械を恐怖させると考えたんだ。だから海底を捜査し、探した。そうして帝都カテルは“何か”を見つけた。少なくとも管理人たちはそう推測している』

 

 海の中で“何か”を見つけた?

 その話が本当だとするなら、それは人類の歴史さえ揺るがしかねない大発見だ。

 でも、そう推測したってことは……見つけた確証は得られていないのか。

 

『海底の捜索を命じたのはカテルの管理人だ。だが彼女には“何か”を見つけたという報告は上がっていない。人間によって隠されたのさ。利益を独占しようとする醜い欲によってね。今回の騒動はその“何か”の所有権をめぐって引き起こされた。それが僕たちの結論だ』

 

 屍械に対抗できるかもしれない“何か”、そんなものが本当に存在して一つの海上国家がそれを独占すると宣言した場合、巻き起こるのは……戦争だろう。

 それだけの価値が確かにそれにはあった。

 戦争を起こしてでも手に入れる価値が。

 それを独占した海上国家は他の国家に対し圧倒的な優位な立場を取ることができるのだから。

 

『帝都カテルに赴き、その“何か”の有無を調査して欲しい。そしてもしそんなものが存在するのであればそれは何なのか、その詳細もだ。これは碧斗、そして帝都カテルを管理する管理人からの依頼だよ』

 

 それは、人類の存続さえ左右しかねない作戦だった。

 




―――――――――――――――――――――――――――――――





管理人

海上国家を管理する存在。

複数の脳と機械によって構成された生体プログラムであり、国家の存続を最優先にプログラミングされている。

国家を統治しているのは政治家だが都市のインフラや緊急時の対応は管理人が担っている。

また、義体を使用し複数の場所に存在できる。

人間の味方のような言動をしているが、そもそも強化人間の研究にも一枚噛んでいる存在であり、彼らの善性をあまり信用しすぎない方がいい。

次回から帝都カテル編です。

だんだん物語の核心が明らかになってきましたね。

めちゃくちゃ&モヤモヤする展開が多くて申し訳ないです。

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